火星の表面には無数の谷筋があり、その一部はごく最近流れた液体の痕跡のようにも見えます。
でも、寒く乾燥した現在の火星では、地形に痕跡を残すほど大量の液体が流れたことを説明できそうにありませんよね。
今回、カリフォルニア工科大学のJ. L. Dicksonさんたちの研究チームが考えたのは、火星の自転軸が現在よりも傾いていたこと。
そうすれば、火星表面で液体の水が谷筋を作れるほど安定して存在できるようです。
このような現象は、過去数百万年間で何度も起きたとみられていて、直近では約63万年前に起きたと考えられています。
でも、現在の火星は極度に乾燥していて、その表面には液体の水はもちろんのこと、極地を除いて個体の水さえ存在していません。
火星が現在のような低温と非常に薄い大気しかない環境になったのは、今から約30億年前だと考えられています。
このような環境では、水は氷から水蒸気へと直接昇華してしまうので、現在の火星表面に存在する氷は主に二酸化炭素の氷(ドライアイス)になります。
その一方で、火星表面をよく観察すると、かなり最近になって形成された谷筋がクレーターや台地の斜面にいくつも見つかります。
火星表面には二酸化炭素が大量にあるので、このような谷筋はこれまで二酸化炭素の昇華によって形成されたと考えられてきました。
でも、二酸化炭素が固体から気体へと相変化する仮定で生じる谷筋のモデル形状は、火星に存在する実際の谷筋の形状とは一致しないという問題がありました。
そこで、谷筋の形状を最もよく説明するには“何かしらの液体が流れた跡”だと仮定することになります。
ただ、そのためには、現在の火星表面に存在できる液体の正体が問題になりました。
そう、条件次第では表土の下に埋蔵されている氷が溶けだして、谷筋を刻むほどの流れになっているのかもしれないんですねー
これは、地球の南極大陸でも見られるプロセスです。
南極は極度の低温によって凍り付いているように見えますが、夏の短期間は温度が上昇して、昼間だけ流れる小川が形成されることがあります。
では、ごく最近の火星にも、そのように穏やかな環境が本当に存在したのでしょうか?
今回の研究では、火星の自転軸の傾きを様々な値に変更したときに、火星の各地域がどのような気候になるのか、その気候の下で液体の水が存在できるのかどうかを、地形モデルを作成してシミュレーションしています。
現在の火星の自転軸は、軌道面に対して約25度傾いています。
これが、どれくらいの値になれば、適切な環境になるかを調べたわけです。
なお、ここで言う“適切な環境”とは、地表面の温度が0℃を超え、地表の気圧が612Paを超える場合に限られます。※1
新しい谷筋の78.4%は南緯25度~50度の地域に極端に偏って分布しているので、シミュレーションでは主に南半球の高緯度地域が穏やかな環境になる条件を探ることに重点が置かれました。
まず、自転軸の傾きを現在と同じ25度にした場合、平均気圧は600Paになり、低緯度地域と中緯度地域の標高マイナス2500メートル(※2)以下の地域において、春と夏のごく短期間だけ液体の水が存在することが分かりました。
実際、火星の赤道付近は高緯度地域と比べて乾燥していると推定されていて、仮に環境の条件が満たされたとしても、谷筋は形成されないと考えられます。
一方で、自転軸を現在よりも傾けた場合には、異なる結果が得られています。
傾きを30℃にした場合の平均気圧は800Paになり、北半球の谷筋がある地域は液体の水が存在できる環境になることが分かりました。
例えば、北緯30度では火星の1年のうち約13%の期間に渡って、液体の水が存在できると推定されています。
ただ、南半球の多くの地域では気圧が612Paを超えず、液体の水は存在できないと推定されるので、南半球に多くの谷筋が存在することとは矛盾することになりました。
特に、中緯度よりも緯度の高い地域では、標高4500メートル以下の場合にのみ液体の水が存在できるようです。
このことは、南半球の高緯度地域に谷筋が存在することや、標高4500メートルよりも高い場所では谷筋が存在しないことと一致していて、現実の火星で見られる地形と最も一致することを意味します。
そこで、研究チームが考えているのは、火星の自転軸の傾きが、過去数百万年間で何度か35度に達していること。
その頃に流れた液体の水が、これらの谷筋を刻んだと推定しています。
直近では、約63万年前にもそのような環境になったとも推定されていますが、これは数十億年にわたる火星の歴史の中では、ごくごく最近のことだと言えます。
現在、火星の自転軸は約25度傾いていますが、このような変化は未来でも起こりうるはずです。
今回の発見は、火星が考えられていたほどには不毛ではないことを示す1つの証拠になります。
将来の火星探査ミッションでは、このような比較的最近形成された谷筋を調べることで、場合によっては生命の痕跡を発見できるかもしれません。
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でも、寒く乾燥した現在の火星では、地形に痕跡を残すほど大量の液体が流れたことを説明できそうにありませんよね。
今回、カリフォルニア工科大学のJ. L. Dicksonさんたちの研究チームが考えたのは、火星の自転軸が現在よりも傾いていたこと。
そうすれば、火星表面で液体の水が谷筋を作れるほど安定して存在できるようです。
このような現象は、過去数百万年間で何度も起きたとみられていて、直近では約63万年前に起きたと考えられています。
谷筋の形状は何かしらの液体が流れた跡
