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“わたあめ”並みの密度しかない系外惑星“WASP-193b”を発見! 巨大ガス惑星“ホットジュピター”はどこまで低密度になれるのか

2024年06月22日 | 系外惑星
地球や火星のような岩石と金属で構成された岩石惑星と比べると、木星や土星のように水素やヘリウムが主成分の“巨大ガス惑星”は密度が低い天体になります。

これに加えて、木星ほどの質量を持つガス惑星が主星(恒星)のすぐそばを公転することで表面温度が非常に高温になる“ホットジュピター”のような環境では、大気が熱膨張することでさらに密度が低くなってしまいます。

今回の研究では、太陽系外惑星観測プロジェクト“スーパーWASP”(※1)の観測データから新たな惑星“WASP-193b”を発見しています。
※1.“スーパーWASP”はスペイン領カナリア諸島のロケ・デ・ロス・ムチャーチョス天文台と、南アフリカ共和国の南アフリカ天文台で構成されている。
他の観測データも組み合わせて計算して分かったのは、“WASP-193b”の平均密度が“わたあめ”と同程度の1立方センチ当たり0.059グラムしかないこと。
これは、知られている中では2番目に密度が低い惑星の発見になるんですねー

また、これまでの惑星モデルでは、これほど極端に低密度な惑星の存在を説明できないので、解明に期待がかかる大きな謎になっています。
この研究は、リエージュ大学のKhalid Barkaouiさんたちの研究チームが進めています。
図1.“WASP-193b”を天秤にかければ、同じ大きさの“わたあめ”とほぼ釣り合うことになる。(Credit: Generated OpenAI’s DALL-E / Created by David Berardo)
図1.“WASP-193b”を天秤にかければ、同じ大きさの“わたあめ”とほぼ釣り合うことになる。(Credit: Generated OpenAI’s DALL-E / Created by David Berardo)


構成物質で変わる惑星の平均密度

天体の平均密度は、主にどのような物質で構成されているかによって大幅に変わってきます。

太陽系の場合、最も平均密度が高いのは地球の1立方センチ当たり5.52グラムで、最も平均密度が低いのは土星の1立方センチ当たり0.69グラムとなります。

これは、地球が岩石や金属などの固体物質を主成分とするのに対して、土星は低温でも気体の状態が保たれる水素やヘリウムなどの物質を主成分とするためです。
土星は、平均密度が水を下回る太陽系唯一の惑星なので、“水に浮かぶ”と例えられることがあります。


恒星のすぐそばを公転する巨大ガス惑星

太陽以外の天体を公転する太陽系外惑星(系外惑星)に目を向けると、土星よりもさらに平均密度が低いとされる惑星がしばしば見つかります。
そのような例の大半は、ホットジュピターに分類される惑星です。

構成物質で分類すると、ホットジュピターは木星や土星と同じ水素やヘリウムを主体としています。
ただ、木星や土星は太陽から遠く離れた軌道を公転している一方で、ホットジュピターの軌道は恒星に対して極めて近いものになります。

この軌道により恒星から受ける放射エネルギーも極端に強くなるホットジュピターは、大気が数百℃以上に加熱され熱膨張を起こすことになります。
構成物質の密度がもともと低いことに加えて、この熱膨張がホットジュピターを極端な低密度にするわけです。


ホットジュピターはどこまで低密度になれるのか

いくら高温のホットジュピターと言えども、熱膨張には限界があると予測されています。

それは、大気が加熱されると、それを構成する分子の運動速度が増し、惑星の重力を振り切って宇宙空間に逃げてしまうからです。

膨張した大気が維持されているということは、大気を構成する分子が惑星の重力に繋ぎ留められていることを意味します。
ただ、あまりにも極端な加熱は膨張を維持できる限界を超えてしまうことになります。

また、極端な熱膨張が起こる環境では、熱によって数億年以内の短時間で惑星の大気が全て蒸発してしまうので、岩石を主成分とする中心核だけが残されることになります。(※2)
※2.現在の惑星形成論では、巨大ガス惑星の中心部には、地球の数倍程度の質量を持つ、主に岩石でできた核が存在すると考えられている。
あるいは、恒星までの距離が極端に近いことで、潮汐力によって惑星の公転軌道が収縮してしまうと、惑星は恒星に落下して消滅してしまいます。

このため、ホットジュピターの平均密度が1立方センチ当たり0.2グラムを下回ることは滅多になく、そのような惑星の希少な存在と言え、そのような惑星の存在という疑問も生じてきます。(※3)
※3.ホットジュピターの中でも、特に低密度な惑星は“パフィー・プラネット”とも呼ばれている。“パフィー・プラネット(Puffy planets)”は、直訳すれば“フワフワとした惑星”、“膨らんでいる惑星”となる。どの程度の密度の天体をパフィー・プラネットと呼ぶのかは定義されておらず、学術的な分類名という訳でもない。このため、パフィー・プラネットという分類名は愛称に近いものとなる。


“わたあめ”と同じくらいの密度しかない系外惑星

今回の研究では、“WASP-193b”が極端に低密度なホットジュピターということが報告されています。

“WASP-193b”は、うみへび座の方向約1200光年彼方に位置する恒星“WASP-193”を6.25日周期で公転している系外惑星です。
太陽系外惑星観測プロジェクト“スーパーWASP”によって観測された過去のデータを、分析することで発見されました。

