1月26日 読売新聞「編集手帳」
なぜ一文字だったのか。
詳しい理由を見聞きしたことがない。
文豪ユゴーが書いた世界一短い手紙の話である。
小説「レ・ミゼラブル」の評判を気にした作家は、
出版元に「?」一文字の手紙を送った。
相手もしっかり意をくみ、
「!」とだけ記して返信した。
どれほど短くても便箋につづれば、
気持ちは不思議と伝わる。
手紙の持つ魔法の力を思う。
SNS全盛の現代においても、
魔法を信じる人は少なくないようだ。
福井県坂井市が募る日本一短い手紙のコンクール「一筆啓上賞」に今年度も3万通を超える応募があったという。
わずか40字ほどの文面が様々想像をかき立てる。
<会えなくなって
3回目の夏です。
少しさびしいけどひとりで灯台まで泳げたよ>。
中学3年生、
宛てた「お兄ちゃん」は息災なのだろうか。
<「真っ白な雪の日に生まれました。」と母子手帳に書いてあったね。
だから冬が大好き>。
11歳、
受け取った「お母ちゃん」は涙するに違いない。
肉筆での応募も多い。
万年筆やボールペンで一文字ずつ丁寧にしたためてある。
灯(あか)りの下、
机の前で、
あれこれ思案する楽しい顔を夢想する。