薬剤師の方のレポートです。少し長めの文章ですが、参考になるものです。
以下、ITmediaビジネスより
新型コロナウイルスの感染者数が急増している現在、「アビガン」という薬が特効薬として期待されている。先日、アビガンの治験が日米で開始されたと報じられたばかりだが、安倍首相は4月7日の記者会見でそのアビガンに触れ、現在の備蓄量の3倍、200万人分を準備すると話す熱の入れようだ。
筆者は薬剤師の資格を持ち、製薬会社を顧客とする医薬品開発の会社に10年以上勤めてきた。医薬品の開発や治験に関しても詳しい。そんな立場から、現在話題になっているアビガンや、アビガンを取り巻く状況、そしてその問題点について説明したい。
●新薬ができるまで
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「アビガンの治験」が始まったと書いたが、治験とはなにか? そもそも薬はどのように作られるのか? どうやって新薬ができるのか?
薬の開発は、薬になりそうな化合物を探し出す「基礎研究」からスタートする。次にラットなどの動物を使って、その化合物が安全で効果があるかどうかを調べる「非臨床研究」へと進む。その後、人を使って調べることになるが、これを「治験」という。
治験はまず少人数の健康な人を対象に行い、次は少人数の患者に行う。効果が出そうであれば、さらに人数を増やして試験を行う。このように、3つの段階がある(第1相から第3相)。もちろん十分に説明を受けたうえで、本人の同意が必要だ。
この中で、薬を患者に投与して、血液検査を始めとするさまざまなデータを収集する。そのデータを解析して、ようやく本当に効果があるといえるかが分かる。効果ありという結果が出たら、国に承認申請する。
その結果、承認が得られれば、めでたく「医薬品」として販売でき、病院で処方ができるようになる。
その後も「製造販売後調査」が行われ、安全かどうか、有効な薬かどうかが確かめられる。最終段階として「再審査」と呼ばれる審査があり、場合によっては承認取り消し、効能効果の削除または修正が行われることもある。
薬は、「何に効くか」「何に使うか」がきちんと定められている。これを「適応」という。アビガンは既にインフルエンザ薬として承認を受けているが、新型コロナウイルスへの適応はまだ承認されていない。そのため「適応追加」を目的として、第2相もしくは第3相試験の治験から行われる。アビガンの新型コロナウイルスに対する治験は、どんなやり方で実施しているかはまだ公表されていない。しかし、既に中国では2本の治験が行われて、その結果、新型コロナウイルスにファビピラビル(アビガンの一般名称)が有効であるとの結果が出ている。
しかし、この中国での論文は取り下げとなった。理由は現時点では不明であるが、近日中に差し替え版が掲載され、取り下げた理由も記載されるようだ。
●他の薬が効かない場合だけ使えるアビガン。なぜか?
アビガンはインフルエンザの薬だが、他の抗インフルエンザ薬と違う部分がある。タミフルにように、インフルエンザにかかった患者に病院ですぐに処方されるわけではなく、他のインフルエンザの薬が効かない時に、初めて使える薬であることだ。
アビガンは他のインフルエンザ薬が無効、または効果が不十分な新型もしくは再興型のインフルエンザが発生した場合で、なおかつ国が承認した場合のみ使える、つまり他に対応する手段が無いと判断されたインフルエンザに限定して使われる薬である。
なぜ、他の薬と違って、アビガンはすぐに医療機関が処方できないのか? アビガンの審査報告書を読むと、アビガンの「催奇形性(さいきけいせい)」というリスクがその理由の一つと考えられる。
治験の前段階に、動物を使って試験を行うと説明した。動物にアビガンを投与した際、胎児に奇形が生じる可能性が確認されている。これを催奇形性という。注意が必要なのは女性だけではない。催奇形性を有するアビガンは、服用後、男性の精液中へ移行することも分かっている。
さらに、治験とは別の「観察研究」という形で、アビガンを使用することを安倍首相が記者会見で述べていた。観察研究であれば、医師がアビガンを使うことを希望し、医療施設の倫理委員会で許可されれば、「研究」としてアビガンが使用できる。国として使用を拡大する方向であることは間違いない。
●奇形児が生まれる薬害は現実に発生している
アビガンの副作用である催奇形性は、珍しいものではない。1960年代には、サリドマイド薬害という事件も起きている。サリドマイドは、不眠症、妊婦のつわりなどに使われていた。サリドマイドの危険性が警告され、ヨーロッパでは直ちに回収が行われたが、日本は対応が遅れ、その間に被害が増えてしまった。このようなことは二度と起こしてはならない。
