木星ほどの質量を持つガス惑星が、主星の恒星から極めて近い軌道(わずか0.015~0.5au程度:1天文単位auは太陽~地球間の平均距離)を、高速かつ非常に短い周期(わずか数日)で公転する天体があります。
主星のすぐそばを公転し表面温度が非常に高温になるので、灼熱の木星型惑星“ホットジュピター”と呼ばれていて、系外惑星の発見初期に多く見つかっていました。
ちなみに、太陽系最大の惑星である木星は、太陽の周りを約4000日かけて公転しています。
同じようなガス惑星なのに、如何にホットジュピターの公転周期が短いのかが分かりますね。
これまでの研究から、ホットジュピターは当初から高温の環境にはなく、“コールドジュピター”として、より寒冷で遠い場所で形成されたのではないかと考えられています。
でも、どのようにして現在観測されているような、主星に接近したガス惑星へと進化したのかは、大きな謎になっています。
どの惑星の軌道よりも離心率が大きい惑星
今回の研究では、地球から約1100光年彼方の恒星を167日周期で公転している、“TIC 241249530 b”というホットジュピター形成途上の惑星を発見しています。
“TIC 241249530 b”が周回しているのは離心率が大きい軌道、つまり楕円形の軌道でした。
離心率とは、公転軌道が真円からどの程度離れているのかを示す値。
真円は0、楕円は0よりも大きくて1よりも小さく、放物線は1、双曲線は1よりも大きくなります。
“TIC 241249530 b”の離心率は0.94と大きく、主星の恒星に非常に接近した後、遠く離れた場所場まで移動し、再び戻ってくるという動きを繰り返しています。
もし、“TIC 241249530 b”が太陽系内に存在したとすると、太陽から水星までの距離の10分の1まで接近し、その後地球の軌道を超えたあたりまで離れ、再び太陽に近づくという軌道を描くことになります。
研究チームの推定によると、“TIC 241249530 b”の軌道は、これまでに発見されたどの惑星の軌道よりも離心率が大きいそうです。
“TIC 241249530 b”の軌道離心率が大きい理由
“TIC 241249530 b”が公転している主星は、太陽よりもわずかに高温で、大きく、重い主系列星“TIC 241249530”です。
この恒星は、太陽の約1.24倍の質量と1.404倍の半径を持っていて、年齢は約32億年と推定されています。
また視線速度の測定から、この恒星が連星系の一部であることが明らかになっています。
“TIC 241249530 b”の主星には、“TIC 241249532”という伴星が存在し、この伴星は投影距離で1664AU離れたところに位置しています。
連星系とは、2つの恒星がお互いの重力で結びつき、共通の重心を中心に公転している天体のこと。
“TIC 241249530 b”の軌道離心率が大きいのは、この連星系の伴星の重力相互作用によって軌道が徐々に変化したためと考えられています。
現在の“TIC 241249530 b”の軌道は、楕円形をしていて、主星の周りを1周するのに約167日かかっています。
研究チームが予測しているのは、10億年後に“TIC 241249530 b”は、より短期間で、より真円に近い軌道に移動していること。
その時点で、“TIC 241249530 b”は完全にホットジュピターへと進化を遂げていると考えられます。
軌道はどのようにして進化していくのか
今回の研究では、“TIC 241249530 b”の軌道がどのようにして進化してきたのか、そして今後数億年の間にどのように進化していくのかを調べるため、惑星の軌道力学のシミュレーションを行っています。
研究チームは、惑星“TIC 241249530 b”、主星“TIC 241249530”、そしてもう一つの近接した恒星“TIC 241249532”との間の重力相互作用をモデル化。
2つの恒星“TIC 241249530”と“TIC 241249532”が連星系で互いに公転しているのに対し、惑星“TIC 241249530 b”はより近いほうの恒星“TIC 241249530”を周回していることを観測していました。
この2つの軌道の構成は、サーカスのパフォーマーが腰の周りにフープを回し、手首の周りに別のフープを回しているようなものでした。
そこで本研究では、それぞれ異なる初期条件を設定した複数のシミュレーションを実施。
どの条件が数十億年かけて進化すると、現在観測されている惑星と恒星の軌道の構成になるのかを調べています。
そして、最も近い結果を得られたシミュレーションを現在から未来へと進めています。
