6月22日 読売新聞「編集手帳」
こてこて、
は江戸時代の浄瑠璃にもみられる古い言葉である。
<濃厚でくどいさま。
そのものの特徴を濃厚に持っているさま。
――の関西人>
(大辞林)
今春、
大阪の繁華街で見たポスターに、
その4文字が浮かんだ。
熱々の鉄板、
コテを両手に店員さんがお好み焼きを焼いている。
写真に添えて一言
「負けへんで
絶対ひっくり返したるっ」。
コロナ禍に伴う臨時休業の告知だった。
幾つかのお店がそれぞれに知恵を絞り、
作ったそうだ。
「負けへんで!
完敗させて乾杯やー!」。
苦しい時にこそ、
とひねり出されたこてこてのギャグにほっと一息ついた人もいただろう。
大阪人のユーモアを改めて思う。
少しずつ日常が戻る中、
波にのまれ消えていく店がある。
大正9年創業、
フグ料理の老舗は、
秋にのれんを下ろすのだという。
店先につるした巨大なフグ提灯(ちょうちん)が名物だった。
ほんの半年ほど前まで、
通天閣を背景にパチパチ写真を撮る外国人でにぎわっていた。
風景の寂しい移り変わりを、
これから度々目にするかもしれない。
けれど、
何事も笑いに変える術(すべ)を学びたい。
名物提灯の行方も目下考え中らしい。