アビガンが、最初に抗インフルエンザ薬として承認されたのは14年のこと。インフルエンザウイルスをたたく仕組みが、タミフルとは違う、新しいタイプの薬ということで注目を浴びたが、催奇形性がネックとなり、正式な承認ではなく「条件付き承認」になった。
アビガンの審査報告書にはこのような記述がある。
通常のインフルエンザウイルス感染症に対しても有効性は検証されていないこと、本剤は催奇形性等のリスクを有すること、海外で実施された臨床試験成績を中心に国内では検討されていない用法・用量が設定されていることを踏まえ、通常のインフルエンザウイルス感染症に使用されることのないよう厳格な流通管理及び十分な安全対策を実施することと、本剤の投与が適切と判断される症例のみを対象に、あらかじめ患者又はその家族に有効性及び危険性が文書をもって説明され、文書による同意を得てから初めて投与されるよう、厳格かつ適正な措置を講じること。
アビガンは、このような危機管理を前提とした承認となっている。
新型コロナウイルスに対して、待望の薬とされているアビガン。治験で効果が出れば「新型コロナへの適応追加」が実現する。適応追加がなされれば、新型コロナで命の危険がある患者には使う価値はあるだろう。
しかし、子どもを持ちたいと考えている年代の人に安易に投与すべき薬ではない。予防投与などはもってのほかだろう。そもそも治験では、妊婦に投与することはまず行われない。しかも治験は厳しく医療的な管理下で行われる。
妊婦が使って大丈夫なのかどうか、他に重い合併症を持っている人が使って大丈夫なのか、小児が使って大丈夫なのか、高齢者が使って大丈夫なのか等々……。これらについては、治験の結果だけで、新たな副作用が出ないとは断言できない。
●市販後に初めて出る副作用もある
アビガンについて知りたい人は「アビガン 添付文書」と検索してほしい。全部読まなくとも、せめて「警告」と書かれている赤字部分だけでも見てほしい。
医薬品には必ず「添付文書」が作成される。ここには、その医薬品が医薬品として認められるまでに得られた、集大成ともいえる内容が書かれている。医薬品の箱にも必ず同封されていて、新人薬剤師はこの添付文書を読んで勉強をする。この「添付文書」には投与方法や副作用、使ってはいけない患者の情報などが記載されている。
アビガンの添付文書には、このように書かれている。
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと。
本剤は精液中へ移行することから、男性患者に投与する際は、その危険性について十分に説明した上で、投与期間中及び投与終了後7日間まで、性交渉を行う場合は極めて有効な避妊法の実施を徹底(男性は必ずコンドームを着用)するよう指導すること。また、この期間中は妊婦との性交渉を行わせないこと。
本剤の投与にあたっては、本剤の必要性を慎重に検討すること。
さらに、アビガン添付文書には、他の大部分の薬にはない「特殊記載項目」という項目がある。これは富士フイルム富山化学のWebでも、特に目立つ位置に掲載されている。
本剤は、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分な新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症が発生し、本剤を当該インフルエンザウイルスへの対策に使用すると国が判断した場合にのみ、患者への投与が検討される医薬品である。本剤の使用に際しては、国が示す当該インフルエンザウイルスへの対策の情報を含め、最新の情報を随時参照し、適切な患者に対して使用すること。
新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症に対する本剤の投与経験はない。添付文書中の副作用、臨床成績等の情報については、承認用法及び用量より低用量で実施した国内臨床試験に加え海外での臨床成績に基づき記載している。
注目すべきは最後の部分である。
実際に、新型または再興型インフルエンザウイルス感染症に対してアビガンを使ったことはない。そして、今後実際に使われるであろう投与量よりも少ない量で、国内の臨床試験を行った。ということだ。
これは何を意味するのか。それは、新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症に対して使ったことがないから効くかどうかは分からない、インフルエンザの治験をしたときよりも多い量を使うので、新たな副作用が出るかもしれない、ということである。
