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129億年前の宇宙に存在する銀河を調べて分かった! 大質量ブラックホールと親銀河の関係は近傍宇宙と初期宇宙で大きく変わらない

2023年08月19日 | 銀河・銀河団
銀河とその中心にある大質量ブラックホールの関係性は、いつ始まり、お互いにどのように影響を与えて成長してきたのでしょうか?

このことを明らかにするには初期の宇宙に存在する銀河の観測が必要でした。
今回、研究チームは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いて、約129億年前の宇宙に存在する2つのクエーサーを観測。
その結果、中心に活発な大質量ブラックホールが潜む銀河の姿をとらえることに成功したそうです。

このことは、6月29日に東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)、東京大学大学院 理学系研究科、愛媛大学、国立天文台(NAOJ)により発表されました。
この研究は、Kavli IPMUのシューヘン・ディン特任研究員、ジョン・シルバーマン教授、北京大学 カブリ天文天体物理研究所の尾上匡房カブリ天体物理学フェロー、東大大学院 理学系研究科 天文学専攻の柏川伸成教授、同・嶋作一大准教授、同・理学系研究科 天文学教育研究センターの河野孝太郎教授、愛媛大 宇宙進化研究センターの長尾透教授、同・松岡良樹准教授、NAOJ ハワイ観測所の青木賢太郎シニアサポートアストロノマーら40名以上の研究者が参加した国際共同研究チームが進めています。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡。(Credit: NASA/Chris Gunn(出所:愛媛大プレスリリースPDF))
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡。(Credit: NASA/Chris Gunn(出所:愛媛大プレスリリースPDF))

銀河とその中心にある大質量ブラックホールの関係性

大半の銀河の中心に位置する大質量ブラックホールは、初期宇宙でどのようにして形成されたのでしょうか?

さらに、現在の宇宙では、大質量ブラックホールとそれを抱える親銀河の大きさに10桁もの差があるのに、なぜ両者の重さに強い正の相関があるのでしょうか?

どちらも、その理由は分かっていません。

こうした銀河と大質量ブラックホールの関係性がいつ始まり、お互いにどのように影響を与えて成長してきたのかを明らかにするには、なるべく過去(遠くの)の宇宙に存在するクエーサーの親銀河の観測が不可欠になります。

クエーサーは、銀河中心にある大質量ブラックホールに物質が落ち込むことで生み出される莫大なエネルギーによって輝く天体。
遠方にあるにもかかわらず明るく見えます。

なので、大質量ブラックホールを見つけるには、この明るく輝くクエーサーを探す方法が効率的なんですねー

でも、初期宇宙となると、銀河の見かけの大きさは小さく、明るさも暗くなってしまいます。
さらに、明るく輝くクエーサーの光が強く、親銀河の光は埋もれてしまうことに…
そう、親銀河の光だけを分離して観測することは極めて困難になります。

ターゲットに選んだのは暗いクエーサー

そこで、研究チームが観測に用いたのはジェームズウェッブ宇宙望遠鏡。
そして、ターゲットになったのは、赤方偏移z~6を超える129億年前の宇宙に存在するクエーサー2天体でした。
膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移の度合いを用いて算出されている。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ“NIRCam”を用いて、2022年10月26日にはクエーサー“HSCJ2255+0251”、さらに同年の11月6日にはクエーサー“HSCJ2236+0032”を観測しています。

2天体は約1時間ずつ観測され、波長1.50μm、3.56μmの2つの近赤外線画像が取得されています。

両クエーサーは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ“HSC(Hyper Suprime-cam)”による大規模撮像探査“すばるHSC戦略枠観測プログラム(HSC-SSP)”によって発見された天体でした。

研究チームでは、これまでにHSC-SSPを使うことで160個超のクエーサーを初期宇宙に発見しています。

その多くが、同時代の他のクエーサーと比べて10倍ほど暗く、当時の宇宙の代表的な明るさのもの。
今回のターゲットを選んだのも、これらの暗いクエーサーであれば、その光に邪魔されることなく親銀河の星の光をとらえられると考えたからでした。

近傍宇宙と初期宇宙で大きく変わらない銀河と大質量ブラックホールの関係

大質量ブラックホールからの光は、本来微小な領域から放射されています。
でも、望遠鏡で得られた画像上では、複数の画素にわたって広がって観測されてしまいます。

その光をクエーサーの画像上から差し引くために、研究チームが利用したのは、ブラックホールと同様にコンパクトな星でした。

ターゲットのクエーサー周囲に映った星の画像を使って、微小領域からの光の広がり方をモデル化。
それを差し引くことで、空間的に広がった親銀河の光の成分のみを抽出しているんですねー

2つの波長での親銀河の明るさの情報から推定された質量は、“HSCJ2255+0251”の銀河は太陽の340億倍、“HSCJ2236+0032”の銀河は太陽の1300億倍。
これは、同世代の銀河の中でも最も重たい部類になります。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ“NIRCam”を用いて波長3.56μmの赤外線で観測された“HSC J2236+0032”。(左)ズームアウトして小さく表示された画像、(中央)クエーサーの画像、(右)ブラックホールの光を差し引いた親銀河の画像。クエーサー画像の雪の結晶のような形状の光は、微小領域から放たれた光が望遠鏡の光学系によって広がって観測されているもので、実際の光の分布とは異なる。画像の色は天体の明るさが示されていて、実際に肉眼に見える色とは異なる。(Credit: Ding, Onoue, Silverman et al.(出所:愛媛大プレスリリースPDF))
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ“NIRCam”を用いて波長3.56μmの赤外線で観測された“HSC J2236+0032”。(左)ズームアウトして小さく表示された画像、(中央)クエーサーの画像、(右)ブラックホールの光を差し引いた親銀河の画像。クエーサー画像の雪の結晶のような形状の光は、微小領域から放たれた光が望遠鏡の光学系によって広がって観測されているもので、実際の光の分布とは異なる。画像の色は天体の明るさが示されていて、実際に肉眼に見える色とは異なる。(Credit: Ding, Onoue, Silverman et al.(出所:愛媛大プレスリリースPDF))
さらに、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線分光装置“NIRSpec”で、大質量ブラックホール周囲を高速で回転する物質の運動を調査してみると、それぞれの銀河の大質量ブラックホールは、質量が太陽の2億倍と14億倍と求められました。

これらの観測結果から分かったことは、銀河と大質量ブラックホールの関係が、近傍宇宙と初期宇宙で大きく変わらないこと。

研究チームが考えているのは、今後予定されているジェームズウェッブ宇宙望遠鏡のサイクル1の観測データを利用し、より多くのクエーサーで今回と同様の研究を継続すること。
これにより、銀河と大質量ブラックホールのどちらが先に成長したのか? っという問題の解決に挑むそうです。

さらに、研究チームには、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測時間として、今秋開始予定のサイクル2でも割り当てられることが決まっています。

そこでは、クエーサー“HSC J2236+0032”の親銀河がどのような星で構成されているのか、このクエーサーの周りに銀河がどれくらい群れているのか、といったより詳細な調査を行う計画です。

それに加え、アルマ望遠鏡を使った親銀河中のガスとチリの観測も現在進行中です。
今後の研究の進展により、大質量ブラックホールの形成過程の謎や親銀河との関係性、進化の過程に迫ることが大いに期待されます。


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