東京大学の生産技術研究所はネオジム磁石からネオジムなどを回収する技術を発表しました。
生産技術研究所は、ハイブリッド自動車の電動モーターやハードディスク駆動装置(HDD)の駆動モーターなどに用いられているネオジム・鉄・ホウ素(Nd・Fe・B)の高性能磁石から「ネオジムやディスプロシウム(Dy)を回収する技術を開発した」と発表しました。ディスプロシウムは、ネオジム・鉄・ホウ素高性能磁石の耐熱性を高めるために添加されているレアメタルです(レアメタルの鉱石原料がレアアースです)。
発表者はレアメタルの第一人者としてNHK(日本放送協会)などのテレビ番組や希少金属などの講演会で引っ張りだこの岡部轍(とおる)教授です。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/05/29da4cbb9da70c7b40ae7b84d00f9b0a.jpg)
岡部さんは電気自動車やハイブリッド自動車などを「走るレアメタル」などと名付け、レアメタル・レアアースのリサイクル技術の重要性を説いている学者です。今回は、廃棄されたハイブリッド自動車の電動モーターなどを回収した後に、この中からネオジム・鉄・ホウ素高性能磁石をまず回収し、この磁石から主成分のネオジムや添加物のディスプロシウムを「廃液を出さすに巧みに回収する技術を開発した」とのことでした。
この回収技術はチタンなどの非鉄精錬を学んだ方でないとなかなか理解は難しいものです。基本原理は塩化マグネシウム(MgCl2)のガスを磁石に当てて、還元反応によって、塩化ネオジムと塩化ディスプロシウムの液体や固体として回収するものです。この還元処理を施されたネオジム・鉄・ホウ素高性能磁石は、鉄とホウ素が残ったスクラップとなります。このスクラップは鉄(鋼)の精錬素材に回します。この話は難しいのでここまでです。
岡部教授は例え話を交えて記者たちに分かりやすく説明しましたが、金属の還元反応を知らない非専門家にはやはり中身が難しかったようです。発表後の記者からの質問では「レアアースの備蓄は事業として成立するか」などの前提条件を無視した質問が相次ぎました。岡部さんは「レアアース・レアメタルが高騰している現在は、備蓄すべきではないが、価格が暴落したら日本は国家としてリスクヘッジとして備蓄した方がいい」とお答えになりました。
ここでいうレアアースの暴落とは、10年以上先の話だと思います。中国がレアアースの97%を支配し、その輸出規制を強めている事態に対して、米国企業は米国内にあるマウンテンパスという有名なレアアース鉱山の再稼働を試みています。中国のレアアースの低価格攻勢に閉山を余儀なくされた鉱山です。現在、レアアース鉱山の再稼働や新鉱山開発が急ピッチで進められています。このまま進行して、中国以外の鉱山が稼働し始めると、レアアース価格は暴落します。ここで重要なことは、日本は20年~30年間の長期戦略を立て、実践することです。賢い日本になれるかどうかは分かりません。
「レアメタルのリサイクル事業は採算がとれますか」という記者からの質問に対しては、岡部さんは「モーターの銅線などを回収することは銅のリサイクルとして採算がとれるが、その後のネオジム・鉄・ホウ素高性能磁石からネオジムやディスプロシウムを回収する事業は採算がとれないとみている」とお答えになりました。現時点では、銅や金、白金などの貴金属系の回収は採算がとれますが、レアメタルの回収は採算がとれる見通しが立っていません。厳密にいえば、採算がとれる見通しは立ちそうもないとの見解が多数派です。ここで大事なことは国家戦略としてレアメタル回収事業を実施して備蓄することです。20年~30年間のレアアース・レアメタル価格の乱高下に対するリスクヘッジとしての対策です。
岡部さんはレアアースをもし備蓄する時は「資源量などの点から、ロジウム(Rh)、テルビウム(Tb)、ユーロピウム(Eu)の順に進めることを提案している」と語りました。
今回、日本を代表する新聞やテレビの編集記者が岡部さんに質問した内容はレアアース・レアメタル問題を理解するには時間がかかると感じさせるものばかりでした。苦笑したのは、ネオジム・鉄・ホウ素高性能磁石の実物を手に載せた某記者が「ディスプロシウムはどこにあるのですか」と質問したことでした。合金成分として含まれているということの意味が理解できていないためでした。この点で、最近のレアアース・レアメタル騒動は、レアメタルについての専門記者の出番であり、その責任は大きいと感じました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/13/a6e004bd7f9fabc67cc73ba27c36d373.jpg)
上はディスプロシウムの原料です。ネオジム・鉄・ホウ素高性能磁石をつくる際に添加するものだそうです(たぶん砕いて添加するのでは?)。岡部研究室の方に純度を質問したら、知らないとの答えでした。
数年前から日本の製造業は「リサイクル設計に本気で取り組まないと、レアメタルのリサイクル事業コストは計算できない」と、いろいろな場で訴えてきましたが、ほとんど浸透していません。レアアース・レアメタルの専門家が集まる場でしか説明できていないからです。実際にリサイクル設計に取り組む日本企業が登場するのは何年後なのか、現時点では予想できません。