医薬品が病院で処方されるようになり、多くの人がさまざまな臨床的条件下で使うようになって初めて、治験では報告されなかった、別の新たな副作用が出ることも珍しくない。例えば、心臓疾患の人が使うと危険、免疫抑制剤を使った治療をしている人は副作用が出やすいなど、市販されて日常の診療で広く使われてから、新たに分かる副作用も多々あるのだ。
●アビガン治験で効果が出た後のこと
Twitterなどで、新型コロナウイルスに感染し、すでにアビガンを飲み始めた人、治療として使用したという医師の投稿もある。年齢は分からないが、これから子どもを持つ可能性のある年代の方もいるであろう。
先ほど引用した警告にあるとおり、アビガン投与後、7日間程度避妊するだけで本当に大丈夫なのかは、現時点では誰にも分からない。治験で試されたわけではなく、100%大丈夫であるとも、危険だともいえない状況である。
まさに「毒をもって毒を制す」という、医薬品の本質が表れているのがアビガンである。実際、アビガン投与の結果、速やかな解熱と低酸素血症の改善を認めたという情報もある。しかし実際の治療で、アビガンだけを投与しているとは考えにくい。他の薬も併用しているのであれば、どの薬が効いているのかは断言できない。副作用のない医薬品はない。
治験を経て、アビガンの承認申請が通り、新型コロナの特効薬ということになれば、治験時に比較して、多くの患者に治療で使われる事になるが、治験で報告されることのなかった新たな副作用が出て、不幸な予後にならないことを祈りたい。
医薬品の投与で大切なことは、患者に十分な情報が与えられること。そして、副作用と効果、デメリットとメリットを考えたうえで、その薬を使うかどうかを自分で選択できることである、と薬剤師の立場から強調しておきたい。
(松本華哉 薬剤師)
以上
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以下、ITmediaビジネスより
新型コロナウイルスの感染者数が急増している現在、「アビガン」という薬が特効薬として期待されている。先日、アビガンの治験が日米で開始されたと報じられたばかりだが、安倍首相は4月7日の記者会見でそのアビガンに触れ、現在の備蓄量の3倍、200万人分を準備すると話す熱の入れようだ。
筆者は薬剤師の資格を持ち、製薬会社を顧客とする医薬品開発の会社に10年以上勤めてきた。医薬品の開発や治験に関しても詳しい。そんな立場から、現在話題になっているアビガンや、アビガンを取り巻く状況、そしてその問題点について説明したい。
●新薬ができるまで
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薬の開発は、薬になりそうな化合物を探し出す「基礎研究」からスタートする。次にラットなどの動物を使って、その化合物が安全で効果があるかどうかを調べる「非臨床研究」へと進む。その後、人を使って調べることになるが、これを「治験」という。
治験はまず少人数の健康な人を対象に行い、次は少人数の患者に行う。効果が出そうであれば、さらに人数を増やして試験を行う。このように、3つの段階がある(第1相から第3相)。もちろん十分に説明を受けたうえで、本人の同意が必要だ。
この中で、薬を患者に投与して、血液検査を始めとするさまざまなデータを収集する。そのデータを解析して、ようやく本当に効果があるといえるかが分かる。効果ありという結果が出たら、国に承認申請する。
その結果、承認が得られれば、めでたく「医薬品」として販売でき、病院で処方ができるようになる。
その後も「製造販売後調査」が行われ、安全かどうか、有効な薬かどうかが確かめられる。最終段階として「再審査」と呼ばれる審査があり、場合によっては承認取り消し、効能効果の削除または修正が行われることもある。
薬は、「何に効くか」「何に使うか」がきちんと定められている。これを「適応」という。アビガンは既にインフルエンザ薬として承認を受けているが、新型コロナウイルスへの適応はまだ承認されていない。そのため「適応追加」を目的として、第2相もしくは第3相試験の治験から行われる。アビガンの新型コロナウイルスに対する治験は、どんなやり方で実施しているかはまだ公表されていない。しかし、既に中国では2本の治験が行われて、その結果、新型コロナウイルスにファビピラビル(アビガンの一般名称)が有効であるとの結果が出ている。
しかし、この中国での論文は取り下げとなった。理由は現時点では不明であるが、近日中に差し替え版が掲載され、取り下げた理由も記載されるようだ。
●他の薬が効かない場合だけ使えるアビガン。なぜか?
