鉄棒の練習をしていた時です。順番に前回りを2回繰り返して、さあこれから3回目だという時に声がかかりました。
「あぁ疲れた」
なんだと?2回鉄棒やったくらいで疲れちちゃうのか?そう言えばプリントをしている時もそうでした。1枚終った時に疲れた、絵をひとつ書き終えた時も疲れた、粘土でお皿を作った時も、疲れた、と連発します。とにかく一区切りついた時にはとりあえず「疲れた」なのです。
大人が椅子に腰掛ける時「どっこいしょ」というのに何となく似ているニュアンスです。本来子どもは元気の塊みたいなもので、目一杯活動して夜になるとコロンと寝てしまうものではないでしょうか。
いつからこうなったのか、どうしてそうなるのか、そんな子が結構沢山います。
ある時、みんなで丸くなってしゃがみましょうと言ったことがありました。「しゃがむ」のは「座る」とは少し違って、床にお尻をつけません。
私がお手本の姿勢として見せたのは、相撲の仕切りの姿勢、つまり「蹲踞」そんきょです。
驚いたことに、この姿勢をまともにできる子は一人もいませんでした。誰もかかとが浮きません。和式トイレのスタイルです。重心がお尻の方にかかっていて、背中を曲げています。
こうだよ、ともう一度よく見せるとみんなやろうとしますがうまくいきません。つま先に体重を集めてうまくバランスをとることができないようです。
すぐに疲れちゃうことと何か関係があるかもしれませんね。 つづく
「あぁ疲れた」
なんだと?2回鉄棒やったくらいで疲れちちゃうのか?そう言えばプリントをしている時もそうでした。1枚終った時に疲れた、絵をひとつ書き終えた時も疲れた、粘土でお皿を作った時も、疲れた、と連発します。とにかく一区切りついた時にはとりあえず「疲れた」なのです。
大人が椅子に腰掛ける時「どっこいしょ」というのに何となく似ているニュアンスです。本来子どもは元気の塊みたいなもので、目一杯活動して夜になるとコロンと寝てしまうものではないでしょうか。
いつからこうなったのか、どうしてそうなるのか、そんな子が結構沢山います。
ある時、みんなで丸くなってしゃがみましょうと言ったことがありました。「しゃがむ」のは「座る」とは少し違って、床にお尻をつけません。
私がお手本の姿勢として見せたのは、相撲の仕切りの姿勢、つまり「蹲踞」そんきょです。
驚いたことに、この姿勢をまともにできる子は一人もいませんでした。誰もかかとが浮きません。和式トイレのスタイルです。重心がお尻の方にかかっていて、背中を曲げています。
こうだよ、ともう一度よく見せるとみんなやろうとしますがうまくいきません。つま先に体重を集めてうまくバランスをとることができないようです。
すぐに疲れちゃうことと何か関係があるかもしれませんね。 つづく
「宇宙、いらっしゃい。」
気がつくとママがそばに立っていた。
「餃子作るの手伝って。」
僕の肩を抱いて台所へ連れて行った。
丸い餃子の皮に具をスプーンで取り、指で水をつけながら包んでいく。ヒダを上手に作れるようになって僕の大好きなお手伝いになった。いつもママと楽しい会話をしながら競争で作る。
上手になる前は、僕の作った餃子はすぐに分かってお父さんにも笑われたものだった。
「これは爆発したのか?それともワンタンなのか?」
今はママとほとんど変わらない形に包める。
「うーむ、お前は料理の鉄人になれるかも知れない…」
なんてお父さんに言われたこともある。
そんな楽しいはずのお手伝いにも今日は手が動かなかった。ママが5個作る間に僕は何とか1つ、しかも形になっていない。ただ涙が落ちるのを必死にこらえていた。
ママは一人でしゃべっていた。
「餃子はねキャベツだけじゃなくて白菜も入れるのよ、中国人のお友達が教えてくれたの。その人今度ね小龍包も肉まんも教えてくれるって。ママ習ってきたら宇宙にも教えてあげるからね。宇宙は鉄人だからすぐに上手になるわよ。ショウロンポウっていうのはね、小さい肉まんみたいな物だけど、中にスープの煮こごりみたいのを入れてね、煮こごりって知ってる?…」
