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天の川銀河の中心部に中間質量ブラックホールを発見! 初期宇宙における超大質量ブラックホールの形成過程の解明へ

2024年07月21日 | ブラックホール
近年、天文学の分野において、銀河中心部における中間質量ブラックホールの発見が相次いでいます。
これらの発見は、宇宙の進化、特に初期宇宙における超大質量ブラックホールの形成過程を解明する上で、極めて重要な意味を持つと考えられているんですねー

今回、研究チームは、天の川銀河の中心に位置する超大質量ブラックホール“いて座A*(いてざエースター)”のすぐ近くにある星団の研究において、別の中間質量ブラックホールの兆候を発見しています。

中間質量ブラックホールは膨大な研究努力にもかかわらず、これまでに全宇宙で約10個しか見つかっていませんでした。

その中間質量ブラックホールは、ビッグバンの直後に形成されたと考えられていて、合体することで超大質量ブラックホールの“種”の役割を果たします。
このことから、中間質量ブラックホールは、ブラックホールの進化過程を理解する上で重要なカギを握ると考えられています。

さらに、今回の発見は、中間質量ブラックホールの形成場所や、その成長過程を解明する上でも、貴重な手掛かりとなる可能性があります。
この研究は、ケルン大学 物理学研究所のFlorian Peißker博士を中心とする国際研究チームが進めています。
本研究の成果は、アメリカの天体物理学専門誌“The Astrophysical Journal”に“The Evaporating Massive Embedded Stellar Cluster IRS 13 Close to Sgr A*. II. Kinematic structure”として掲載されました。DOI:10.3847/1538-4357/ad4098
図1.超大型望遠鏡“VLT”搭載の補償光学装置“NACO”とアルマ望遠鏡が観測した星団“IRS13”。(Credit: The Astrophysical Journal (2024). DOI: 10.3847/1538-4357/ad4098)
図1.超大型望遠鏡“VLT”搭載の補償光学装置“NACO”とアルマ望遠鏡が観測した星団“IRS13”。(Credit: The Astrophysical Journal (2024). DOI: 10.3847/1538-4357/ad4098)


観測的な証拠が乏しく謎に包まれたブラックホール

ブラックホールは、極めて高密度かつ大質量なので、その重力によって光さえも脱出できない天体のことです。
そのブラックホールも、質量によって“超大質量ブラックホール”、“中間質量ブラックホール”、“恒星質量ブラックホール”の3種類に分類されています。

質量によって分類される3種類のブラックホール

 1.恒星質量ブラックホール
太陽の数倍から数十倍の質量を持つ、比較的小さなブラックホール。
大質量の恒星がその一生の最期に、自身の重力によって崩壊して形成されると考えられている。
 2.中間質量ブラックホール
太陽の数百倍から数万倍の質量を持つブラックホール。
恒星質量ブラックホールと超大質量ブラックホールの中間に位置し、その形成過程や進化についてはまだ多くの謎が残されている。
 3.超大質量ブラックホール
太陽の数百万倍から数十億倍という、非常に大きな質量を持つブラックホール。
ほとんどの銀河の中心に存在すると考えられていて、銀河の進化と密接に関係していると考えられている。

中間質量ブラックホールは、その存在が長らく予測されていても、観測的な証拠が乏しく、その形成過程や宇宙における役割が謎に包まれていました。

でも、近年の観測技術の進歩により、その存在を示唆する観測結果が得られるようになり、天文学の分野で大きな注目を集めています。


天の川銀河の中心部で見つけた中間質量ブラックホールの証拠

天の川銀河の中心にあると考えられている中間質量ブラックホールは、星団“IRS 13”の中にある電離したガスの回転をアルマ望遠鏡で観測することで発見されました。
研究チームは、E3と呼ばれる星の位置をサブミリ波で観測することで電離ガスの環を発見しています。

このガスの環は、-200km/sから+200km/sの速度でE3の周りを回転。
電離ガスのこの回転は、その場に大質量天体、この場合は中間質量ブラックホールが存在することを示す有力な証拠となっています。

この中間質量ブラックホールの質量の推定は、太陽の約3×104倍とされています。
そのスペクトルエネルギー分布(SED)は、2~10keV帯域のX線放射とミリ波放射をよく再現する、放射非効率性降着流(ADAF)モデルと一致。
このモデルは、中間質量ブラックホールの存在をさらに裏付けるものでした。

でも、中間質量ブラックホールの存在を確認し、“IRS 13”内の星団メンバーの性質をさらに検証するには、今後ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡と超大型望遠鏡“VLT”の高解像度画像分光器“ERIS”による観測が必要となります。