これは、この2つの軌道の構成が、今後数十億年の間にどのように進化していくのかを予測するためでした。
シミュレーションで明らかになったのは、“TIC 241249530 b”がホットジュピターへと進化する過程にある可能性が高いことです。
数十億年前、“TIC 241249530 b”は主星から遠く離れた寒冷な領域で、円軌道を描きながら公転する“コールドジュピター”として形成されました。
でも、主星と伴星の軌道系射角がズレていたので、その重力相互作用により“TIC 241249530 b”の軌道は徐々に歪み、離心率が大きくなっていきました。
シミュレーションでは、さらに10億年後の軌道も示されています。
この時、惑星“TIC 241249530 b”の軌道は、主星“TIC 241249530”の潮汐力によって極めて近い円軌道で安定し、惑星は完全にホットジュピターになるはずです。
高偏心移動によってホットジュピターが形成される
研究チームによる観測と、惑星の進化に関するシミュレーションは、ホットジュピターが高偏心移動によって形成されるという説を裏付けるものになります。
高偏心移動とは、惑星の軌道が他の恒星や惑星との相互作用によって時間の経過とともに徐々に変化し、その結果、軌道が大きく変化するプロセスです。
このプロセスでは、惑星の軌道はぐらつき、徐々に縮小していきます。
今回の発見だけでなく、他の統計的研究からも、ホットジュピターの一部は高偏心移動によって形成されたはずであることが明らかになっています。
“TIC 241249530 b”の発見と、その後の軌道進化のシミュレーションは、ホットジュピターがどのように形成されるかについて重要な手掛かりを提供しています。
この発見は、太陽系外惑星がいかに多様性に富んでいて、その形成過程が複雑であることを示す好例と言えます。
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主星のすぐそばを公転し表面温度が非常に高温になるので、灼熱の木星型惑星“ホットジュピター”と呼ばれていて、系外惑星の発見初期に多く見つかっていました。
ちなみに、太陽系最大の惑星である木星は、太陽の周りを約4000日かけて公転しています。
同じようなガス惑星なのに、如何にホットジュピターの公転周期が短いのかが分かりますね。
これまでの研究から、ホットジュピターは当初から高温の環境にはなく、“コールドジュピター”として、より寒冷で遠い場所で形成されたのではないかと考えられています。
でも、どのようにして現在観測されているような、主星に接近したガス惑星へと進化したのかは、大きな謎になっています。
この研究は、ペンシルベニア州立大学とNSF国立赤外線天文学研究所(NSF NOIRLab)のArvind Guptaさん、マサチューセッツ工科大学(MIT)の学部生Haedam Imさんたちの研究チームが進めています。
本研究の詳細は、イギリスの科学雑誌“Nature”に“A hot-Jupiter progenitor on a super-eccentric retrograde orbit”として掲載されました。
本研究の詳細は、イギリスの科学雑誌“Nature”に“A hot-Jupiter progenitor on a super-eccentric retrograde orbit”として掲載されました。
図1.コールドジュピターからホットジュピターになる途中のガス惑星“TIC 241249530 b”のイメージ図。(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva.) |
どの惑星の軌道よりも離心率が大きい惑星
今回の研究では、地球から約1100光年彼方の恒星を167日周期で公転している、“TIC 241249530 b”というホットジュピター形成途上の惑星を発見しています。
“TIC 241249530 b”が周回しているのは離心率が大きい軌道、つまり楕円形の軌道でした。
離心率とは、公転軌道が真円からどの程度離れているのかを示す値。
真円は0、楕円は0よりも大きくて1よりも小さく、放物線は1、双曲線は1よりも大きくなります。
“TIC 241249530 b”の離心率は0.94と大きく、主星の恒星に非常に接近した後、遠く離れた場所場まで移動し、再び戻ってくるという動きを繰り返しています。
もし、“TIC 241249530 b”が太陽系内に存在したとすると、太陽から水星までの距離の10分の1まで接近し、その後地球の軌道を超えたあたりまで離れ、再び太陽に近づくという軌道を描くことになります。
