ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

テリー・キャス

2022年12月04日 | ミュージシャン

【Live Information】


 『イントロダクション』の加速してからの破壊力満点のソロ。
 『クエスチョンズ 67&68』の、ブラス群に縦横無尽に絡むドラマティックなギター。
 『フリー・フォーム・ギター』のフリーキーなギター・パフォーマンス。


 『イントロダクション』の冒頭のワイルドな「Hey there everybody !」。
 「Oh, Little one」という、愛に満ちた優しい歌声から始まる『リトル・ワン』。


 シカゴのオリジナル・メンバーにしてギタリスト兼ヴォーカリスト、テリー・キャスがシカゴの作品群に残した素晴らしい足跡の数々です。


     


 1980年代以降のシカゴはAORバンドというか、ポップス&バラード指向のバンドに転換してしまったとも言えますが、デビュー当時から1970年代前半にかけては「ブラス・ロック」というカテゴリーの中で語られることが多かったバンドです。
 分厚いブラス・アンサンブル、ハードなロック・サウンド、積極的に社会問題へ切り込んでゆく硬派な歌詞。
 シカゴのサウンドは、混沌としながらも創造的な風が吹き荒れていた1960年代の社会を象徴するような力強さを持っていて、まさにゴリゴリで熱気に満ちた「ブラス・ロック」を繰り広げていました。
 ぼくは、テリー・キャスは、そのシカゴ・サウンドを最も体現していたメンバーではないか、と思っているのです。


 テリー・キャスが最初に、そして強く影響を受けたのは、ベンチャーズのノーキー・エドワーズです。
 あのジミ・ヘンドリックスはシカゴのライブを聴きに行ってテリーのギターを目の当たりにし、「俺よりもうまい」と賞賛したという話が残っています。ちなみに、テリーとジミは、ふたりの共作アルバムを制作するというプランを持っていたと言われています。
 『イントロダクション』、『アイム・ア・マン』、『ポエム'58』そして、ジミのギターを彷彿とさせる『フリー・フォーム・ギター』。ファースト・アルバム『シカゴの軌跡』にはテリーの荒ぶる魂がぎっしりです。
 テリーのギター・ソロは、なんといっても切れ味が良くて、ワイルド。
 ほとばしるロック魂。押し寄せる熱い波。
 カッティングにしても、ソロにしても、ロックの醍醐味を明快に伝えてくれるのです。
 テレキャスターを主に使用しているんだと思うのですが、その独特の乾いたトーンにはアメリカン・ロックのエッセンスそのもの。
 一方でジャズ・ギタリストであるケニー・バレルやジョージ・ベンソンからも影響を受けているそうで、ヴォーカルの間を縫うように弾いている『ぼくらの詩』などからはジャズの香りが伺えます。


     


 ヴォーカリストとしてのテリーもとても好きです。
 その男っぽく、ソウルフルな声は、まさにロックそのもの。ブルージーな曲、ハードな曲にとてもマッチします。
 反面、『リトル・ワン』や『明日へのラヴ・アフェア』などのバラードで聴かれるテリーの歌声は、とてつもなく優しく、温もりがあります。
 よく人間の二面性について語られたりしますが、荒々しい人は必ずしも心まで荒々しいわけではなく、立派なことを言う人が立派なわけではなく、優しい物腰の人が必ずしも優しいわけではないんですね。
 テリーのギターや歌を聴いてみると、ハードな曲からは「野性的」で「エネルギッシュ」な部分を強く感じます。反面バラードなどからは「温かさ」「慈しみの心」のようなものをひしひし感じますね。ここらあたりの二面性がテリーの魅力だと思うんです。


 テリーは、1978年1月23日に拳銃の暴発事故のため、31歳の若さで死去しました。
 ガン・マニアだったテリーは銃の分解と組み立てが好きだったそうです。この日、精神的に疲れ切っていたらしいテリーは友人宅に行きましたが、その時も銃をいじっていました。やがて弾倉を抜いた状態の拳銃を頭に当て、友人に「弾倉は入っていないよ」と言いながら引金を弾いたのですが、1発だけ弾丸が拳銃内に残っていたのです。
 32歳の誕生日まであと8日でした。
 「もし」を考えることに意味があるのかどうか分かりませんが、「もし」テリーが事故死しなければ、どこに向かい、どんな音楽を創り上げたのか、興味がありますね。
 テリーのロック・スピリット、ハート、生き様などがブレンドされ、熟成された、「魂そのもの」が見えるような音楽を、そう遠くない未来に聴くことができたのではないかな、なんて勝手な想像をしているのです。
 テリー・キャスは、掛け値なしに、ぼくが大好きなギタリストのひとりです。


     


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2 コメント

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Unknown (NAOKI OKUGAWA)
2024-03-19 14:10:55
はじめまして。
何となく、テリー・キャスの名前で検索して、貴ブログにたどりつきました。
私は現在54歳ですが、私も「長い夜」のテリーのギターに衝撃を受けて、ちょっと遅いですが、高校卒業後にエレキギターを
始めました。
今ではメタル系が中心になっておりますが、やはりテリーは今も私にとってのギターヒーローの1人です。
乱文失礼いたしました。
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NAOKI OKUGAWAさん (皆木秀樹)
2024-04-10 16:03:17
「長い夜」のギターも印象的でしたね。
どの曲の音色もフレーズもテリーにしか出せない個性的なものでしたね~
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