演劇書き込み寺

「貧乏な地方劇団のための演劇講座」とか「高橋くんの照明覚書」など、過去に書いたものと雑記を載せてます。

夏草のフーガ

2020年04月10日 20時42分25秒 | 読書

「活版印刷三日月堂」のほしおさなえの描きおろし長編小説です。
あらすじはこちらがよく書かれています。

自分はクリスチャンではないので、聖書の言葉がピンとこないのですが、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の中に賛美歌の306番(現在の320番)が出てくるように、仏教徒だから他の宗教を否定するという意識は、日本人には希薄なのかもしれません。

しかし、いろいろな難しいテーマを中学一年生に語らせる文章とストーリーには、作者の力量を感じました。
ひとつわからないのは、題名です。音楽のフーガであることはよく分かるのですが、夏草ちゃんに関わってくる事件が、祖母、母、夏草と3つのキャラクターが交錯するから、フーガなのか、それらを混ぜてフーガとしたのか、どうなのでしょう。

日本のクリスチャン人口は世界でも最低水準だそうですが、教義をもつ聖書は美しい言葉にあふれています。一時期、日本でキリシタンが増えたのは、この美しい言葉と、賛美歌の絵一興だったというのは間違いではなかったと思います。それはコーランでも同じでしょう。

ただ、神を信じなかった人は地獄へ落ちる。神の教えを知らなかった人も地獄へ落ちる。宣教師がこうといた時に、「宣教師様の教えを聞く前に、死んだ爺さんは、地獄ですか」「そうだ」「じゃあ、俺も地獄でいいです」という日本人が多かった、だから明治になっても広まらなかった。そういう話を聞いたことがあります。
この本の中にも、似たような問答があります。

多分、普遍的な言葉で主題を展開したかった。だから聖書を引用し、同じ引用が、重みを変えていく、だからフーガなのかもしれません。


眠り姫とバンパイア

2020年04月10日 16時33分02秒 | 読書

人形シリーズが好きだった、我孫子 武丸のミステリーランド第17回配本作品。

母とふたり暮らしの小学5年生・相原優希(あいはらゆうき)は、居眠りばかりしてしまうので、子供の頃から「眠り姫」と呼ばれていた。居眠り癖もあり学校になじめない優希を心配した母はお姉さん代わりの家庭教師をつけていたが、大好きだった美沙先生はアメリカへ留学することに。その代わりの新しい家庭教師・荻野歩実に、優希は大切な秘密を打ち明ける。その秘密とは、父親が3年ぶりに会いに来てくれた、というものだった。母とふたりで暮らしている理由を知らなかった歩実は、前任の美沙に事情を聞いてみるのだが……。父は本当に戻ってきたのか? 家族に秘められた謎とは?

私の読後は、こんな話なんだ、ぐらいのものでしたが、ネットでの評価がかなり高く、ファンタジーかなと思わせてちゃんとミステリーだという点を評価する人が多いようでした。
ほかの作家と比較すると、細かい女の子の描写がうまいのかもしれません。部分部分を読み返してみると、優希ちゃんの可愛らしさが浮かび上がってくる文章だったり会話だったりして、なるほど評価が高いのもわかるような気がします。
お勧めです。

 


ドッペルゲンガーの銃

2020年04月10日 16時18分06秒 | 読書

大好きだった「猫丸先輩シリーズ」の倉知淳の連作ミステリー。

「文豪の蔵 / ドッペルゲンガーの銃 / 翼の生えた殺意」の三作が入っています。
あらすじはAmazonから。
女子高生ミステリ作家(の卵)灯里は、小説のネタを探すため、警視監である父と、キャリア刑事である兄の威光を使って事件現場に潜入する。
彼女が遭遇した奇妙奇天烈な三つの事件とは――?

・密閉空間に忽然と出現した他殺死体について「文豪の蔵」
・二つの地点で同時に事件を起こす分身した殺人者について「ドッペルゲンガ-の銃」
・痕跡を一切残さずに空中飛翔した犯人について「翼の生えた殺意」

本格ミステリーにファンタジーの要素を加え、会話主体のライトな文章で主人公が女子高校生という何でもありの作品です。
今後兄がどうなるのか、どこかで変わるのか、そのままなのか、続編の焦点はそこでしょうか。続編が読みたいです。


野球の国のアリス

2020年04月10日 15時40分26秒 | 読書

ミステリランドの第14回配本、北村薫の少女がピッチャーをやる野球小説ですが、鏡の国のアリスを底本としています。
運動神経抜群のアリスが、体力差から小学校を機に野球を辞めなくてはならないのですが、鏡の中のさかさまの世界へ行って大活躍するという、ファンタジー小説です。
少女が野球で大活躍するというのは、漫画ではしげの秀一の『セーラーエース』、テレビでは、高星由美子の「NHK少年ドラマシリーズ おれたち夏希と甲子園(原題は『野球狂の詩を唄う娘』)などがあるが、これはそれをさらにひねった作品で、なかなか面白い。

しかし、なぜ、小説家は「鏡の国のアリス」が好きなのだろう。

それから、高星さんはどうされているのだろう。「みゆき」の脚本や「タッチ」の脚本構成、1989年まで「中学生日記」の脚本を担当されたりしていたのだが。水戸が生んだ映画人の一人なんだけど、脚本家で生きていくのはしんどかったのでしょうか。高星さんの学生時代にバイトで、サントピアの映画館でもぎりをされていた姿が思い出されます。