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北タイ陶磁の源流考・#12<インドシナ各地の窯構造・#2>

2017-01-21 09:08:39 | 北タイ陶磁
<続き>

2.ベトナムの窯構造

2-1.ドゥオンサー窯
ドゥオンサー窯は、バク二ン省バンアン社に存在する。故西村昌也氏が中心になり、第一次発掘調査を1999年12月、第二次発掘調査が2000年3-4月に行われた。その結果合計9基の窯址が確認され、いずれも穴窯(地下式横焔単室窯)であった。その一部は西村氏が中心に設立された、ドゥオンサー博物館に移設保管されている。
以下、その1号窯を中心に紹介する。写真は当該ブロガーが現地にて撮影したものであり、転載希望の方はご自由に使用されたい。

以下、出典は「東南アジア埋蔵文化財通信 第6号」2002年7月発行 発行人・西村昌也氏より。
●1号窯平面プラン
 楕円形
●1号窯諸元
 全長:4.85m
  燃焼室長:1.95m
  焼成室長:2.90m
 全幅:2.60m
 全高:1.40m
 昇焔壁高さ:25cm
 煙道:2箇所
●開窯時期
 9-10世紀
●出土陶磁
 無釉陶
  四耳壺、六耳壺、深鉢、浅鉢、薬研、碗、灯明皿
 施釉陶
  灰釉四耳壺、青磁碗、灰釉碗
●轆轤回転方向
 広東系星形釉掻き碗:左回転
 上記以外の陶磁:右回転
●特記事項
 ●出土する青磁碗の器形は、越州窯系の器形を示す。
 ●広東系星形釉掻き灰釉碗・・・見込みに5カ所釉薬を掻きとり、そこに団子状の土をの 
 せ、重ね焼きの支持具としている。この技法は広東省で見られる様式である。
 ●見込み3箇所に貝殻をのせて重ね焼きした碗も存在する。これらは量が多く器形は、越
 州窯系である。
 ●出土する広東系星形釉掻き灰釉碗は中国式の左回転轆轤であるが、それ以外は右回転で
 あると云う。ベトナム化していく過程であろうと思われる。
以上がドゥオンサー窯の諸元と焼成遺物である。焼成遺物からは広東と越州窯の何がしかが影響を与えていると考えられるが、ベトナム国境に近い雷州半島の付け根に「簾江窯」「南海窯」が在る、これらとの関連を調査する必要があろうと思われる。時代から云えば当然であろうが、磁州窯の磁の字も出てこないことに留意しておきたい。

2-2.チューダウ窯
開窯は15-16世紀、青花陶磁を中心に焼造した。場所は窯址群が散在するハイズオン省で、過去に出かけてみたが資料館は見学できたものの、窯址には辿り着けなかった。そこで前出「東南アジア埋蔵文化財通信 第6号」掲載の窯址写真を転載しておく。尚、窯形式などの諸元は未記載である。
地下式の窯であるようだが、これではどのような形式であったか?・・・である。この他に、ハノイ郊外キムラン社の紅河河畔に窯址が存在するとのことで、出かけてみたが紅河の濁流に洗われ、現認できなかった。

以上、僅かではあるが北ベトナムの窯構造を確認してきた。北ベトナム陶磁に関する文献は多い。しかし窯址を示す日本語文献に出会えておらず、これ以上の知識は得られていない。従って以下想定である。初期の窯であるドゥオンサー窯の構造を踏襲しているようであれば、横焔式単室窯が北ベトナムの地で用いられていたであろう。




                                  <続く>