“WASP-193b”は“スーパーWASP”以外にも、ウカイムデン天文台のTRAPPIST-South望遠鏡(モロッコ)、パラナル天文台のSPECULOOS-South望遠鏡(チリ)、ヨーロッパ南天天文台ラ・シーヤ観測所の3.6メートル望遠鏡(チリ)に設置された分光機“HARPS”、ジュネーブ天文台のレオンハルト・オイラー望遠鏡(スイス)に設置された分光機“CORALIE”、およびNASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”によっても観測されています。
それぞれの観測データを元に“WASP-193b”の物理的な性質の詳細が明らかにされた訳です。

“WASP-193b”の直径は木星の1.464±0.058倍あるものの、質量は木星の13.9±2.9%しかありません。
このため、平均密度は1立方センチ当たり0.059±0.014グラムという、極端に小さなものになっています。

密度が1立方センチ当たり約0.05グラムしかない“わたあめ”と同じくらいと考えれば、“WASP-193b”がいかに低密度な惑星なのかをイメージできると思います。
この平均密度は、詳細に観測されている惑星の中では2番目に低い値になります。(※4)
※4.現時点で最も密度が低いのは系外惑星“ケプラー51d”と推定され、平均密度は1立方センチ当たり0.046±0.009グラムとなる。
図2.様々な太陽系外惑星の平均密度の比較。“WASP-193b”は“ケプラー51d”に次いで2番目に平均密度が低い惑星と測定された。(Credit: Khalid Barkaoui, et al.)
図2.様々な太陽系外惑星の平均密度の比較。“WASP-193b”は“ケプラー51d”に次いで2番目に平均密度が低い惑星と測定された。(Credit: Khalid Barkaoui, et al.)


惑星形成論的にはあり得ない“WASP-193b”の直径

もちろん、“WASP-193b”は“わたあめ”でできている訳ではありません。

水素とヘリウムが主体の組成に加えて、恒星からの放射で1,000℃近い高温(1254±31K)に熱せられたことによる熱膨張が低密度の理由だと考えられます。

ただ、これまでの惑星モデルで計算した“WASP-193b”の直径は、木星と比べて最小で0.68倍。
最大でも1.2倍(※5)で、実際に観測された約1.5倍とは大幅に異なるんですねー
※5.今回の研究では、3つの異なるモデルで直径が推定されている。それぞれ木星の直径の0.9~1.1倍、0.82±0.14倍、1.1±0.1倍という計算結果が得られている。
木星の1.2倍という上限値は、惑星の中心部に岩石を主成分とする高密度の核が存在しないという、惑星形成論的にはあり得ない仮定をした上での計算値です。
なので、現実的には1.2倍よりも小さな値をとる可能性が高いことが考えられます。

そこで、研究チームでは複数の仮説(※6)について検討。
その中で、“オーム散逸”というメカニズムが、“WASP-193b”の直径を最も良く説明できると考えています。
※6.他に検討された仮説として、“流出する大気の流れを惑星本体の大きさと誤認した”や“潮汐力による加熱”、“惑星内部でのヘリウムの相分離”、“誕生直後の恒星で放射が強かった時期の膨張を観測している”というものがある。いずれも観測データから得られた“WASP-193b”のパラメーターとは大きく矛盾している。


“WASP-193b”の低密をオーム散逸で説明してみると

“WASP-193b”のように極端な過熱を受けている惑星では、惑星の表面と内部を行き来する非常に激しい物質循環が発生します。
また、恒星からの放射によって、大気中に含まれる微量の金属原子(※7)がイオン化されます。
※7.惑星科学における“金属”とは、水素とヘリウムよりも重い元素の総称で、炭素や酸素のような化学的には非金属となる元素も含まれている。ただ、ホットジュピターのオーム散逸においては、イオン化しやすいアルカリ金属(ナトリウムやカリウムなど)のことを指すので、化学的な意味での金属と一致する。
惑星の内外を循環するイオンは電気を帯びた粒子の流れなので、電流のように振る舞うことで、電磁誘導による加熱が発生します。
言ってみれば、“WASP-193b”は惑星全体がIH調理器の原理で加熱されているようなもの、と考えることができます。

ただ研究チームでは、この仮説が最も有望なメカニズムと思われるとしながらも、“WASP-193b”の低密度さがオーム散逸によって説明可能かどうかを確定させるには至っていません。

“WASP-193b”の低密度を説明する仮説には、これまでの惑星モデルを大幅に逸脱する点が複数含まれています。
なので、現時点では「これが“WASP-193b”の説明として正しい」と、強く主張できるような状況には無いためです。

そこで、研究チームが期待を寄せているのは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による追観測です。
その理由は、非常に密度の低い“WASP-193b”では、惑星の大気を通過した恒星からの光が、惑星のかなり深部からでも届くと考えられているからです。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の性能なら、大気中に含まれる微量元素やチリの量といった、惑星の過熱に関わる様々な物質の量を、かなり詳細に分析できるはずです。

もし、“WASP-193b”の内部構造が詳しく観測できれば、“WASP-193b”以外の低密度な惑星の理解も深まり、惑星モデルの修正ができるようになるかもしれません。


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