ヨーロッパ宇宙機関は12月3日、位置天文衛星“ガイア”による最新の観測データ“EDR3(Early Data Release 3)”を公開しました。
このデータからは、宇宙における天体の位置や動きだけでなく、宇宙の歴史までもが見えてくるようです。
“ガイア”が打ち上げられたのは2013年12月のことでした。
ソユーズロケットに搭載された“ガイア”は、フランス領ギアナのギアナ宇宙センターから離昇。
打ち上げから約1時間半後、“ガイア”は管制センターとの通信確立や、遮光シールドを兼ねた太陽電池パネル展開などの始動シーケンスを完了しています。
その後、“ガイア”は太陽から見て地球の背後にある重力安定点“L2”へ約20日間かけて移動。
2014年7月からは、望遠鏡を全天にくまなく向けるサーベイ観測で、あらゆる天体の位置や地球からの距離などを観測し続けています。
2018年4月に公開された“DR2”から1億個以上も増えています。
そのうち約15億の星々については、年周視差と固有運動(星までの距離や天球上における星の見かけの動き)が記録されています。
“ガイア”の観測データは2016年の“DRI(Data Release 1)”や2018年の“DR2(Data Release 2)”でも公開されていました。
“EDR3”では長期間の観測により、固有運動の観測精度が“DR2”と比べて2倍に向上しているそうです。
上の動画は“EDR3”をもとに作成されたもの。
太陽から326光年(100パーセク)以内にある4万個の星々について、今後160万年で予想される地球から見た動きを示しています。
ヨーロッパ宇宙機関によると、“EDR3”に含まれているのは、同じ範囲に存在する星全体の92パーセントと推定される33万1312個の星々のデータ。
星々の位置や動きを精密に観測する“ガイア”のデータは、天の川銀河の知られざる歴史を紐解きつつあるようです。
それは、天の川銀河が100億年以上前に“ガイア・エンケラドス(ガイア・ソーセージ)”と呼ばれる別の銀河と衝突・合体していたことです。
“ガイア・エンケラドス”の質量は小マゼラン雲よりも少し大きい程度。
ただ、“ガイア・エンケラドス”は100億年前のまだ小さかった天の川銀河に対して、4分の1ほどの質量になるので衝突は相対的にかなり大きかったといえます。
さらに、約57億年前から約10億年前にかけて“いて座矮小銀河”と3回にわたり衝突していたことなどが明らかになっています。
数千万個の恒星からなる“いて座矮小銀河”は、天の川銀河に取り込まれつつあることが“DR2”の分析から分かっています。
3億~9億年前に接近したときは直撃こそしませんでしたが、水に石を投げ込んだ時の波紋のように、重力によって一部の星をかき乱したことが、“ガイア”のデータから示唆されています。
この他にも発表された研究成果は多岐にわたっています。
天の川銀河の外、はるか遠方に存在するクエーサーの位置は、見かけ上動いてます。
これは、太陽系が天の川銀河の中で動いていることが原因。
“EDR3”のデータからは、その太陽系の動きが年々わずかに変化していることも突き止められています。
もっと近くに目を向ければ、“EDR3”をもとに太陽系近傍の恒星を33万1312個集めたカタログの作成があります。
この数は太陽から100パーセクと(326光年)以内に存在する恒星の92%にあたると推測されています。
これまでの近傍較正カタログに比べ、質・量ともに大幅に向上したものでした。
天の川銀河の伴銀河である大小マゼラン雲に含まれる星の動きを分析した論文では、大マゼラン雲に渦巻き構造が存在することや、小マゼラン雲から星が流出していることなどが明らかにされています。
今回の“EDR3”を利用した研究もすでに始まっています。
そのうちの一つは、地球から見て天の川銀河の中心とは反対(つまり天の川銀河の外側)の方向にある天体を分析したもの。
すると、天の川銀河の平面から見て片側の星々は平面に向かってゆっくり動いているの対し、もう片側の星々は平面に向かって速く動いているという予想外の動きが判明しました。
その原因として、“いて座矮小銀河”との比較的最近起きた衝突が影響している可能性があげられています。
また、“EDR3”をもとに天の川銀河の伴銀河である大マゼラン雲や小マゼラン雲の星々を分析した研究者たちは、大マゼラン雲が渦巻き構造を有していることが明確に示されたとしています。
なお、今回公開された“EDR3”は2段階で行われるデータリリースの前半に当たり、完全版のリリースは2022年に予定されているようです。
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このデータからは、宇宙における天体の位置や動きだけでなく、宇宙の歴史までもが見えてくるようです。
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位置天文衛星“ガイア”による最新の観測データ“EDR3”をもとに作成された全天画像。(Credit: ESA/Gaia/DPAC) |
宇宙の立体地図を作る位置天文衛星“ガイア”
ヨーロッパ宇宙機関が運用する位置天文衛星“ガイア”は、天体の位置や運動について調査する位置天文学に特化した宇宙望遠鏡です。天の川銀河に属する恒星の位置と速度をきわめて精密に測定・記録している。
“ガイア”が打ち上げられたのは2013年12月のことでした。
ソユーズロケットに搭載された“ガイア”は、フランス領ギアナのギアナ宇宙センターから離昇。
