「活版印刷三日月堂」のほしおさなえの描きおろし長編小説です。
あらすじはこちらがよく書かれています。
自分はクリスチャンではないので、聖書の言葉がピンとこないのですが、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の中に賛美歌の306番(現在の320番)が出てくるように、仏教徒だから他の宗教を否定するという意識は、日本人には希薄なのかもしれません。
しかし、いろいろな難しいテーマを中学一年生に語らせる文章とストーリーには、作者の力量を感じました。
ひとつわからないのは、題名です。音楽のフーガであることはよく分かるのですが、夏草ちゃんに関わってくる事件が、祖母、母、夏草と3つのキャラクターが交錯するから、フーガなのか、それらを混ぜてフーガとしたのか、どうなのでしょう。
日本のクリスチャン人口は世界でも最低水準だそうですが、教義をもつ聖書は美しい言葉にあふれています。一時期、日本でキリシタンが増えたのは、この美しい言葉と、賛美歌の絵一興だったというのは間違いではなかったと思います。それはコーランでも同じでしょう。
ただ、神を信じなかった人は地獄へ落ちる。神の教えを知らなかった人も地獄へ落ちる。宣教師がこうといた時に、「宣教師様の教えを聞く前に、死んだ爺さんは、地獄ですか」「そうだ」「じゃあ、俺も地獄でいいです」という日本人が多かった、だから明治になっても広まらなかった。そういう話を聞いたことがあります。
この本の中にも、似たような問答があります。
多分、普遍的な言葉で主題を展開したかった。だから聖書を引用し、同じ引用が、重みを変えていく、だからフーガなのかもしれません。