○ 今回は新設会社の開業準備行為の一つである財産引受の規定についてです。即ち、設立時の原始定款に以下を記載・記録し、原則として裁判所選任検査役の調査を受けないといけません。会社法28条①号で現物出資、続いて②号で財産引受の規定を設けていますね<o:p></o:p>
① 現物出資:「金銭以外の財産を出資する者の氏名又は名称、当該財産及びその価額並びにその者に対して割り当てる設立時発行株式の数」<o:p></o:p>
② 財産引受:「株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産及びその価額並びにその譲渡人の氏名又は名称」<o:p></o:p>
この財産引受について、多数説・判例は、発起人は設立に必要な行為までしかできず、財産引受は特に必要性が大きいので厳格な要件のもとで法が特に認めたものであると言っていますね。<o:p></o:p>
○ 「財産引受の規定は遵守されているか?」と書きました。実態は、守られていませんね。大企業(上場企業)も含めて、この規定を守っていない、あるいは脱法的な事が多く行われています。ではなぜでしょうか? 簡単です。①この規定や事後設立の規定(467条I⑤)を知らないからです。また企業の法務部の人もキチンと理解していない人も多いです。内部統制では当然法令遵守が求められています。専門の部署を設けたり、各部門に内部統制の担当者を配置したりしています。でも、肝心のこういった人たちが法令を知らないのですね。②仮に知っていても、あるいはこの規定に抵触するかも知れないと思っても、もし守ったら実務上かなり支障を来すからです。③親会社=発起人の名義で取得しておいて、会社が出来れば譲渡すればいいやと考える訳ですね。事後設立(467条)の特別決議も行いませんね。<o:p></o:p>
○ 典型的な具体例を2つ書きましょう。大企業が発起人となり新設子会社を設立するケースですね。<o:p></o:p>
1) 新会社のオフィスの賃貸借契約の差入保証金:新規事業を行う場合は、よく新設子会社を設立します。通常は、稟議可決されてからですが、会社はまだできていませんので、親会社が賃貸オフィスを借ります。オフィスの賃貸借は発起人の権限として設立を直接の目的とする行為と考えられています。しかし、実際上オフィスを借りるときは賃借人の登記簿謄本が要求されますが、登記申請前ですからありませんね。一方登記のときには本店所在地を決めておかなければなりません。貸主も借主優位なマーケット状況で、発起人が信用できる場合だと新設子会社が出来るまで待ってくれる場合もありますが、状況によっては、親会社が「立替金」勘定で、差入保証金を入れて併せて家賃を支払います。差入保証金はBSの「投資その他の資産」に表示されます。当然財産ですね。即ち、発起人たる親会社=譲渡人が、新設会社が成立すれば、特定の財産(少なくとも差入保証金部分は財産)を新設会社に譲渡する・新設会社はこれを譲り受ける旨の約束をするわけですね。会社が成立すると、新設会社は親会社から、差入保証金の立替請求書を受領して、立替金等を親会社に支払います。一方、新設子会社ができるとオフィス賃貸借契約は、貸主・借主たる親会社・新設子会社の三者間で、契約上(借主)の地位の新設子会社への移転、あるいは新たに借主を新設子会社にした賃貸借契約を締結するのですね。こういったケースで財産引受の手続き(定款記載&検査役調査)を行っているケースがどれだけあるでしょうか?<o:p></o:p>
2) 新設子会社のためのシステム開発:新設子会社が使用するシステムなどを半年以上も前から、親会社側で開発に着手して、その後で新設子会社設立の稟議を通して、サーバー・開発ソフトウェア・購入ソフトウェア等の一式を、親会社(発起人)から新設子会社が購入する場合等ですね。こういった事も結構頻繁に行われています。ひどい場合には、親会社側で生じた関連費用までも、新設子会社に負担させる場合もあるようです。開発したシステムの資産の価額を水増しして費用分までも請求ということだと、まさに目的物の過大評価、過大な価格で新設子会社が購入することになりますね。過大評価防止が立法趣旨のはずなのですがね。<o:p></o:p>
○ 現物出資・財産引受・事後設立等の制度は、株主・債権者保護の制度ですね。親会社は株主ですし、債権者も会社成立後暫くは親会社のケースが多いでしょう。要するに、迷惑を被る人は誰もいない訳ですね。従い、無効を主張する人もいません。その内に会社の活動が始まります。そうするともう誰もそんなことは覚えていませんね。こういう実態が結構ありますね。<o:p></o:p>
○ 私は、現物出資・財産引受・事後設立等は、登記等による開示制度を充実させるべきだと考えています。例えば、インターネット技術やソフトウェアを現物出資するときに、裁判所選任検査役(よくあるケースは、選任を申請した弁護士等が選任される場合もあります)が、こういったものの価値がわかりますか??<o:p></o:p>
○ その他発起人が費用未払いの場合に成立した会社が、その債務を引き継ぐかという問題もあります。学説は分かれているようですが、原始定款記載と検査役調査を行ったか否かと債権者保護の視点で見解が分かれています。実務上は、そんな手続きは問題にせず、新設会社が払ってしまう例が多いのではないでしょうか。債権者は、お金が入れば文句は言いませんからね。即ち、開業準備行為について会社法は規定していますが、その規定を遵守している企業は少ないということです。<o:p></o:p>
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