○ 株主には、取締役の違法行為差止請求権(会社法360条)、代表訴訟提起権(847条)や取締役解任請求権(854条)等がありますね(これらの権利を総称して「監督是正権」といいます)。代表訴訟は、株主が事後に会社に代わってする取締役に対する責任追及ですが、差止請求権は、株主が事前に会社に代わってする権利ですね。
○ 360条1項では、次のように言っています。「(公開会社の場合)6箇月前から引き続き株式を有する株主は、取締役が株式会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該株式会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。」。また通説は、法令・定款に定める具体的な義務に違反する行為だけではなく、善管注意義務・忠実義務という一般的な義務違反の取締役の行為も差止請求ができると解しています。<o:p></o:p>
○ 一方、会社法5章2節1款会計帳簿433条では、3%以上の議決権を有する株主に「会計帳簿又はこれに関する資料」の閲覧権が認められています。判例では、ここにいう「会計帳簿又はこれに関する資料」とは、「総勘定元帳、手形小切手元帳、現金出納帳、売掛金明細補助簿及び会計用の伝票」までとしています。決算報告書は株主に当然送付されているので除外されていますが、結構重要な税務申告書(内訳書付き)、契約書等は除外されています。この規定の限界でしょうね。<o:p></o:p>
○ 差止請求は事前ですので急ぎますね。ですから差止の訴えを本案として、差止の仮処分申請が普通のパターンですね。訴えを起こす以上挙証責任は原告ですね。「法令・定款違反の行為をし、又は行為をする恐れがある」というのは、オリンパスの例でも分かるように、一般的に事前に外部の株主に分かることではないですね。帳簿閲覧権があるといっても、帳簿に記帳されるのは事後、即ち行為が行われた後ですね。学者の中には、「監督是正権を適切に行使しうるためには、会計帳簿閲覧権でもって会社の経理状況を正確に知りうることが必要である」等と不正確なことを言っている人もいますね。即ち、帳簿閲覧権は差止請求には役立たないということです。株主が差止請求できる場合というのは極めて限られた場合でしょうね。会計帳簿閲覧権のみならず、簡便に株主が会社の取締役の行為をチェックできる権利やシステム等ができないものでしょうかね?相変わらず監査役が用をなしていませんからね。<o:p></o:p>
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○ 会社法では、358条で「不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるときは、3%以上の議決権ある株主は、当該株式会社の業務及び財産の状況を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをすることができる。」としていますが、検査役選任請求等していたら、全く間に合わないですね。まあ、「検査役選任請求」をしたら、それが抑止力になるという効果は少し期待できると思いますけどね。<o:p></o:p>
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○ ちらちら判例集を見ていたら、今や悪魔企業となった東京電力の判例がありました。東京電力の福島第2原発では、原子炉1機が機器に破損を生じ運転を停止していた。ということで株主が、運転再開差止の訴えを起こし同時に仮処分申請しましたが、争っている間に、資源エネルギー庁(現原子力安全保安院)と原子力安全委員会の検討結果を基に、東電の取締役が運転再開・継続をしてしまったのですね。東京地裁決定平2.12.27(判時1377号30頁)では、以下のように言っています。
「東電取締役らが、資源エネルギー庁・原子力安全委員会に対し、重要な情報を秘匿したとか、検討結果が基礎としている重要な事実と異なる事実が存在していることを知っているとかの特段の事情が無い限り、代表取締役としての善管注意義務ないし忠実義務に違反する業務執行ということはできない」。こういって、被保全権利に関する疎明がないとして却下されました。株主側で疎明等出来るわけないでしょと言いたいですね。<o:p></o:p>
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