(今回、この文章を書いていて、中学生の時に元素記号を覚えた際に、金(Au)やHg(水銀)より後半部分の元素は何に使うのか疑問を持ったことを思い出しました)。
生産技術研究所は、ハイブリッド自動車の電動モーターやハードディスク駆動装置(HDD)の駆動モーターなどに用いられているネオジム・鉄・ホウ素(Nd・Fe・B)の高性能磁石から「ネオジムやディスプロシウム(Dy)を回収する技術を開発した」と発表しました。ディスプロシウムは、ネオジム・鉄・ホウ素高性能磁石の耐熱性を高めるために添加されているレアメタルです(レアメタルの鉱石原料がレアアースです)。
発表者はレアメタルの第一人者としてNHK(日本放送協会)などのテレビ番組や希少金属などの講演会で引っ張りだこの岡部轍(とおる)教授です。
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岡部さんは電気自動車やハイブリッド自動車などを「走るレアメタル」などと名付け、レアメタル・レアアースのリサイクル技術の重要性を説いている学者です。今回は、廃棄されたハイブリッド自動車の電動モーターなどを回収した後に、この中からネオジム・鉄・ホウ素高性能磁石をまず回収し、この磁石から主成分のネオジムや添加物のディスプロシウムを「廃液を出さすに巧みに回収する技術を開発した」とのことでした。
この回収技術はチタンなどの非鉄精錬を学んだ方でないとなかなか理解は難しいものです。基本原理は塩化マグネシウム(MgCl2)のガスを磁石に当てて、還元反応によって、塩化ネオジムと塩化ディスプロシウムの液体や固体として回収するものです。この還元処理を施されたネオジム・鉄・ホウ素高性能磁石は、鉄とホウ素が残ったスクラップとなります。このスクラップは鉄(鋼)の精錬素材に回します。この話は難しいのでここまでです。
岡部教授は例え話を交えて記者たちに分かりやすく説明しましたが、金属の還元反応を知らない非専門家にはやはり中身が難しかったようです。発表後の記者からの質問では「レアアースの備蓄は事業として成立するか」などの前提条件を無視した質問が相次ぎました。岡部さんは「レアアース・レアメタルが高騰している現在は、備蓄すべきではないが、価格が暴落したら日本は国家としてリスクヘッジとして備蓄した方がいい」とお答えになりました。
ここでいうレアアースの暴落とは、10年以上先の話だと思います。中国がレアアースの97%を支配し、その輸出規制を強めている事態に対して、米国企業は米国内にあるマウンテンパスという有名なレアアース鉱山の再稼働を試みています。中国のレアアースの低価格攻勢に閉山を余儀なくされた鉱山です。現在、レアアース鉱山の再稼働や新鉱山開発が急ピッチで進められています。このまま進行して、中国以外の鉱山が稼働し始めると、レアアース価格は暴落します。ここで重要なことは、日本は20年~30年間の長期戦略を立て、実践することです。賢い日本になれるかどうかは分かりません。
「レアメタルのリサイクル事業は採算がとれますか」という記者からの質問に対しては、岡部さんは「モーターの銅線などを回収することは銅のリサイクルとして採算がとれるが、その後のネオジム・鉄・ホウ素高性能磁石からネオジムやディスプロシウムを回収する事業は採算がとれないとみている」とお答えになりました。現時点では、銅や金、白金などの貴金属系の回収は採算がとれますが、レアメタルの回収は採算がとれる見通しが立っていません。厳密にいえば、採算がとれる見通しは立ちそうもないとの見解が多数派です。ここで大事なことは国家戦略としてレアメタル回収事業を実施して備蓄することです。20年~30年間のレアアース・レアメタル価格の乱高下に対するリスクヘッジとしての対策です。
岡部さんはレアアースをもし備蓄する時は「資源量などの点から、ロジウム(Rh)、テルビウム(Tb)、ユーロピウム(Eu)の順に進めることを提案している」と語りました。
今回、日本を代表する新聞やテレビの編集記者が岡部さんに質問した内容はレアアース・レアメタル問題を理解するには時間がかかると感じさせるものばかりでした。苦笑したのは、ネオジム・鉄・ホウ素高性能磁石の実物を手に載せた某記者が「ディスプロシウムはどこにあるのですか」と質問したことでした。合金成分として含まれているということの意味が理解できていないためでした。この点で、最近のレアアース・レアメタル騒動は、レアメタルについての専門記者の出番であり、その責任は大きいと感じました。
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上はディスプロシウムの原料です。ネオジム・鉄・ホウ素高性能磁石をつくる際に添加するものだそうです(たぶん砕いて添加するのでは?)。岡部研究室の方に純度を質問したら、知らないとの答えでした。
数年前から日本の製造業は「リサイクル設計に本気で取り組まないと、レアメタルのリサイクル事業コストは計算できない」と、いろいろな場で訴えてきましたが、ほとんど浸透していません。レアアース・レアメタルの専門家が集まる場でしか説明できていないからです。実際にリサイクル設計に取り組む日本企業が登場するのは何年後なのか、現時点では予想できません。
(今回、この文章を書いていて、中学生の時に元素記号を覚えた際に、金(Au)やHg(水銀)より後半部分の元素は何に使うのか疑問を持ったことを思い出しました)。