研究チームの推定によると、“TIC 241249530 b”の軌道は、これまでに発見されたどの惑星の軌道よりも離心率が大きいそうです。
“TIC 241249530 b”の軌道離心率が大きい理由
“TIC 241249530 b”が公転している主星は、太陽よりもわずかに高温で、大きく、重い主系列星“TIC 241249530”です。
この恒星は、太陽の約1.24倍の質量と1.404倍の半径を持っていて、年齢は約32億年と推定されています。
また視線速度の測定から、この恒星が連星系の一部であることが明らかになっています。
“TIC 241249530 b”の主星には、“TIC 241249532”という伴星が存在し、この伴星は投影距離で1664AU離れたところに位置しています。
連星系とは、2つの恒星がお互いの重力で結びつき、共通の重心を中心に公転している天体のこと。
“TIC 241249530 b”の軌道離心率が大きいのは、この連星系の伴星の重力相互作用によって軌道が徐々に変化したためと考えられています。
現在の“TIC 241249530 b”の軌道は、楕円形をしていて、主星の周りを1周するのに約167日かかっています。
研究チームが予測しているのは、10億年後に“TIC 241249530 b”は、より短期間で、より真円に近い軌道に移動していること。
その時点で、“TIC 241249530 b”は完全にホットジュピターへと進化を遂げていると考えられます。
軌道はどのようにして進化していくのか
今回の研究では、“TIC 241249530 b”の軌道がどのようにして進化してきたのか、そして今後数億年の間にどのように進化していくのかを調べるため、惑星の軌道力学のシミュレーションを行っています。
研究チームは、惑星“TIC 241249530 b”、主星“TIC 241249530”、そしてもう一つの近接した恒星“TIC 241249532”との間の重力相互作用をモデル化。
2つの恒星“TIC 241249530”と“TIC 241249532”が連星系で互いに公転しているのに対し、惑星“TIC 241249530 b”はより近いほうの恒星“TIC 241249530”を周回していることを観測していました。
この2つの軌道の構成は、サーカスのパフォーマーが腰の周りにフープを回し、手首の周りに別のフープを回しているようなものでした。
そこで本研究では、それぞれ異なる初期条件を設定した複数のシミュレーションを実施。
どの条件が数十億年かけて進化すると、現在観測されている惑星と恒星の軌道の構成になるのかを調べています。
そして、最も近い結果を得られたシミュレーションを現在から未来へと進めています。
これは、この2つの軌道の構成が、今後数十億年の間にどのように進化していくのかを予測するためでした。
シミュレーションで明らかになったのは、“TIC 241249530 b”がホットジュピターへと進化する過程にある可能性が高いことです。
数十億年前、“TIC 241249530 b”は主星から遠く離れた寒冷な領域で、円軌道を描きながら公転する“コールドジュピター”として形成されました。
でも、主星と伴星の軌道系射角がズレていたので、その重力相互作用により“TIC 241249530 b”の軌道は徐々に歪み、離心率が大きくなっていきました。
シミュレーションでは、さらに10億年後の軌道も示されています。
この時、惑星“TIC 241249530 b”の軌道は、主星“TIC 241249530”の潮汐力によって極めて近い円軌道で安定し、惑星は完全にホットジュピターになるはずです。
高偏心移動によってホットジュピターが形成される
研究チームによる観測と、惑星の進化に関するシミュレーションは、ホットジュピターが高偏心移動によって形成されるという説を裏付けるものになります。
高偏心移動とは、惑星の軌道が他の恒星や惑星との相互作用によって時間の経過とともに徐々に変化し、その結果、軌道が大きく変化するプロセスです。
このプロセスでは、惑星の軌道はぐらつき、徐々に縮小していきます。
今回の発見だけでなく、他の統計的研究からも、ホットジュピターの一部は高偏心移動によって形成されたはずであることが明らかになっています。
“TIC 241249530 b”の発見と、その後の軌道進化のシミュレーションは、ホットジュピターがどのように形成されるかについて重要な手掛かりを提供しています。
この発見は、太陽系外惑星がいかに多様性に富んでいて、その形成過程が複雑であることを示す好例と言えます。
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