アビガンはインフルエンザの薬だが、他の抗インフルエンザ薬と違う部分がある。タミフルにように、インフルエンザにかかった患者に病院ですぐに処方されるわけではなく、他のインフルエンザの薬が効かない時に、初めて使える薬であることだ。
アビガンは他のインフルエンザ薬が無効、または効果が不十分な新型もしくは再興型のインフルエンザが発生した場合で、なおかつ国が承認した場合のみ使える、つまり他に対応する手段が無いと判断されたインフルエンザに限定して使われる薬である。
なぜ、他の薬と違って、アビガンはすぐに医療機関が処方できないのか? アビガンの審査報告書を読むと、アビガンの「催奇形性(さいきけいせい)」というリスクがその理由の一つと考えられる。
治験の前段階に、動物を使って試験を行うと説明した。動物にアビガンを投与した際、胎児に奇形が生じる可能性が確認されている。これを催奇形性という。注意が必要なのは女性だけではない。催奇形性を有するアビガンは、服用後、男性の精液中へ移行することも分かっている。
さらに、治験とは別の「観察研究」という形で、アビガンを使用することを安倍首相が記者会見で述べていた。観察研究であれば、医師がアビガンを使うことを希望し、医療施設の倫理委員会で許可されれば、「研究」としてアビガンが使用できる。国として使用を拡大する方向であることは間違いない。
●奇形児が生まれる薬害は現実に発生している
アビガンの副作用である催奇形性は、珍しいものではない。1960年代には、サリドマイド薬害という事件も起きている。サリドマイドは、不眠症、妊婦のつわりなどに使われていた。サリドマイドの危険性が警告され、ヨーロッパでは直ちに回収が行われたが、日本は対応が遅れ、その間に被害が増えてしまった。このようなことは二度と起こしてはならない。
アビガンが、最初に抗インフルエンザ薬として承認されたのは14年のこと。インフルエンザウイルスをたたく仕組みが、タミフルとは違う、新しいタイプの薬ということで注目を浴びたが、催奇形性がネックとなり、正式な承認ではなく「条件付き承認」になった。
アビガンの審査報告書にはこのような記述がある。
通常のインフルエンザウイルス感染症に対しても有効性は検証されていないこと、本剤は催奇形性等のリスクを有すること、海外で実施された臨床試験成績を中心に国内では検討されていない用法・用量が設定されていることを踏まえ、通常のインフルエンザウイルス感染症に使用されることのないよう厳格な流通管理及び十分な安全対策を実施することと、本剤の投与が適切と判断される症例のみを対象に、あらかじめ患者又はその家族に有効性及び危険性が文書をもって説明され、文書による同意を得てから初めて投与されるよう、厳格かつ適正な措置を講じること。
アビガンは、このような危機管理を前提とした承認となっている。
新型コロナウイルスに対して、待望の薬とされているアビガン。治験で効果が出れば「新型コロナへの適応追加」が実現する。適応追加がなされれば、新型コロナで命の危険がある患者には使う価値はあるだろう。
しかし、子どもを持ちたいと考えている年代の人に安易に投与すべき薬ではない。予防投与などはもってのほかだろう。そもそも治験では、妊婦に投与することはまず行われない。しかも治験は厳しく医療的な管理下で行われる。
妊婦が使って大丈夫なのかどうか、他に重い合併症を持っている人が使って大丈夫なのか、小児が使って大丈夫なのか、高齢者が使って大丈夫なのか等々……。これらについては、治験の結果だけで、新たな副作用が出ないとは断言できない。
●市販後に初めて出る副作用もある
アビガンについて知りたい人は「アビガン 添付文書」と検索してほしい。全部読まなくとも、せめて「警告」と書かれている赤字部分だけでも見てほしい。
医薬品には必ず「添付文書」が作成される。ここには、その医薬品が医薬品として認められるまでに得られた、集大成ともいえる内容が書かれている。医薬品の箱にも必ず同封されていて、新人薬剤師はこの添付文書を読んで勉強をする。この「添付文書」には投与方法や副作用、使ってはいけない患者の情報などが記載されている。
アビガンの添付文書には、このように書かれている。
