○ 日本の会社法には取締役の会社に対する責任として善管注意義務を定めています。会社法330条(委任の規定に従う)→民法644条に規定されていますね。また会社法355条には、「会社のために忠実にその職務を行わなければならない」として忠実義務を定めています。判例・通説は善管注意義務と忠実義務は同じだとみていますので、ここでは「善管注意義務」として話を進めましょう。この義務の違反の場合には、取締役は会社に対して損害賠償義務を負います(法423条)。一方、これに類似・相当する義務として米国では判例法を基に発展したBusiness Judgment Rule(経営判断の原則)がありますね。経営判断の原則とは、取締役が会社の利益の為に最善を尽くして意思決定をしたにも拘わらず、例えば想定外の事(リーマンショック等)が発生し、会社が損失を被ったとしても、裁判官は経営者のした決定に判断を加えることは控えるべきだという考え方ですね。 ○ 善管注意義務とかBusiness Judgment Ruleとか言っても、具体的に何なの?ですね。具体的にどういったケースで問題になったのか、裁判になった例を見てみましょう。結構M&Aや株式がらみで争われた例があるようです。 【日本の例】 日本サンライズ事件:建物賃貸業者が投資顧問業者と投資一任契約を締結し株式投資を行い多額の損失を被り、借入金の返済も出来なくなった事例。 判例趣旨:「専門家である投資顧問業者に任せれば株式取引によって利益が上げられるものと軽信」「取締役は、会社に対し、会社の資力及び規模に応じて会社を存亡の危機に陥れないように経営を行うべき善管注意義務を負っているのであり、新規事業については、会社の規模、事業の性質、営業利益の額等に照らし、その新規事業によって回復が困難ないし不可能なほどの損失を出す危険性があり、かつ、その危険性を予見することが可能である場合には、その新規事業をあえておこなうことを避止すべき善管注意義務を負うべきものと言うべきである」 【米国の例】 Trans Union Corp.事件(Smith v.Van Gorkom,488 A.2d 858(Del.1985):Trans Union(=消滅会社側・租税削減目的)が、Marmon Group Inc.の完全子会社であるNew T Companyとの締め出し合併(freeze out merger=現金を対価として少数株主を追い出す合併)したことに対して、Trans Unionの株主が、合併取消、取締役等に損害賠償をもとめたもの。 Trans Unionの会長兼CEOのVan GorkomがMarmon社オーナーのPritzkerと合併合意、PritzkerがTrans Union取締役会が3日以内に合併承認決議をすることを条件としたため、急遽開催したが、議題の事前詳細説明・資料無くVan Gorkom口頭説明のみで承認可決したもの。その後総会で可決。 取締役は、1株当たりの売却価格に関する根拠等について十分は情報も無しに承認したことは重過失(gross negligence)が認められ適切な経営判断ではなかったとされたもの。 ○ 善管注意義務と経営判断原則の関係、あるいはこの原則を日本にどのような形で導入すべきか学者の中に様々な意見があるようです。ちょっと変な議論ですね。会社法で条文のある善管注意義務は忠実義務と同じあるとか言っている人が、条文の規定の無い経営判断原則を日本でどうしようとしているのでしょうか?日本は、善管注意義務、米国は経営判断の原則と整理してしまえばそれで済むと思うのですが。まあ、私に取ってはあまり意味のある議論とは思いませんね。 ○ Business Judgment Ruleは米国の判例法理で発展したものですが、模範事業会社法の§ 8.31 STANDARDS OF LIABILITY FOR DIRECTORSでは以下のように規定されています。 (a) A director shall not be liable to the corporation or its shareholders for any decision to take or not to take action, or any failure to take any action, as a director, unless the party asserting liability in a proceeding establishes that: (1) 省略 (2) the challenged conduct consisted or was the result of: (i) action not in good faith; or (ii) a decision (A) which the director did not reasonably believe to be in the best interests of the corporation, or (B) as to which the director was not informed to an extent the director reasonably believed appropriate in the circumstances; or (iii) a lack of objectivity due to the director’s familial, financial or business relationship with, or a lack of independence due to the director’s domination or control by, another person having a material interest in the challenged conduct (A) which relationship or which domination or control could reasonably be expected to have affected the director’s judgment respecting the challenged conduct in a manner adverse to the corporation, and (B) after a reasonable expectation to such effect has been established, the director shall not have established that the challenged conduct was reasonably believed by the director to be in the best interests of the corporation; or (iv) a sustained failure of the director to devote attention to ongoing oversight of the business and affairs of the corporation, or a failure to devote timely attention, by making (or causing to be made) appropriate inquiry, when particular facts and circumstances of significant concern materialize that would alert a reasonably attentive director to the need therefore; or (v) receipt of a financial benefit to which the director was not entitled or any other breach of the director’s duties to deal fairly with the corporation and its shareholders that is actionable under applicable law.
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます