キース・ジャレットがチャーリー・ヘイデン、ポール・モチアンと1966年に組んだバンドが、彼の初めてのパーマネントなピアノ・トリオです。このトリオは、1968年10月30~31日にロサンゼルスのライヴ・ハウス、「シェリーズ・マン・ホール」でライヴを行ないました。その演奏を収めたライヴ・アルバムが、「サムホエア・ビフォー」です。このトリオは2日間で34曲を演奏しましたが、このアルバムにはそのうちの9曲が収録されています。
全9曲のうち7曲がキースのオリジナルで、残りはスタンダード曲とカヴァー曲が1曲ずつ取り上げられています。
キースのピアノは、クラシックやゴスペルなどをベースにしていることが伺えますが、このアルバムでは、ビル・エヴァンスのようなリリカルな部分、よりフリーで前衛的な部分、そして伝統的・古典的なジャズの三つのアプローチを行っているようです。そして、その三つがうまくバランスを取りながら、このトリオの音楽世界を、バラードやロック、ラグタイム、あるいはフリー・ジャズなど、どんなスタイルにも定まらない、幅広くて自由なものにしている、と言えるでしょう。
まず、ゴスペル・ロック調の「マイ・バック・ペイジ」と、「パウツ・オーヴァー」が印象に残りました。中でも目玉は1曲目の「マイ・バック・ペイジ」だと思います。これはボブ・ディランのオリジナル曲ををカヴァーしたものです。原曲はシンプルな3拍子ですが、キースはこれを8ビートのゴスペル・ロックにアレンジして聴かせてくれます。イントロのピンと張り詰めたベース・ソロの後に入ってくるピアノが美しい。何かに祈りを捧げるかのような、内省的で荘厳な雰囲気が漂ってくる曲です。
「ムーヴィング・スーン」は、例えばオーネット・コールマンのような前衛的な要素が見られる、大胆なフリー・ジャズです。まるで音の塊を叩きつけるような激しいピアノに呼応して、ベースとドラムスも一丸となり、突き進んでゆきます。
「プリティ・バラッド」「モーメント・フォー・ティアーズ」「君に捧ぐ」は美しいバラードです。キースが本領を発揮してリリカルに歌い上げていますが、ただ甘さに流されるのではなく、端正で知的な、そして生々しいピアノを聴かせてくれるのです。
タイトル・ナンバーの「サムホエア・ビフォー」は、少しばかりノスタルジックな雰囲気を持っています。スウィング感覚にあふれたタッチが生きています。
「ニュー・ラグ」では、意識的に古いスタイルを取り入れ、それを斬新な感覚で解釈しているのでしょう。これと対をなすのが、よりオールド・ファッションでエキサイティングなラグタイムの「オールド・ラグ」だと思います。
左から キース・ジャレットpiano、チャーリー・ヘイデンbass、ポール・モチアンdrums
このアルバムを録音した時のキースは、まだ23歳。しかしその年齢以上に彼のピアノは、幅広く、成熟しているような気がします。また、サイドを固めるチャーリーとポールのふたりも経験が豊かで、やはり幅広い音楽の世界と接していました。そしてメンバーがこの3人だからこそ、トリオが鮮やかな閃きを見せることができたのではないでしょうか。
この頃のキース・ジャレット・トリオは、すでに他に類を見ない独自性があり、幅広い領域の音楽と関わりを持っています。何にも捉われることのない、自由奔放なサウンドは、キースの音楽の原点とも言えるものでしょう。そしてそれは、今のキース・ジャレット・トリオである「スタンダーズ」にまで脈々と受け継がれているのではないでしょうか。
◆サムホエア・ビフォー/Somewhere Before
■演奏
【キース・ジャレット・トリオ】
キース・ジャレット/Keith Jarrett
チャーリー・ヘイデン/Charlie Haden
ポール・モチアン/Paul Motian
■録音
1968年8月30~31日 (カリフォルニア州ロサンゼルス、シェリーズ・マンホール)
■リリース
1969年5月
■プロデュース
ジョージ・アヴァキアン/George Avakian
■収録曲
A① マイバック・ペイジ/My Back Pages (Bob Dylan)
② プリティ・バラッド/Pretty Ballad (Keith Jarrett)
③ ムーヴィング・スーン/Moving Soon (Keith Jarrett)
④ サムホエア・ビフォー/Somewhere Before (Keith Jarrett)
B⑤ ニュー・ラグNew Rag/New Rag (Keith Jarrett)
⑥ モーメント・フォー・ティアーズ/A Moment for Tear (Keith Jarrett)s
⑦ パウツ・オーヴァー/Pouts' Over (And the Day's Not Through) (Keith Jarrett)
⑧ 君に捧ぐ/Dedicated to You (Sammy Cahn, Saul Chaplin, Hy Zaret)
⑨ オールド・ラグ/Old Rag (Keith Jarrett)
■レーベル
ヴォルテックス・レコード/VortexRecords
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しかも、ローマ字だし(汗)
はい、「マイ・バック・ペイジ」は、私が初めて聴いたキースの曲です♪
持ってますよ~ テープで・・・
この曲ですっかり気に入って、そのあと「ケルンコンサート」を聴いて、大感激でした。
「マイ・バック・ペイジ」、いいですよね~。ぼく、あの曲大好きです。本家本元のボブ・ディランのものよりキース・ジャレットの演奏の方が断然良い!と思っております。
ケルン・コンサート、トリハダものですよね。あれも大好きなんですよ。
日本の「コジカナツル」(小島良喜p、金澤英明b、鶴谷智生ds)というピアノ・トリオも「マイ・バック・ペイジ」をやってますが、それも感動的な出来栄えなんです。この曲に関してはコジカナツルの方がさらに好きです~(^^)
よかったら試聴してみてね♡↓
http://www.ragnet.co.jp/ragmania_three.html