火星表面に刻まれた様々な地形は、液体の水が大量に存在した過去を物語っています。でも、現在の火星は極度に乾燥していて、その表面には液体の水はもちろんのこと、極地を除いて個体の水さえ存在していません。
火星が現在のような低温と非常に薄い大気しかない環境になったのは、今から約30億年前だと考えられています。
このような環境では、水は氷から水蒸気へと直接昇華してしまうので、現在の火星表面に存在する氷は主に二酸化炭素の氷(ドライアイス)になります。
図1.火星の斜面やクレーターの縁には、ごく最近刻まれたと考えられる谷筋が無数に存在する。主に存在するのが南半球の高緯度地域になる。地域Cは谷筋が見られる標高の上限になる標高4500メートルに近く、それより標高の高い地域Bでは谷筋は見られない。(Credit: Dickson, et.al.) |
火星表面には二酸化炭素が大量にあるので、このような谷筋はこれまで二酸化炭素の昇華によって形成されたと考えられてきました。
でも、二酸化炭素が固体から気体へと相変化する仮定で生じる谷筋のモデル形状は、火星に存在する実際の谷筋の形状とは一致しないという問題がありました。
そこで、谷筋の形状を最もよく説明するには“何かしらの液体が流れた跡”だと仮定することになります。
ただ、そのためには、現在の火星表面に存在できる液体の正体が問題になりました。
火星に存在した穏やかな環境
火星表面に探査機を送り込めるようになった現在、表土のすぐ下には固体の水… つまり氷がかなり豊富に存在することが分かってきました。そう、条件次第では表土の下に埋蔵されている氷が溶けだして、谷筋を刻むほどの流れになっているのかもしれないんですねー
これは、地球の南極大陸でも見られるプロセスです。
南極は極度の低温によって凍り付いているように見えますが、夏の短期間は温度が上昇して、昼間だけ流れる小川が形成されることがあります。
では、ごく最近の火星にも、そのように穏やかな環境が本当に存在したのでしょうか?
今回の研究では、火星の自転軸の傾きを様々な値に変更したときに、火星の各地域がどのような気候になるのか、その気候の下で液体の水が存在できるのかどうかを、地形モデルを作成してシミュレーションしています。
現在の火星の自転軸は、軌道面に対して約25度傾いています。
これが、どれくらいの値になれば、適切な環境になるかを調べたわけです。
なお、ここで言う“適切な環境”とは、地表面の温度が0℃を超え、地表の気圧が612Paを超える場合に限られます。※1
これは水の三重点(物質の個体・液体・気体が共存する点)になる0.01℃と611.657Paを基準としている。温度と圧力が、この値を上回らなければ、液体の水は現れない。現在の火星では、赤道付近が夏のごく短期間だけこの条件を満たしている。
穏やかな環境になる条件をシミュレーションから探る
特に注目されるのは、最近刻まれたと考えられる谷筋のほとんどが、南半球の高緯度地域に分布していることです。新しい谷筋の78.4%は南緯25度~50度の地域に極端に偏って分布しているので、シミュレーションでは主に南半球の高緯度地域が穏やかな環境になる条件を探ることに重点が置かれました。
まず、自転軸の傾きを現在と同じ25度にした場合、平均気圧は600Paになり、低緯度地域と中緯度地域の標高マイナス2500メートル(※2)以下の地域において、春と夏のごく短期間だけ液体の水が存在することが分かりました。
火星における標高は、表面気圧が水の三重点とほぼ一致する610.5Paになる高度を0メートルと定義されている。
でも、そのような地域に谷筋はほぼ存在していませんでした。実際、火星の赤道付近は高緯度地域と比べて乾燥していると推定されていて、仮に環境の条件が満たされたとしても、谷筋は形成されないと考えられます。
一方で、自転軸を現在よりも傾けた場合には、異なる結果が得られています。
傾きを30℃にした場合の平均気圧は800Paになり、北半球の谷筋がある地域は液体の水が存在できる環境になることが分かりました。
例えば、北緯30度では火星の1年のうち約13%の期間に渡って、液体の水が存在できると推定されています。
ただ、南半球の多くの地域では気圧が612Paを超えず、液体の水は存在できないと推定されるので、南半球に多くの谷筋が存在することとは矛盾することになりました。
特に、中緯度よりも緯度の高い地域では、標高4500メートル以下の場合にのみ液体の水が存在できるようです。
このことは、南半球の高緯度地域に谷筋が存在することや、標高4500メートルよりも高い場所では谷筋が存在しないことと一致していて、現実の火星で見られる地形と最も一致することを意味します。
そこで、研究チームが考えているのは、火星の自転軸の傾きが、過去数百万年間で何度か35度に達していること。
その頃に流れた液体の水が、これらの谷筋を刻んだと推定しています。
直近では、約63万年前にもそのような環境になったとも推定されていますが、これは数十億年にわたる火星の歴史の中では、ごくごく最近のことだと言えます。
現在、火星の自転軸は約25度傾いていますが、このような変化は未来でも起こりうるはずです。
今回の発見は、火星が考えられていたほどには不毛ではないことを示す1つの証拠になります。
将来の火星探査ミッションでは、このような比較的最近形成された谷筋を調べることで、場合によっては生命の痕跡を発見できるかもしれません。
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