新型コロナウイルスの感染拡大で、国連によると百八十八カ国が全土で休校措置を取り、十五億人以上の子どもたちが学校に通えなくなっている。多くの国でオンライン授業が広がる一方、通常授業との開きは大きく、経済状況などによる教育格差も生まれている。コロナ禍は、各国で子どもの学びや生活に影響を及ぼしている。 (新型コロナウイルス取材班)
■あくまで補佐役
「この問題が分からないんですが」「じゃあ、先生がやってみせるよ」。米東部メリーランド州モンゴメリー郡。本紙アメリカ総局の記者の高校一年の長女(16)は、自宅でオンライン授業を受けている。中学一年の長男(13)も同様に学習中だ。
約十五万人の児童生徒がいる同郡は四月から、ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」を使った授業を開始。郡はパソコンなどを持っていない子には貸与し、通信用モバイルWi-Fiも配布した。
授業の画面に映っている生徒は数人だけ。生徒も教師も映るかどうかは自分で決める。自宅の様子などのプライバシーへの配慮だという。ログインがうまくできない生徒がいたり、家庭内の幼い子どもの声が響いたりして、授業が進まないこともある。
一回の授業時間は通常より大幅に短く、コマ数も少ない。事前にメールで出された宿題で分からない点を質問する補完的なものにとどまる。長女は「先生が慣れてくれば、通常の授業と同じように進められると思う」と期待するが、低学年だと親がつきっきりになる必要があると感じた。
■給食中止も心配
多くの国が試行錯誤でオンライン授業を進める中、経済的にネット環境を持てない家庭は多い。米ニューヨーク市では、百十万人超いる児童生徒のうち、一割が定住先のないホームレスとされる。市は無償貸与用にiPad(アイパッド)三十万台を用意。米国学校管理者協会のドメネク事務局長は「現実は全米一万三千を超える学区の大部分で、オンライン授業を行う能力がない」と指摘し、「デジタル格差」を懸念する。
フランスでも、パソコンのない家庭の学習の遅れが課題だ。ブランケール仏教育相は休校措置開始から約二週間後の三月末、「児童生徒の5~8%がすでについて行けなくなっている」との見方を示した。ヨルダンでは、約二百万人のパレスチナ難民の家庭の多くが、オンライン授業を利用できていない。
休校で学校給食が中止となり、子どもの栄養面も心配される。ロシアは家庭の食費軽減のため、一部自治体で食料の現物支給を開始。しかし、第二の都市サンクトペテルブルクと北部の貧しいカレリア共和国では、支給される一日あたりの食料内容に約三倍の差がある。地域格差も浮き彫りになっている。
■工夫こらす
学校閉鎖が一カ月になる英国では、家から出られない子どもたちを元気にしようと、著名トレーナーのジョー・ウィックスさんがユーチューブで体育の授業を始めた。「ジョーと体育」と題し、室内でさまざまな動きを披露。それを子どもたちがまねして運動する。初回の再生回数は六百四十万回超を記録。日課にしている英南部サウサンプトンの小学生アニー・ロバートソンちゃん(7つ)は「学校の体育の授業よりきついけど、おもしろい」と笑顔だ。
九日から全国の小中高校で段階的にオンライン授業が始まった韓国。ソウル近郊の高校で日本語を教える四十代の女性教師は、担当クラスの出席率が100%だったといい「授業が必要とされているのがわかった」と使命感を新たにした。
退勤後に家で授業動画の撮影や編集に追われるなど負担もあるが、やりがいは大きいという。「直接の授業には及ばないが、若い生徒はデジタルに慣れていて熱心に学んでいる。徐々に適応してくれれば」と願う。