2月22日付 読売新聞編集手帳
戦前、
国語の浄化を目的にした詩人の団体がつくられ、
佐藤春夫も会員に名を連ねた。
永井荷風は日記に書いている。
〈佐藤春夫の詩が国語を浄化する力ありとは滑稽至極といふべし…〉
(岩波文庫『断腸亭日乗』より)
時は流れて戦後、
佐藤が選考委員を務める芥川賞を石原慎太郎氏『太陽の季節』が受賞した。
佐藤は選評に書いている。
〈この作者の美的節度の欠如を見て最も嫌悪を禁じ得なかった〉
さらに時は流れて今、
石原氏が芥川賞の選考委員を降りた。
〈今の作家は時代を反映していない〉
〈昔は新人賞の作品は面白かったけど、
全体に(レベルが)下がってきたかな〉(本紙のインタビューに答えて)
退任した石原氏(79)と黒井千次氏(79)に代わって、
奥泉光(56)、堀江敏幸(48)の両氏が新たに加わり、
芥川賞の選考委員は全員が戦後生まれになるという。
どういう“原石”が掘り出されるか、
楽しみに待つとしよう。
荷風は佐藤を嗤(わら)い、
佐藤は石原氏に眉をひそめ、
石原氏は当節の若手作家に失望を隠さない。
才能とはいつの世も、
先輩たちの苦言と渋面のなかで磨かれていくものなのだろう。