まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

米国会社法の債権者保護

2011-05-22 20:27:54 | 商事法務

  日本の会社法にはいろいろの債権者保護の規定がありますが、現実的には殆ど機能していませんね。株式会社の債権者保護について簡単に纏めると以下ですね。①会社情報の開示(BS等の公告=440条、債権者の計算書類の謄写閲覧権=442)と②会社財産の流失防止という視点ですね。後者は具体的な規制として、1)出資の払戻禁止、2)剰余金分配規制=財源規制、3)蛸配当受領の株主と関与取締役の会社への支払い義務(=462条:規定だけの話で実際上責任を負う株主はまずいませんが。4631項)、4)債権者の株主への支払い請求権(4632項)、5)企業再編(株式交換・移転の場合は例外を除き不要)のときなどの異議申述催告などですね。この辺の事は、2007年2月7日のブログ「会社法の債権者保護規定について」などをご覧下さい。

  今回は、米国の会社法ではどのように債権者保護が規定されているのかについてです。「米国会社法」(有斐閣)という本が本屋さんにあったので購入して読んでみました。そこには、以下のように記載されていました。「債権者も株主も会社に対して法的権利を有している点では共通するが、大きく異なるのは、請求権として追及し得る金額が変動するという点で基本的に株主が不確定な請求権者であるのに対し、債権者はより確定的な請求権者であるという点である。債権者は、--固定された請求権者である。一方、株主は会社の残余財産に対してのみ請求権を主張できる」等と記載されていました。

  また日本の学者でも、以下のような事を言われている人がいます。「会社法が一般債権者の保護のために特別な規定を置いているのは,なぜかと言えば、それは、会社法には社員(=株主)は、会社財産について債権者に劣後する地位にあるという特別なルールがあるので、そのルールを潜脱するような会社の行為を防止するためです。即ち、会社が解散して会社財産を分配するときには、まず債権者が配分を受け、その後残余財産を社員で分配するというルールを守るのが嫌になって、会社が解散する前に、社員に対し財産を流出させ、社員を債権者よりも事実上優先させてしまうようなことを防止したいのです。」

  相変わらずピントがぼけたこと言う人が多いですね。なぜ、事業継続中の債権者と、解散決議をした後=事業終了後の債権者への支払いを済ませた後で、通常は一文も戻ってこない、残余財産分配請求権とを比べているのでしょうか。時間軸と前提が異なるものを同列にどうして比べるのでしょうね。

  米国の会社法の債権者保護の規定ですが、結論を先に言いますと、保護と言えるほどの規定は無いですね。模範事業会社法とデラウェア州会社法の関連規定を見てみましょう。

・模範事業会社法では以下ですね。

§ 6.40. DISTRIBUTIONS TO SHAREHOLDERS

(c) No distribution may be made if, after giving it effect:

(1) the corporation would not be able to pay its debts as they become due in the usual course of business; or

(2) the corporation’s total assets would be less than the sum of its total liabilities plus (unless the articles of incorporation permit otherwise) the amount that would be needed, if the corporation were to be dissolved at the time of the distribution, to satisfy the preferential rights upon dissolution of shareholders whose preferential rights are superior to those receiving the distribution.

上記のとおり、多少日本よりも実際的ですね。債務を支払えなくなるような剰余金分配はしてはいけないと禁止(may not)していますね。

Delaware 州のGENERAL CORPORATION LAWでは以下ですね

§ 170. Dividends; payment; wasting asset corporations.

(a) The directors of every corporation, subject to any restrictions contained in its certificate of incorporation, may declare and pay dividends upon the shares of its capital stock either:

(1) Out of its surplus, as defined in and computed in accordance with §§ 154 and 244 of this title; or

(2) In case there shall be no such surplus, out of its net profits for the fiscal year in which the dividend is declared and/or the preceding fiscal year.

剰余金から配当をしてよい。剰余金が無くても当該期・直前期の純利益より配当してよいとしています。この剰余金が曲者ですね。Delaware会社法では、資本剰余金(Csapital Surplus)と利益剰余金(Retained Earnings or Surplus)を区別していません。また、例えば1株US$100を払込金額として新株発行しても、資本金は日本のように半分という規制はありませんので、1セントだけ資本金(税金は資本金に対してかかるので、資本金を少なくするのが普通です)にして、US$99.99を剰余金にすることもできますね。

債権者保護の規定がありません。しかし勿論会社法上の保護規定が無いだけで、契約(UCCUniform Commercial Code)遵守されれば別に会社法に規定が無くても良いのですね。


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