「炉開きと口切の会」の閉めは、N氏の骨董鑑賞会です。
昨年は「古染付」でしたが、今年は「伊万里に魅せられて」と題して初期伊万里から明治期の印判手まで時代を追って、伊万里焼の歴史、見どころや特徴などをお話してくださいました。
折角の機会なので、暁庵も伊万里焼についてウンウン勉強しながら鑑賞作品をご紹介します(汗)。
① 「伊万里焼(いまりやき)」とは、「古伊万里」とは
日本で磁器が本格的に焼かれるようになったのは、約400年前の豊臣秀吉の朝鮮出兵後の有田(現在の佐賀県有田町)が最初だといわれています。
有田周辺で焼かれた磁器は伊万里津(津とは港の意味です)に運ばれ、船で積み出されました。伊万里から積み出されたため「伊万里焼」と呼ばれるようになりました。有田のほか、三川内焼、波佐見焼、鍋島焼などを含みます。
現在、当時の伊万里焼と現代の伊万里焼を区別するため、江戸時代に焼かれたものは「古伊万里」と呼ばれています。
② 初期伊万里
1610年~1630年代頃までの初期製品を「初期伊万里」と称し、次のような特徴や歴史があります。
(1)「生掛け」技法・・・白磁に青一色で模様を表した染付磁器が主で、絵付けの前に素焼を行わない「生掛け」技法を用いている点が特色です。
(2)「砂目積み」技法・・・窯焼き時に製品同士の熔着を防ぐために砂を挟む技法が使われている。中国製の磁器にはみられない朝鮮独特の技法なので、朝鮮から渡来の陶工が携わったと考えられます。
(3)一方で当時の朝鮮半島の磁器は、器面に文様のない白磁であったので、呉須(コバルトを主原料とする絵具)で文様を描く染付の技法や意匠は中国由来(中国出身の陶工作)と考えられます。
(4)初期伊万里は絵付けの発色が安定せず、生地も厚く歪みや押指の跡が残るなど粗雑な部分があり、次第に九谷焼や柿右衛門焼などに押され市場から姿を消していきます。
しかし後に1960年頃より「初期伊万里」の素朴な美しさや叙情美が再評価され、流通量の少なさから希少性が高く高値で珍重されるようになりました。
③ 「古九谷様式」あるいは「初期色絵」
1640年代には有田西部の山辺田窯(やんべたがま)などで色絵磁器の生産が始まり、国内向けの大皿などの色絵磁器が生産されました。これらは、加賀(石川県)の九谷が産地であると長年考えられていたことから「古九谷」と称され、現代では「古九谷様式」あるいは「初期色絵」と称されています。
④ 「鍋島様式」あるいは「鍋島焼」
1640年頃から鍋島藩が将軍や諸大名への贈答用高級磁器を製造する藩窯の生産を開始し、この藩窯製品を、「鍋島様式」あるいは「鍋島焼」と呼んでいます。
(右:初期伊万里 左下:鍋島焼 左上:初期色絵(古九谷様式))
⑤ 輸出品
中国では1644年に明が滅亡し、清へ。1656年に清により商船の航行が禁止され、中国陶磁の輸出が一時途絶えてします。
この間にオランダ商館長ツァハリアス・ヴァグナーから中国製陶磁器を見本としてヨーロッパ人の好みに合う製品の制作依頼があり、伊万里焼の海外への輸出が始まりました。ヨーロッパへは伊万里津(港)から長崎の出島へ向かい、そこのオランダ商館を通じて輸出されました。
当時のヨーロッパでは神秘的な東洋への憧れがあり、部屋を東洋の焼き物で飾ることが王族や貴族に流行していたとか。
(輸出品の古伊万里のワインのデカンタ(?)で、近年、日本へ里帰りの一品)
初期伊万里はシンプルな文様が多いのですが、徐々に器を埋め尽くすような唐草文、網手文なども人気を博しました。緻密な手描きの文様は職人技の真骨頂でした。
(精密な手描きの文様が素晴らしい古伊万里の大皿(取っ手が珍しい一品))
「印判」技法は写し(印刷)のことで、「摺絵(ずりえ)」「転写」などの方法があります。
摺絵は文様を彫った型紙を器面にあてて、刷毛などで絵具を付着させる方法。転写は銅版を使ったエッチングの技法で、顔料も“ベロ藍”というものを用い鮮明な発色が得られるようになっていきます。
印判は肥前で明治初期に始まり、その後、美濃や砥部など全国の磁器生産地に広がっていきました。
(印判の日本地図の大皿(明治初期?))
(十一代今泉今右衛門の錦地文菓子鉢)
(手描きの染付? それとも印判手? う~~ん?・・・正解は印判手でした)
「初期伊万里」の素朴な抒情美が愛されるように、印判の微妙なずれを見つけ、それを不完全な美として愛でるコレクターも多いとか・・・。
伊万里焼に魅せられる人たちの深遠な心のうちは凡人の暁庵にはなかなか測り知れないのであります・・・。
こうして2021年「炉開きと口切の会」の骨董鑑賞会は貴重な古伊万里を手に取って見せて頂くという、贅沢な時間となり、皆で熱心に鑑賞しました。大物のコレクションを運び込み、惜しげなく見せてくださったN氏に深く感謝いたします。
N氏はもちろん古伊万里たちも久しぶりの展示解説に身を正し、興奮し、飛び上がって喜んでいることでしょう。
ありがとうございました!!
再び、お茶事などで貴重な品々にお目にかかれますように切に願っています・・・。 (この章終わり)