9月25日 読売新聞「編集手帳」
作家の岡本綺堂が、
「雷雨」と題する随筆に夕立が嫌いになったと書いている。
昔はせいぜい20分ほどだったのに、
この頃はいつまでもじめじめと降る。
またたくまに雲が去り、
夕日が照り、
セミが鳴くこともなくなったと。
1930年代発表の文章という。
<蒸し暑く陰鬱で、
こんな夕立ならば降らないほうがましだ>。
雨の降り方がどうもおかしいというつぶやきは現代人も肌身に感じるところだろう。
産業化の影響で20世紀、
大気の二酸化炭素濃度は急カーブで上昇した。
気象科学に無縁の綺堂の感想にすぎなくとも、
その時代にも温室効果ガスは増え続けており、
無関係とは言えまい。
1時間に100ミリを超える雨が降った、
秒速50メートルの風が吹いた――今がおかしいのではなく、
百年も前からおかしいのかもしれない。
気候異変を止められるだろうか。
世界の首脳が集う気候行動サミットで、
多くの国が温室効果ガスの増大がもたらす変化への強い危機感を表明した。
夕立を好きになれるような地球に戻してもらいたいものだが、
今回も、
米、中両国は消極的な姿勢を崩さなかった。
大国がまだ20世紀にとどまる。