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二酸化炭素が少ない“ジャコビニ・チンナー彗星”。実は他の彗星よりも暖かい場所で誕生していた。

2020年05月15日 | 宇宙 space
10月のりゅう座流星群の母天体として知られている“ジャコビニ・チンナー彗星”。
この彗星を他の彗星と比べてみると、水に対する二酸化炭素の存在量が特に小さいことが判明したんですねー
このことは、“ジャコビニ・チンナー彗星”が他の彗星よりも暖かい場所で形成された可能性があることを示唆するようです。


複雑な有機物を豊富に含んだ彗星

太陽系が誕生した46億年前、生まれたての太陽の周囲にはガスとチリを含む原始惑星系円盤が存在し、その中で惑星や小天体が形成されていました。
原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がるガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。

この原始惑星系円盤の中で彗星は、彗星氷の主成分である水が凍るような、およそマイナス120度以下という低温の場所で誕生したはずなんですねー
そのため多くの彗星は同じような組成比を持っています。

でも、10月のりゅう座流星群(ジャコビニ流星群)の母天体として知られている“ジャコビニ・チンナー彗星”は、他の彗星と比べると複雑な有機物を豊富に含んでいることが明らかになっています。

複雑な有機物は比較的温暖な環境で作られると考えられています。
なので、“ジャコビニ・チンナー彗星”は他の彗星と異なり、温かい場所で誕生した可能性があります。
2018年9月16日に撮影された“ジャコビニ・チンナー彗星”。(Credit: IKEP-)
2018年9月16日に撮影された“ジャコビニ・チンナー彗星”。(Credit: IKEP-)


彗星に含まれる二酸化炭素に注目

そこで、京都産業大学の研究チームは、彗星に含まれる二酸化炭素が水よりも低温で昇華して失われるという性質に注目。
“ジャコビニ・チンナー彗星”の二酸化炭素に対する水の組成比を調べることで、彗星の氷ができた環境が温かかったかどうかを明らかにできると考えたわけです。

そして、2018年に地球に近づいた“ジャコビニ・チンナー彗星”を、すばる望遠鏡の高分散分光器HDSで観測しています。

ただ、彗星が発する二酸化炭素の光は地球の大気に吸収されてしまうので、観測には工夫が必要でした。

研究チームが着目したのは、水や二酸化炭素が太陽紫外線で壊されてできる特殊な酸素原子でした。
この酸素原子は、通常よりも高いエネルギー状態に励起されていて、光を出すことで安定な低いエネルギー状態へと遷移します。
この光が“酸素禁制線”という、地球のオーロラ発光で見られる緑や赤の光なんですねー
励起とは、外部からエネルギーを与えることによって、原子・分子などをより高いエネルギー状態に移すこと。

彗星のコマでは、水から壊れてできた酸素原子は赤の禁制線を出しやすく、二酸化炭素から壊れてできた酸素原子は緑と赤の禁制線を同程度に放出するという特徴があります。

そう、“酸素禁制線”の緑と赤の光の強さを比べれば、二酸化炭素に対する水の比率を推定することが可能だということです。
彗星のコマでの酸素の禁制線の発光メカニズム。太陽紫外線によって壊されて作られた水分子からの酸素原子は赤の禁制線を出しやすく、二酸化炭素からの酸素原子は緑と赤の禁制線を同程度放出する。(Credit: 京都産業大学)
彗星のコマでの酸素の禁制線の発光メカニズム。太陽紫外線によって壊されて作られた水分子からの酸素原子は赤の禁制線を出しやすく、二酸化炭素からの酸素原子は緑と赤の禁制線を同程度放出する。(Credit: 京都産業大学)
観測により判明したのは、“ジャコビニ・チンナー彗星”の水に対する二酸化炭素の比率はおよそ1%。
他の彗星が数%~30%の比率なので、“ジャコビニ・チンナー彗星”の比率は非常に小さいものでした。

この二酸化炭素が非常に少ないという結果は、過去の観測で明らかにされた一酸化炭素の成分比が低めであることとも整合していました。
一酸化炭素は二酸化炭素よりも、さらに低い温度で蒸発して失われてしまうからです。

このように二酸化炭素が少ないことから、“ジャコビニ・チンナー彗星”が他の彗星に比べて温かい領域で形成された可能性が高いことが示唆されることになります。


太陽系初期における彗星の形成環境

高温環境で作られやすい複雑な有機物が豊富に含まれるということは、これまでの研究結果とも矛盾しないものです。

原始惑星系円盤の中で木星や土星といった大きな惑星が誕生する際、その惑星の周りに存在する“周惑星系円盤”という小さなガスとチリの円盤が、衛星の誕生現場となっていました。

“ジャコビニ・チンナー彗星”も、この“周惑星系円盤”で誕生したのではないかと研究チームは考えたんですねー

“周惑星系円盤”は、太陽から同じ距離の原始惑星系円盤中のガスやチリよりも暖められています。
なので、そこで誕生した彗星は二酸化炭素が少なく、複雑な有機物を豊富に含んでいたはずです。
原始惑星系円盤内にある巨大惑星の周惑星系円盤と、周惑星系円盤内での彗星形成のイメージ。(Credit: 京都産業大学)
原始惑星系円盤内にある巨大惑星の周惑星系円盤と、周惑星系円盤内での彗星形成のイメージ。(Credit: 京都産業大学)
今回の研究により、これまで特異な特徴を持つ彗星として知られていた“ジャコビニ・チンナー彗星”の謎を、一つ明らかあにすることができました。

今後、さらに“ジャコビニ・チンナー彗星”の研究を続けるとともに、同じような特徴を持った変わり者の彗星を新たに見つけられれば、太陽系初期における彗星の形成環境を明らかにすることができそうですね。


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