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発泡スチロール並みに低密度な巨大ガス惑星“TOI-1420b”を発見! 大きさは木星とほぼ同じなのに質量が木星の約8%しかない理由とは

2023年12月03日 | 系外惑星
惑星の大きさと質量から求められる惑星の密度(平均密度)は、惑星に軽い物質が多く含まれるほど低く、中には“土星”のように水よりも低い値となる場合もあります。

さらに、太陽以外の恒星を公転する惑星“太陽系外惑星(系外惑星)”の中には、恒星からの熱による膨張で、さらに密度が低くなっているものもあるんですねー

そこで気になるのは、惑星の密度はどこまで低くなることが可能なのかということ。

今回の研究では、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”が観測した直径と質量の値をもとに、系外惑星“TOI-1420b”の平均密度を算出。
すると、“TOI-1420b”の平均密度が1立方センチ当たり0.082gという、低密度な発泡スチロールとほぼ同じ値だということが分かりました。

“TOI-1420b”の年齢が古いことを考慮すると、このことは興味深い結果と言えるようです。
この研究は、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのStephanie Yoshidaさんたちの研究チームが進めています。

土星よりも密度が低い巨大ガス惑星の条件

太陽系の惑星の密度は、最も高い地球の1立方センチ当たり5.513から、最も低い土星の1立方センチ当たり0.687まで様々あります。

土星の密度が水より低い値なのは、気体が主体の“巨大ガス惑星”だからです。
本体の大部分は水素とヘリウムで構成されています。

太陽系の外に視野を広げると、土星よりもさらに密度が低いとみられる惑星もいくつか見つかっています。

このような惑星は、木星や土星と同じような巨大ガス惑星であることに加えて、“ホットジュピタ-”であることが低密度の理由となっています。

ホットジュピターは、恒星から近い軌道(わずか0.015~0.5au程度:1天文単位auは太陽~地球間の平均距離)を、高速かつ非常に短い周期(わずか数日)で公転する天体です。

恒星のすぐそばを公転し表面温度が非常に高温になるので、大気が膨張し直径が拡大することになります。
その結果、同程度の質量を持つ低温の惑星と比べて密度が低くなるというわけです。

こうした惑星の中でも、特に低密度な惑星は“パフィー・プラネット”とも呼ばれています。
“パフィー・プラネット(Puffy planets)”は、直訳すれば“フワフワとした惑星”、“膨らんでいる惑星”になります。

どの程度の密度の天体をパフィー・プラネットと呼ぶのかは定義されておらず、学術的な分類名という訳でもありません。
このため、パフィー・プラネットという分類名は愛称に近いものになります。
パフィー・プラネットの1つである“WASP-107b”(黒い影のように描かれている天体)のイメージ図。(Credit: ESA, Hubble, NASA, M. Kornmesser)
パフィー・プラネットの1つである“WASP-107b”(黒い影のように描かれている天体)のイメージ図。(Credit: ESA, Hubble, NASA, M. Kornmesser)

大きさは木星とほぼ同じなのに質量が木星の約8%しかない惑星

今回の研究では、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)”による観測データから、系外惑星候補“TOI-1420b”の研究を進めています。

“TOI-1420b”は、地球から見てケフェウス座の方向約660光年彼方に位置する恒星“TOI-1420”を公転する惑星です。

研究で用いられたデータは、ロケ・デ・ロス・ムチャーチョス天文台(スペイン領カナリア諸島のラ・パルマ島)にあるイタリア国立ガリレオ望遠鏡に設置された視差速度分光器“HARPS-N”のもの。
この観測データを元に“TOI-1420b”の質量が推定され、“TESS”のトランジット法による直径の推定値とを合わせて“TOI-1420b”の密度が求められました。

その結果分かったのは、地球と比較して“TOI-1420b”の直径は11.89±0.33倍もあるのに、質量は25.1±3.8倍しかないこと。
言い換えれば、“TOI-1420b”の大きさは木星とほぼ同じなのに、質量は木星の約8%しかないことになります。

ここから算出される“TOI-1420b”の密度は、1立方センチ当たり0.082±0.015g。
これは、低密度なタイプの発泡スチロールとほぼ同じ値になります。

そこで、“TOI-1420b”がこれほど低密度な理由を、恒星“TOI-1420”のすぐ近くを公転しているからだと、研究チームは考えます。

実際、“TOI-1420b”は恒星“TOI-1420”から約1100万キロ(約0.073天文単位)しか離れていない軌道を6.96日周期で公転していて、表面温度は680℃だと推定されています。

この高温の環境が“TOI-1420b”を膨張させて、パフィー・プラネットにしていると考えられています。

100億年を超える年齢のパフィー・プラネットは存在するのか

今のところ、“TOI-1420b”は質量が地球の50倍未満の惑星の中では、直径が最大の惑星としての記録を持ちます。

でも、単純な密度の比較では“TOI-1420b”に匹敵するか、あるいはそれを下回る低密度のパフィー・プラネットも見つかっています。

なので、“TOI-1420b”は最も低密度な惑星というわけではないんですねー
ただ、他のパフィー・プラネットよりも興味深い対象の1つであるのは確かです。

まず、“TOI-1420b”は多くの観測データが得られていて、他のパフィー・プラネットと比べて詳細な研究が可能です。

たとえば、今回の研究では“TOI-1420b”全体に占めるガス成分の割合が約82%だと計算されていて、“TOI-1420b”の中心部には質量が地球の4倍程度の岩石の核(コア)があると推定されています。

このような基本的なデータは、パフィー・プラネットがどのようにして形成されたのかを研究する上で重要なデータといえます。

また、恒星“TOI-1420”は、太陽と同じG形主系列星で、年齢は107億年未満と推定されています。

恒星と同じ年齢だと推定される“TOI-1420b”がパフィー・プラネットであることは、それだけでとても興味深い存在になります。

これほどまでに熱膨張している惑星の大気上層部では、重力を振り切って脱出する気体成分が多いと考えられます。
そう、低密度の理由となる気体成分が徐々に失われてしまうということは、惑星の密度は高くなっていくはずなんですねー

“TOI-1420b”は、
 100億年以上も大気を流出させ続けているパフィー・プラネットなのでしょうか?
 それとも公転軌道の変化などで、最近になってパフィー・プラネットになったのでしょうか?
この疑問は、現時点では判明していません。

でも、パフィー・プラネットがどうやって誕生し進化していくのかを調べる上で、“TOI-1420b”は標準的な観測対象となる可能性があります。
また、研究の過程で観測される大気の流出状況は、他の惑星の大気科学にも応用される可能性があります。

これまでに発見されている太陽系外惑星の多くを占めるホットジュピターですが、その中でパフィー・プラネットがどのくらい存在するのかが気になりますね。


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