7月5日 編集手帳
歌人の塚本邦雄さんは少年の頃、
京都の義兄に手紙を書くたび、
「法悦に近い歓(よろこ)びを覚えた」という。
〈京都市伏見區(く)深草極樂町〉。
なるほど、
ちょっと分かる気がする。
京都市下京区の燈籠町(とうろうちょう)。
釘隠町(くぎかくしちょう)。
中京区の西ノ京東月光町(ひがしげっこうちょう)。
町の名前を見ているだけで京都の人が言う「ろおじ」、
路地を彷徨(さまよ)っ てみたいものだと旅ごころがうずく。
文化の厚みだろう。
名所・旧跡から芸術、
食べ物に及ぶその厚みは、
外国人観光客の琴線にも触れたらしい。
権威のある米国の観光雑誌『トラベル・アンド・レジャー』による世界の人気観光地ランキングで、
京都市が1位に選ばれた。
イタリアのフィレンツェ(3位)やローマ(5 位)、
スペインのセビリア(7位)を押しのけて堂々たるものである。
今年の夏休みは海外に旅立つ知人友人を、
いつもほどには胸を波立たせずに見送れるか な…と、
万年国内組の身はつぶやいてみる。
京都のお国自慢を七五調で数え上げた古い文句に、
〈水・壬生菜(みぶな)、女・染め物、針・扇、お寺・豆腐に人形・焼き物〉とある。
十年どころか百年、
数百年一日(いちじつ)の頑固さはお見事というほかない。