○ 会社法108条には、異なる種類の株式についての規定があります。1項3号には議決権行使条項付株式、即ち、株主総会において議決権を行使することができる事項について異なる定めのある種類の株式を発行できると規定されています。また、9号には、取締役・監査役(=役員)選任権付株式、即ち、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任する定めの株式を発行できると規定されています。
○ 3号と9号は、あたかも別の種類の株式のような規定をしています。しかし、役員選任権付株式は、3号の議決権行使条項付株式の一つの種類と考えればいいですね。行使条項付株式の議決権の内容を、役員選任権にすれば間に合うことです。9号を規定する意味は殆どありません。これは、9号については、委員会設置会社及び公開会社は、役員選任権付株式は発行できない事を規定する為に、わざわざ設けたのだろうと思います。委員会設置会社は、当然指名委員会がありますし、公開会社については所有と経営の分離ということで、特定の株主に選任権を与えるのが不適切と考えたためだろうと思います。(他に、4号の譲渡制限株式については、単に株式の属性であるのに、種類株式であるかのような規定の仕方は、全くおかしい事は既に別のところで述べました)
○ 役員選任権付株式は、ベンチャーキャピタル(VC)等が、自己の利益の確保を狙って取締役を派遣する為に米国で発達しました。創業者等が議決権の過半数等を有しており、優良ベンチャーなので、なんとか株式を取得したいが、取得価額が高くて持株比率とリスクを上げられないVCとの力関係で、せめて取締役を派遣したいVCと、業界でベンチャー企業育成の実績ある人なら受入れる会社との間の妥協の産物ですね。もっとも米国の株主総会の決議事項は、通常は取締役選任だけで、剰余金の分配は取締役会決議事項ですから、取締役を派遣すれば、剰余金の分配でもその会社内で圧力をかけることが出来るわけですね。
○ 合弁企業やベンチャー企業等で、この種類株式の株主の利益を代弁してくれる者を必ず選任したい場合に発行される場合が考えられると言われています。少数株主の利益を守るための規定です。議決権の過半数をもっている多数派株主は、その有する議決権行使で役員を選任できますからね。合弁契約で、役員の指名は出資比率に応じて行い、指名された役員が選任されるように議決権を行使する旨の条項を入れますが、これを制度的に株式の内容として取り込んだものです。
○ 役員選任権付株式を多数の株主に発行すると、普通株と同じようになりますね。この株式は、特定少数者に向けてしか発行出来ないですね。例えば創業者一族等に限定して、この種類株主は取締役3名選任、普通株主は2名選任ということになるのでしょう。あるいは、創業者に1株だけ発行しても良いわけですね。
・ 例えば、資本金5億円 (払込額全額資本金の場合)発行価額5万円/株 1万株発行のときに、A社:創業者B=80%:20%とするときは、1万株を同種の株式にしてそれぞれ引き受け、創業者Bに役員選任権付株式を1株発行すればいい訳ですね。
―この種の株式の株価はどのように算定すればよいのでしょうか。よくわかりませんね。
○ まあ、この種の種類株式の趣旨は理解しますが、実際の発行(定款の規定)とその後の会社の運営(種類株主総会等)の手間が必要な株式だと思います。創業社長が自分を追い出されないように発行するのも手だとは思います。創業者一族で役員の過半数を選任できるような種類株式を発行すればいい訳ですね。でも多額の出資をしているのに経営支配権を握れないというのも資本多数決の原理に反しています。この種類の株式も、米国のものまねですかね。これが実務でどれだけ利用価値があるのか、よくわかりませんね。
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