僕が黙っているのにママは一人でしゃべり続けていた。どうしたの?って聞かないで、いつも通りどんどん餃子を作り続けた。
僕はこらえきれなくなってママに抱きついた。わぁーんと大声を上げて泣いた。ママは僕の背中を何度も何度もそっとなでながら抱いていてくれた。 つづく
気がつくとママがそばに立っていた。
「餃子作るの手伝って。」
僕の肩を抱いて台所へ連れて行った。
丸い餃子の皮に具をスプーンで取り、指で水をつけながら包んでいく。ヒダを上手に作れるようになって僕の大好きなお手伝いになった。いつもママと楽しい会話をしながら競争で作る。
上手になる前は、僕の作った餃子はすぐに分かってお父さんにも笑われたものだった。
「これは爆発したのか?それともワンタンなのか?」
今はママとほとんど変わらない形に包める。
「うーむ、お前は料理の鉄人になれるかも知れない…」
なんてお父さんに言われたこともある。
そんな楽しいはずのお手伝いにも今日は手が動かなかった。ママが5個作る間に僕は何とか1つ、しかも形になっていない。ただ涙が落ちるのを必死にこらえていた。
ママは一人でしゃべっていた。
「餃子はねキャベツだけじゃなくて白菜も入れるのよ、中国人のお友達が教えてくれたの。その人今度ね小龍包も肉まんも教えてくれるって。ママ習ってきたら宇宙にも教えてあげるからね。宇宙は鉄人だからすぐに上手になるわよ。ショウロンポウっていうのはね、小さい肉まんみたいな物だけど、中にスープの煮こごりみたいのを入れてね、煮こごりって知ってる?…」
僕が黙っているのにママは一人でしゃべり続けていた。どうしたの?って聞かないで、いつも通りどんどん餃子を作り続けた。
僕はこらえきれなくなってママに抱きついた。わぁーんと大声を上げて泣いた。ママは僕の背中を何度も何度もそっとなでながら抱いていてくれた。 つづく
1分間見つめてください。
ただの木に見える人は正常です。
ちょっと顔に見えた人は病気になりかけています。
急いでバファリンかポポンSを飲めば回復します。
あちこちに顔が見えちゃった人は…
重症です。多分もう治りません。
ただの木に見える人は正常です。
ちょっと顔に見えた人は病気になりかけています。
急いでバファリンかポポンSを飲めば回復します。
あちこちに顔が見えちゃった人は…
重症です。多分もう治りません。
ここでさっきの実験を思い出してください。水が増えたり減ったりするあの実験です。
「ほーら、こうなった、おもしろいね」
と説明すると、子ども達から拍手が沸き起こりました。
「先生、手品うまーい!」
「オイオイ、これは手品じゃなくて実験なの!!」
実験なのにどうして手品になっちゃうのか、よく考えてみました。そして、ある結論に達しました。
それは、説明をする時の一つの言葉でした。
水位が高くなった時、
「ほーら、水がこんなに増えた」
太い容れ物に水を空け移した時、水位が下がるのを見て
「あらら、減っちゃった」
その言葉です!
だって、水の量は増えもしないし減りもしない。量が同じなのに高さだけが変わるのです。
水の量を変えてしまったり、消してしまったり、何も無い所から出したりしたら、それは手品です。
条件によって水位が変わるのを確かめる。それが実験なのです。
アルキメデスもそのことに気づいたから法則を発見できたのでしょう。
「ほーら、こうなった、おもしろいね」
と説明すると、子ども達から拍手が沸き起こりました。
「先生、手品うまーい!」
「オイオイ、これは手品じゃなくて実験なの!!」
実験なのにどうして手品になっちゃうのか、よく考えてみました。そして、ある結論に達しました。
それは、説明をする時の一つの言葉でした。
水位が高くなった時、
「ほーら、水がこんなに増えた」
太い容れ物に水を空け移した時、水位が下がるのを見て
「あらら、減っちゃった」
その言葉です!
