僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

動かないトント

2006年09月09日 | SF小説ハートマン
トントが応えなくなった。
最近元気の無くなったのが心配で、朝起きたら必ず声をかけた。

「はい大丈夫ですよ宇宙(ひろし)君」
って返事は必ずしてくれた。でも今日はそれがなかった。
足を縮めて丸くなって、そして動かなかった。

元気の無いトントに僕はあまり質問をしなかった。そっとしておいた方がいいと思ったからだ。今思えばもっともっと話しかければよかった。
トントは虫だけどずぅっと一緒だと思っていた。大人になってハートマンになってもずぅっとずっと一緒だと思っていた。僕の先生で、友達で、セクションの仲間で…僕をママ以上に知っている理解者だった。だからそれが当たり前だと思っていた。

「トント、これじゃただの虫じゃないか。」

動かないトントを手のひらに乗せ僕はつぶやいた。
「何で何も言わないで逝っちゃったの…。さよならくらい言ったっていいじゃないか。
そうなる運命だったのならきちんとそう説明してくれればいいのに。何時だってトントは冷静だったじゃないか。僕がパニックになりそうな時も、なだめるだけじゃなくきちんと説明してくれたのに。どうして自分のことは言わなかったんだ。そんなの変じゃないか。僕はこれからどうしたらいいの?どうしても聞きたいことがまだまだ沢山あるのに…。」

手のひらのトントをじっと見た。
目に光が無くなったトントをじっと見た。少し揺すってみた。
「大丈夫ですか宇宙君。」
そう言って突然起き上がるんじゃないかと思いながらしばらくそうしていた。

鼻の奥から何かが急に熱く溶け出してきて僕の全身を包んだ。包んだものは一瞬のうちに凍りつき僕の心をぎゅーっと締め付けた。手も足も冷たく鳥肌が立っているのに、目から火傷しそうに熱い滴が大量にこぼれ落ちた。    つづく
コメント (3)
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