打ち上げから約1時間半後、“ガイア”は管制センターとの通信確立や、遮光シールドを兼ねた太陽電池パネル展開などの始動シーケンスを完了しています。
その後、“ガイア”は太陽から見て地球の背後にある重力安定点“L2”へ約20日間かけて移動。
2014年7月からは、望遠鏡を全天にくまなく向けるサーベイ観測で、あらゆる天体の位置や地球からの距離などを観測し続けています。
“ガイア”が記録した観測データ
今回公開された“EDR3”に含まれているのは、18億以上の星々の位置と明るさに関する情報。2018年4月に公開された“DR2”から1億個以上も増えています。
そのうち約15億の星々については、年周視差と固有運動(星までの距離や天球上における星の見かけの動き)が記録されています。
“ガイア”の観測データは2016年の“DRI(Data Release 1)”や2018年の“DR2(Data Release 2)”でも公開されていました。
“EDR3”では長期間の観測により、固有運動の観測精度が“DR2”と比べて2倍に向上しているそうです。
位置天文衛星“ガイア”による最新の観測データ“Early Data Release 3”-空を横切る160万年の星の旅(Credit: ESA) |
太陽から326光年(100パーセク)以内にある4万個の星々について、今後160万年で予想される地球から見た動きを示しています。
ヨーロッパ宇宙機関によると、“EDR3”に含まれているのは、同じ範囲に存在する星全体の92パーセントと推定される33万1312個の星々のデータ。
星々の位置や動きを精密に観測する“ガイア”のデータは、天の川銀河の知られざる歴史を紐解きつつあるようです。
“DR2”から明らかになったこと
2018年公開の“DR2”をもとにした研究で明らかになっていることもあります。それは、天の川銀河が100億年以上前に“ガイア・エンケラドス(ガイア・ソーセージ)”と呼ばれる別の銀河と衝突・合体していたことです。
“ガイア・エンケラドス”の質量は小マゼラン雲よりも少し大きい程度。
ただ、“ガイア・エンケラドス”は100億年前のまだ小さかった天の川銀河に対して、4分の1ほどの質量になるので衝突は相対的にかなり大きかったといえます。
“EDR3”のデータは、衝突前の天の川銀河の、今より小さい円盤の痕跡を浮かび上がらせている。
さらに、約57億年前から約10億年前にかけて“いて座矮小銀河”と3回にわたり衝突していたことなどが明らかになっています。
数千万個の恒星からなる“いて座矮小銀河”は、天の川銀河に取り込まれつつあることが“DR2”の分析から分かっています。
3億~9億年前に接近したときは直撃こそしませんでしたが、水に石を投げ込んだ時の波紋のように、重力によって一部の星をかき乱したことが、“ガイア”のデータから示唆されています。
この他にも発表された研究成果は多岐にわたっています。
天の川銀河の外、はるか遠方に存在するクエーサーの位置は、見かけ上動いてます。
これは、太陽系が天の川銀河の中で動いていることが原因。
“EDR3”のデータからは、その太陽系の動きが年々わずかに変化していることも突き止められています。
もっと近くに目を向ければ、“EDR3”をもとに太陽系近傍の恒星を33万1312個集めたカタログの作成があります。
この数は太陽から100パーセクと(326光年)以内に存在する恒星の92%にあたると推測されています。
これまでの近傍較正カタログに比べ、質・量ともに大幅に向上したものでした。
天の川銀河の伴銀河である大小マゼラン雲に含まれる星の動きを分析した論文では、大マゼラン雲に渦巻き構造が存在することや、小マゼラン雲から星が流出していることなどが明らかにされています。
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“DR2”から判明した天の川銀河と“いて座矮小楕円銀河”の衝突の歴史を示した図。時間の流れは左上から右上→左下から右下の順番。(Credit: ESA) |
そのうちの一つは、地球から見て天の川銀河の中心とは反対(つまり天の川銀河の外側)の方向にある天体を分析したもの。
この方向は天の川銀河の円盤に沿った天体の動きを、星間物質による減光の影響を比較的抑えながら調べるのに向いている。
古い星から若い星までの動きをガイアデータ処理、および分析コンソーシアム(DPAC)に所属する研究者たちが分析。すると、天の川銀河の平面から見て片側の星々は平面に向かってゆっくり動いているの対し、もう片側の星々は平面に向かって速く動いているという予想外の動きが判明しました。
その原因として、“いて座矮小銀河”との比較的最近起きた衝突が影響している可能性があげられています。
また、“EDR3”をもとに天の川銀河の伴銀河である大マゼラン雲や小マゼラン雲の星々を分析した研究者たちは、大マゼラン雲が渦巻き構造を有していることが明確に示されたとしています。
なお、今回公開された“EDR3”は2段階で行われるデータリリースの前半に当たり、完全版のリリースは2022年に予定されているようです。
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“EDR3”をもとに分析された大マゼラン雲の星々の固有運動と密度を示した図。(Credit: Gaia Collaboration, X. Luri, et al. A&A 2020) |
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