だって、水の量は増えもしないし減りもしない。量が同じなのに高さだけが変わるのです。
水の量を変えてしまったり、消してしまったり、何も無い所から出したりしたら、それは手品です。
条件によって水位が変わるのを確かめる。それが実験なのです。
アルキメデスもそのことに気づいたから法則を発見できたのでしょう。
トントが応えなくなった。
最近元気の無くなったのが心配で、朝起きたら必ず声をかけた。
「はい大丈夫ですよ宇宙(ひろし)君」
って返事は必ずしてくれた。でも今日はそれがなかった。
足を縮めて丸くなって、そして動かなかった。
元気の無いトントに僕はあまり質問をしなかった。そっとしておいた方がいいと思ったからだ。今思えばもっともっと話しかければよかった。
トントは虫だけどずぅっと一緒だと思っていた。大人になってハートマンになってもずぅっとずっと一緒だと思っていた。僕の先生で、友達で、セクションの仲間で…僕をママ以上に知っている理解者だった。だからそれが当たり前だと思っていた。
「トント、これじゃただの虫じゃないか。」
動かないトントを手のひらに乗せ僕はつぶやいた。
「何で何も言わないで逝っちゃったの…。さよならくらい言ったっていいじゃないか。
そうなる運命だったのならきちんとそう説明してくれればいいのに。何時だってトントは冷静だったじゃないか。僕がパニックになりそうな時も、なだめるだけじゃなくきちんと説明してくれたのに。どうして自分のことは言わなかったんだ。そんなの変じゃないか。僕はこれからどうしたらいいの?どうしても聞きたいことがまだまだ沢山あるのに…。」
手のひらのトントをじっと見た。
目に光が無くなったトントをじっと見た。少し揺すってみた。
「大丈夫ですか宇宙君。」
そう言って突然起き上がるんじゃないかと思いながらしばらくそうしていた。
鼻の奥から何かが急に熱く溶け出してきて僕の全身を包んだ。包んだものは一瞬のうちに凍りつき僕の心をぎゅーっと締め付けた。手も足も冷たく鳥肌が立っているのに、目から火傷しそうに熱い滴が大量にこぼれ落ちた。 つづく
最近元気の無くなったのが心配で、朝起きたら必ず声をかけた。
「はい大丈夫ですよ宇宙(ひろし)君」
って返事は必ずしてくれた。でも今日はそれがなかった。
足を縮めて丸くなって、そして動かなかった。
元気の無いトントに僕はあまり質問をしなかった。そっとしておいた方がいいと思ったからだ。今思えばもっともっと話しかければよかった。
トントは虫だけどずぅっと一緒だと思っていた。大人になってハートマンになってもずぅっとずっと一緒だと思っていた。僕の先生で、友達で、セクションの仲間で…僕をママ以上に知っている理解者だった。だからそれが当たり前だと思っていた。
「トント、これじゃただの虫じゃないか。」
動かないトントを手のひらに乗せ僕はつぶやいた。
「何で何も言わないで逝っちゃったの…。さよならくらい言ったっていいじゃないか。
そうなる運命だったのならきちんとそう説明してくれればいいのに。何時だってトントは冷静だったじゃないか。僕がパニックになりそうな時も、なだめるだけじゃなくきちんと説明してくれたのに。どうして自分のことは言わなかったんだ。そんなの変じゃないか。僕はこれからどうしたらいいの?どうしても聞きたいことがまだまだ沢山あるのに…。」
手のひらのトントをじっと見た。
目に光が無くなったトントをじっと見た。少し揺すってみた。
「大丈夫ですか宇宙君。」
そう言って突然起き上がるんじゃないかと思いながらしばらくそうしていた。
鼻の奥から何かが急に熱く溶け出してきて僕の全身を包んだ。包んだものは一瞬のうちに凍りつき僕の心をぎゅーっと締め付けた。手も足も冷たく鳥肌が立っているのに、目から火傷しそうに熱い滴が大量にこぼれ落ちた。 つづく
もうひとつ、第三のポイントは、
水の入った容器に物を入れるとどうなるか?
