2021年6月6日 読売新聞「編集手帳」
1989年の消費税導入まで、
ぜいたく品に課された物品税は線引きが悩ましかった。
「コーヒーと紅茶」
「ゴルフ用具とテニス用具」
「扇風機と電気こたつ」。
いずれも前者は課税、
後者が非課税だ。
奇妙な区分である。
ぜいたくの感覚は時とともに移ろい、
豊かになれば価値観も多様化していく。
何が奢侈(しゃし)かと論争が絶えなかったのは当然で、
一律に線を引くのは難しい。
コロナ禍の3回目の緊急事態宣言でも、
生活必需品とぜいたく品の区分で混乱があった。
東京都が「高級ブランドは『豪奢品』なので休業に協力してほしい」と百貨店に要請したためだ。
豪奢品が何か問われても戸惑いは大きいだろう。
百貨店は頭を痛めながら受け入れたが、
「高級品の線引きは、
お客様の心の中にある」とぼやいた。
今月に入り平日の販売は戻ったものの、
都が無理を頼むにしては丁寧さを欠き、
後味の悪さが残った。
そもそも豪奢とは古めかしい。
文豪の書で探すと「侏儒(しゅじゅ)の言葉」(芥川龍之介)に、
「クレオパトラは豪奢と神秘とに充(み)ち満ちたエジプトの最後の女王ではないか?」とある。
並のぜいたくではなさそうだ。