2021年1月26日 読売新聞「編集手帳」
俳人の前田吐実男さんは猫の暮らしを観察して過ごしたという。
寒い日でも外を平気で裸で歩く冬猫の姿だろうか、
次の一句がある。
<靴下手袋大嫌い俺猫だから>
服を着て人に連れられている犬はたまに見かけるが、
猫は防寒具を嫌がる動物であるらしい。
その理由はなぜかと人間に考えさせない独立した凜々しさが、
この自由で気ままな小動物にはある。
猫の家畜化の始まりは中東付近で約9500年前に遡るとされる。
マタタビを与えると、
なぜ喜ぶのか。
こちらの疑問も長らく人間が遠巻きに「猫だから」で済ませてきた生態だろう。
世界史的なこの謎を解明したのが岩手大などの研究班である。
マタタビの葉が蚊を遠ざける成分を含むことを発見し、
猫が葉に体をこすりつけるのは蚊よけの行動であることを確認した。
蚊の媒介するウイルスから身を守るため、
進化の過程で獲得した本能だという。
マタタビに反応している間、
猫の脳内に幸福な気分が増す神経伝達物質が出ていることも分かった。
そう聞くと時節柄、
転げ回って喜ぶ姿が感染症に“打ち勝った証し”のように思えてくる。
うらやましい。