ということです。問題のバリエーションとして、水の入った容器から中にあった物を取り出すとどうなるか、というものもあります。意味は同じです。
こうした課題はプリントではなく実際に目の前でやってみるのが一番です。子どもと一緒にお風呂でする実験はとても楽しいですね。
「ほーら、お母さんが入るとこーんなにお湯が増えちゃうよ」
「うわぁ、あふれちゃったぁ」
「今度は出るよ」
「あぁぁ、すっごくへっちゃったぁ」
自分の体積の分だけお湯が溢れます。アルキメデスの原理です。大人は子どもより大きい分だけ溢れるお湯の量が多いことに気が付きます。体がお湯を押しのけているからですね。
いろいろなサイズのコップとジュースのような色水を使った楽しい実験を繰り返した後、ペーパー問題をしてみますとみんなよく理解している!?
否!、そうでもないんです。
何となく分かったような分からないような、不思議な実験だったりします。
なぜ、どうして分かってくれないの? つづく
水の入った容器に物を入れるとどうなるか?
ということです。問題のバリエーションとして、水の入った容器から中にあった物を取り出すとどうなるか、というものもあります。意味は同じです。
こうした課題はプリントではなく実際に目の前でやってみるのが一番です。子どもと一緒にお風呂でする実験はとても楽しいですね。
「ほーら、お母さんが入るとこーんなにお湯が増えちゃうよ」
「うわぁ、あふれちゃったぁ」
「今度は出るよ」
「あぁぁ、すっごくへっちゃったぁ」
自分の体積の分だけお湯が溢れます。アルキメデスの原理です。大人は子どもより大きい分だけ溢れるお湯の量が多いことに気が付きます。体がお湯を押しのけているからですね。
いろいろなサイズのコップとジュースのような色水を使った楽しい実験を繰り返した後、ペーパー問題をしてみますとみんなよく理解している!?
否!、そうでもないんです。
何となく分かったような分からないような、不思議な実験だったりします。
なぜ、どうして分かってくれないの? つづく
黒島は沖縄の石垣島からフェリーで30分程の所にある。周囲12kmほどの珊瑚礁に囲まれた小さな島だ。
すぐ隣の竹富島は星砂で有名で、新婚のカップルがいつも沢山集まるが、黒島は人口も少なくほとんどが牛の放牧場で目立った観光もない。荒れていないきれいな珊瑚礁を求めてくるダイバー達の穴場になっている。
僕が思い出したのは、この黒島の形が「ハート」だったことだ。
アルバムの写真にはなかったけれど、挟んであったパンフレットに載っていた航空写真にはっきりとそのハート型が写っていた。
「やっぱりそうだ!」
去年の夏はお父さんだけが黒島に行った。僕も行く予定だったけど出発の2日前になって体にポツポツと腫れ物ができた。プールの友達がみんななったのでママが心配していた水疱瘡だった。
「こりゃダメだなぁ。しょうがないから宇宙達は留守番だ。飛行機はキャンセルだな。」
ママもすごくがっかりしてた。
「海がとってもきれいなのよう、宇宙もきっと驚くわよ。行きたかったわぁ。」
ってお父さんが行ってしまってからも、何度も何度も言っていた。
「ほら、お土産のマンゴーとシークワァーサー、美味いぞ。」
お父さんが帰ってきた日、お土産と一緒に受け取ったパンフレットがそれだ。初めはそんなデザインかと思ったけど、本当にハート型の島だって分かったときは驚いた。面白い島があるんだなって思ったことをよく覚えていた。
アルバムの写真を一枚一枚ゆっくりと見ていった。思った通りやっぱり不思議な写真はあった。
石垣にはめ込まれたハート石…
それはセクションの入り口だ! つづく
(写真はネットからお借りしました)http://www.kuroshima.net/
すぐ隣の竹富島は星砂で有名で、新婚のカップルがいつも沢山集まるが、黒島は人口も少なくほとんどが牛の放牧場で目立った観光もない。荒れていないきれいな珊瑚礁を求めてくるダイバー達の穴場になっている。
僕が思い出したのは、この黒島の形が「ハート」だったことだ。
