9月15日 読売新聞「編集手帳」
小泉元首相に「青論」という造語がある。
政治家が「正論」にたどり着くまでに、
自由闊達に青く語る段階があるべしとするものだ。
小泉氏が「自民党をぶっ壊す」と叫んだかつての自民党総裁選は、
青論を正論へと向かわせる一つの過程だったろう。
では今回の総裁選はというと、
正論を成論(=完成した論「大辞林4版」)に高める論戦ではなかったかと、
3氏の訴えに思った。
国難をどう乗り越えていくか。
新型コロナウイルスの制圧と経済の再生――
これを中心に堅実な議論が行われたすえ、
菅義偉氏が新総裁に選出された。
派閥の支援を受けた国会議員票はもとより、
地方票も6割超の高い支持を得た。
秋田の小さな町のイチゴ農家に生まれた。
高校卒業後は工場に勤め、
学費をため大学に進んだという経歴に共感を寄せる人は少なくないだろう。
あす国会の首相指名選挙を経れば、
2世、3世ではないたたきあげの首相が誕生する。
ふと、
俳人の池田澄子さんの作品集にこんな一句を見かけたのを思い出す。
<じゃんけんで負けて蛍に生まれたの>。
けがさないでほしいささやかな光を持った人ではある。