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと。
本剤は精液中へ移行することから、男性患者に投与する際は、その危険性について十分に説明した上で、投与期間中及び投与終了後7日間まで、性交渉を行う場合は極めて有効な避妊法の実施を徹底(男性は必ずコンドームを着用)するよう指導すること。また、この期間中は妊婦との性交渉を行わせないこと。
本剤の投与にあたっては、本剤の必要性を慎重に検討すること。
さらに、アビガン添付文書には、他の大部分の薬にはない「特殊記載項目」という項目がある。これは富士フイルム富山化学のWebでも、特に目立つ位置に掲載されている。
本剤は、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分な新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症が発生し、本剤を当該インフルエンザウイルスへの対策に使用すると国が判断した場合にのみ、患者への投与が検討される医薬品である。本剤の使用に際しては、国が示す当該インフルエンザウイルスへの対策の情報を含め、最新の情報を随時参照し、適切な患者に対して使用すること。
新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症に対する本剤の投与経験はない。添付文書中の副作用、臨床成績等の情報については、承認用法及び用量より低用量で実施した国内臨床試験に加え海外での臨床成績に基づき記載している。
注目すべきは最後の部分である。
実際に、新型または再興型インフルエンザウイルス感染症に対してアビガンを使ったことはない。そして、今後実際に使われるであろう投与量よりも少ない量で、国内の臨床試験を行った。ということだ。
これは何を意味するのか。それは、新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症に対して使ったことがないから効くかどうかは分からない、インフルエンザの治験をしたときよりも多い量を使うので、新たな副作用が出るかもしれない、ということである。
医薬品が病院で処方されるようになり、多くの人がさまざまな臨床的条件下で使うようになって初めて、治験では報告されなかった、別の新たな副作用が出ることも珍しくない。例えば、心臓疾患の人が使うと危険、免疫抑制剤を使った治療をしている人は副作用が出やすいなど、市販されて日常の診療で広く使われてから、新たに分かる副作用も多々あるのだ。
●アビガン治験で効果が出た後のこと
Twitterなどで、新型コロナウイルスに感染し、すでにアビガンを飲み始めた人、治療として使用したという医師の投稿もある。年齢は分からないが、これから子どもを持つ可能性のある年代の方もいるであろう。
先ほど引用した警告にあるとおり、アビガン投与後、7日間程度避妊するだけで本当に大丈夫なのかは、現時点では誰にも分からない。治験で試されたわけではなく、100%大丈夫であるとも、危険だともいえない状況である。
まさに「毒をもって毒を制す」という、医薬品の本質が表れているのがアビガンである。実際、アビガン投与の結果、速やかな解熱と低酸素血症の改善を認めたという情報もある。しかし実際の治療で、アビガンだけを投与しているとは考えにくい。他の薬も併用しているのであれば、どの薬が効いているのかは断言できない。副作用のない医薬品はない。
治験を経て、アビガンの承認申請が通り、新型コロナの特効薬ということになれば、治験時に比較して、多くの患者に治療で使われる事になるが、治験で報告されることのなかった新たな副作用が出て、不幸な予後にならないことを祈りたい。
医薬品の投与で大切なことは、患者に十分な情報が与えられること。そして、副作用と効果、デメリットとメリットを考えたうえで、その薬を使うかどうかを自分で選択できることである、と薬剤師の立場から強調しておきたい。
(松本華哉 薬剤師)
以上
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