どうやって中間質量ブラックホールは形成されるのか

中間質量ブラックホールの形成過程については、いくつかのシナリオが提唱されていますが、未だ明確な結論は出ていません。
提唱されている主なシナリオとして、以下の3つが挙げられます。

 1.巨大分子雲の重力崩壊
宇宙初期に存在した巨大なガス雲である巨大分子雲が、自身の重力によって収縮し、中心部で中間質量ブラックホールが形成されたとするシナリオ。

 2.星団内部での大質量星の合体
星団内部で、複数の重い星が衝突・合体を繰り返すことで、中間質量ブラックホールが形成されたとするシナリオ。

 3.初期宇宙における密度ゆらぎの成長
ビッグバン直後の宇宙に存在したわずかな密度のゆらぎが成長し、中間質量ブラックホールが形成されたとするシナリオ。

これらのシナリオは、それぞれ観測結果や理論的な裏付けを持つ一方で、未解明な部分も多く残されています。
今後の研究により、これらのシナリオのどれが正しいのか、あるいは全く新しいシナリオが提唱されるのかが、明らかになっていくと期待されています。


今後の研究で期待される進展

中間質量ブラックホールの発見は、宇宙の進化、特に初期宇宙における超大質量ブラックホールの形成過程を理解する上で、非常に重要な意味を持つと考えられています。
このため、今後の研究で期待される進展について以下に挙げていきます。

 1.初期宇宙における超大質量ブラックホールの形成過程の解明
現在の宇宙論において、初期宇宙における超大質量ブラックホールの形成過程は大きな謎として残されています。
その謎を解明する上で、中間質量ブラックホールは重要なカギを握ると考えられています。

研究チームでは、ビッグバンの直後に形成された多数の中間質量ブラックホールが、互いに合体を繰り返すことで、超大質量ブラックホールへと成長したというシナリオを提唱しています。
このシナリオは、現在の宇宙で観測される超大質量ブラックホールの質量分布を説明できる可能性を秘めています。

今回の発見を皮切りに、今後天の川銀河中心部においてより多くの中間質量ブラックホールの探査が進められることが期待されます。
その結果、中間質量ブラックホールの質量分布や進化段階に関する詳細な情報が得られる可能性があり、初期宇宙における超大質量ブラックホールの形成シナリオの検証に大きく貢献すると考えられます。

 2.天の川銀河中心部の星形成史の解明
中間質量ブラックホールは、その周囲の星形成活動にも影響を与えていると考えられています。
このため、今回の発見は、天の川銀河中心部の星形成史の解明にも新たな視点をもたらすことが期待されます。

本研究では“IRS 13”と呼ばれる星団が、天の川銀河中心部に向かって移動しながら星形成を行ってきた可能性が示唆されました。

また、星団“IRS 13”形成過程、天の川銀河中心部への移動経路、そして中間質量ブラックホールとの関連性を探ることで、天の川銀河中心部の星形成史における中間質量ブラックホールの役割を明らかにできると期待されます。

 3.中間質量ブラックホールの形成メカニズムの解明
中間質量ブラックホールの形成メカニズムは、現代天文学における未解決問題の一つで、今回の発見は、その謎に迫るための重要な手掛かりを与えてくれるはずです。

今回の発見を機に、中間質量ブラックホールの周囲の環境や、その質量降着率などの詳細な観測が進められると期待されます。
それらの観測データに基づいて、それぞれの形成シナリオを検証することで、中間質量ブラックホールの形成メカニズムの解明に近づけると考えられています。

 4.重力理論の検証
中間質量ブラックホールは、その強い重力場によって、アインシュタインの一般相対性理論を検証するための格好の舞台となります。

特に、中間質量ブラックホールの“ブラックホールシャドウ”の観測は、一般相対性理論の検証に有効だと考えられています。
ブラックホールシャドウとは、フラックホールの重力によって光が曲げられることで生じる、ブラックホール周辺の暗い領域のことです。

また、今後発展が期待される重力波天文学との連携によって、中間質量ブラックホールの合体イベントなどを観測できる可能性もあり、より直接的に一般相対性理論を検証できる可能性も秘めています。

今回の発見は、天の川銀河中心部のみにとどまらず、宇宙全体に対する理解を深める上での大きな一歩と言えます。
今後、更なる観測と理論研究が進められることで、私たち人類の宇宙に対する知見は、さらに広がっていくはずです。


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