アルバムの写真にはなかったけれど、挟んであったパンフレットに載っていた航空写真にはっきりとそのハート型が写っていた。
「やっぱりそうだ!」
去年の夏はお父さんだけが黒島に行った。僕も行く予定だったけど出発の2日前になって体にポツポツと腫れ物ができた。プールの友達がみんななったのでママが心配していた水疱瘡だった。
「こりゃダメだなぁ。しょうがないから宇宙達は留守番だ。飛行機はキャンセルだな。」
ママもすごくがっかりしてた。
「海がとってもきれいなのよう、宇宙もきっと驚くわよ。行きたかったわぁ。」
ってお父さんが行ってしまってからも、何度も何度も言っていた。
「ほら、お土産のマンゴーとシークワァーサー、美味いぞ。」
お父さんが帰ってきた日、お土産と一緒に受け取ったパンフレットがそれだ。初めはそんなデザインかと思ったけど、本当にハート型の島だって分かったときは驚いた。面白い島があるんだなって思ったことをよく覚えていた。
アルバムの写真を一枚一枚ゆっくりと見ていった。思った通りやっぱり不思議な写真はあった。
石垣にはめ込まれたハート石…
それはセクションの入り口だ! つづく
(写真はネットからお借りしました)http://www.kuroshima.net/
星見ちゃん家で焼尻島の写真をたくさん見せてもらったけれど、おじさんに聞こうとしたあの写真のことは、曖昧になってしまった。おやつをご馳走になりながら星見ちゃんが始めたフラダンスにみんなで大笑い。涙を流して盛り上がってしまったんだ。
この事は今度おじさんにしっかりと聞いてみなければいけないと思っている。
家に帰る途中一つの可能性を思いついて僕は走り出した。
「ただいまー。」
玄関で大きな声を出し、そのままお父さんの書棚に向かった。
「なーに、宇宙(ひろし)なの?ドタバタしないで、靴ちゃんと片付けてねぇ」
リビングで掃除機をかけていたママが応えた。
写真のアルバムを何冊か持ち出してトントの所へ持って行った。
「ねえトント…。」
床にアルバムを広げ、トントに話しかけた。最近トントはあまり話をしたがらない。向こうから僕に話しかけてくることもほとんどない。僕が話しかけても、ハイ、とか、分かりません、とかしか言わない。普段もじっとして動かないことが多い。病気なのかちょっと心配だ。
僕が見たかったのは、お父さんの田舎だという黒島の写真だ。
お父さんと星見ちゃんのおじさんは同じ「島育ち」なので話が合うと言っていた。お父さんは北海道の焼尻島ではなくて、沖縄の島だ。僕は赤ちゃんの時一回行っただけで、どんなところかまだ知らない。
何枚か見ていくうちに可能性は確信に変わっていった。
「やっぱりそうだ!」 つづく
写真はネットからお借りしましたhttp://www.kuroshima.net/
この事は今度おじさんにしっかりと聞いてみなければいけないと思っている。
家に帰る途中一つの可能性を思いついて僕は走り出した。
「ただいまー。」
玄関で大きな声を出し、そのままお父さんの書棚に向かった。
「なーに、宇宙(ひろし)なの?ドタバタしないで、靴ちゃんと片付けてねぇ」
リビングで掃除機をかけていたママが応えた。
写真のアルバムを何冊か持ち出してトントの所へ持って行った。
「ねえトント…。」
床にアルバムを広げ、トントに話しかけた。最近トントはあまり話をしたがらない。向こうから僕に話しかけてくることもほとんどない。僕が話しかけても、ハイ、とか、分かりません、とかしか言わない。普段もじっとして動かないことが多い。病気なのかちょっと心配だ。
僕が見たかったのは、お父さんの田舎だという黒島の写真だ。
お父さんと星見ちゃんのおじさんは同じ「島育ち」なので話が合うと言っていた。お父さんは北海道の焼尻島ではなくて、沖縄の島だ。僕は赤ちゃんの時一回行っただけで、どんなところかまだ知らない。
何枚か見ていくうちに可能性は確信に変わっていった。
「やっぱりそうだ!」 つづく
写真はネットからお借りしましたhttp://www.kuroshima.net/