スペースX社の有人宇宙船“クルー・ドラゴン”が、打ち上げと国際宇宙ステーションへのドッキングに成功しました。
打ち上げ後、トラブルが発生しミッションの継続が危ぶまれた場面もありましたが、問題は解決され日本の宇宙飛行士 野口さんらクルーは無事に国際宇宙ステーションに到着。
野口宇宙飛行士らは、すでに国際宇宙ステーションに滞在していた3人の宇宙飛行士とともに7人体制で、約半年間の長期滞在ミッションに挑むことになります。
NASAが2006年から進めてきた、国際宇宙ステーションへの物資補給と宇宙飛行士の輸送を民間企業に委託する計画。
スペースX社は、その最初期から計画にかかわり、無人の補給船“ドラゴン”による物資補給のミッションを担い続けてきました。
そして、無人補給線“ドラゴン”のノウハウをもとに開発されたのが有人宇宙船“クルー・ドラゴン”でした。
船内には通常4人(最大7人)が搭乗でき、国際宇宙ステーションへの飛行や単独での飛行、月軌道までの飛行能力を持っています。
船内はタッチパネルなどを多用した先進的なもので、カプセル部分は再使用が可能なためコストの低減が図られるなど、21世紀の宇宙船に相応しい性能を多数兼ね備えています。
宇宙飛行を経て国際宇宙ステーションへのランデブー、ドッキング技術を実証したのち、3月8日に地球に帰還しています。
スペースX社では、その後もパラシュートの試験や、飛行中のロケットから宇宙船を緊急脱出させる試験などを実施。
そして、“Demo-1”に続き、今年5月31日に行われたのが初の有人試験飛行“Demo-2”でした。
この飛行で搭乗したのは、NASAのダグラス・ハーリー宇宙飛行士とロバート・ベンケン宇宙飛行士。
両宇宙飛行士によって“エンデバー”と名付けられたこの機体は、大きなトラブルも無く打ち上げから約19時間後に国際宇宙ステーションの“ハーモニー”モジュールへのドッキングに成功しています。
その後、“クルー・ドラゴン Demo-2”が国際宇宙ステーションから分離したのは8月2日のことでした。
3日3時頃には軌道離脱噴射を実施し大気圏へ再突入し、パラシュートを開き減速しながら降下。
フロリダ州ペンサコーラ沖のメキシコ湾に無事着水したのは、日本時間の8月3日3時48分でした。
“Demo-2”ミッションの成功は、スペースX社とNASAとの間の契約に基づく宇宙飛行士の商業輸送ミッションを行うために必要な、最後の大きなマイルストーンでした。
地球と国際宇宙ステーション間の宇宙飛行士輸送のほか、国際宇宙ステーションでの係留中には、非常事態に備えた緊急脱出艇としての役割も果たすことになります。
“Crew-1”のミッション期間は約6か月の予定。
船長としてマイケル・ホプキンス宇宙飛行士(NASA)、パイロットとしてヴィクター・グローヴァー宇宙飛行士(NASA)、ミッション・スペシャリストとして野口聡一宇宙飛行士(JAXA)とジャノン・ウォーカー宇宙飛行士(NASA)の4人が搭乗しています。
“クルー・ドラゴン Crew-1”を搭載したファルコン9ロケットは、日本時間の11月16日9時27分にフロリダ州のNASAケネディ宇宙センターの大39A発射施設から離昇。
ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約12分後に“クルー・ドラゴン”を分離。
“クルー・ドラゴン”を計画通りの軌道へ投入しています。
この後、“クルー・ドラゴン”では、いくつかの問題が発生。
通信系のトラブルは地上側が原因とされ、すぐに解決しています。
もう一つは、宇宙飛行士が乗っているクルー・カプセル部分の冷却システムに、圧力スパイク(急激な圧力上昇)が確認されるという問題。
この問題は、その後地上からの指令により機能を回復しています。
さらに問題は発生… 今度は姿勢制御や軌道変更に使うスラスターへ推進剤を送る配管部分でした。
この配管を保温するためのヒーターの4つのうち3つに、問題が発生していたんですねー
ヒーターの抵抗値が制限値を上回ったことで、コンピュータが自動的に機能を停止させていたためでした。
ただ、飛行規則で要求されているのは、4つのヒーターのうち少なくとも2つが正常に作動していること。
そう、このままではミッションは中断される可能性がありました。
その後、地上の運用チームの調査により原因を特定。
ソフトウェアに書き込まれていた制限値の設定が、過度に保守的過ぎたために起きた問題でした。
いったん3つのヒーターの電源を落とし、ソフトウェアを修正して抵抗値の制限を緩和した後、再起動を実施。
すると、4つのヒーターすべてが正常に作動するようになり、ミッション中断の危機を脱しています。
これらの問題が比較的早く解決したこと、“クルー・ドラゴン”が順調に飛行していたこともあり、ミッションに大きな影響はなかったようです。
その後、“クルー・ドラゴン”は国際宇宙ステーションに接近するため、2回に分けてスラスターを噴射。
徐々に接近を開始し、ドッキング直前には国際宇宙ステーションに相対速度を合わせて静止した状態になり、秒速10センチでポート“IDA-2”にドッキング。
接近からドッキングまでは、完全に自動制御で行われていました。
今回の“クルー・ドラゴン(カプセルのシリアル番号207)”に、クルーが名付けた名前は“レジリエンス(Resilience: 回復する力)”。
野口宇宙飛行士によると、「レジリエンスとは、困難な状況から立ち直ること、形が変わってしまったものを元通りにするといった意味。世界中がコロナ禍で困難な中、協力して社会を元に戻そう、元の生活を取り戻そうという願いを込めた。」そうです。
“クルー・ドラゴン”のカプセルは再使用されるので、今後もこのカプセルが飛行する際には“レジリエンス”と呼ばれ続けることになります。
今回、国際宇宙ステーションに到着した宇宙飛行士4人は、10月から滞在中の3人の宇宙飛行士とともに、第64次長期滞在クルーとして滞在。
各種宇宙実験や国際宇宙ステーションのメンテナンス作業などを行い、約6か月後には同じ“クルー・ドラゴン”で地球に帰還する計画になっています。
そして、来春以降に控えているのが2回目の運用ミッション“Crew-2”です。
“Crew-2”に選ばれているのは、船長にシェーン・キンブロー宇宙飛行士(NASA)、パイロットにメーガン・マッカーサー宇宙飛行士(NASA)、そしてミッション・スペシャリストに星出彰彦宇宙飛行士(JAXA)とトマ・ペスケ宇宙飛行士(ESA)の4人。
この“Crew-2”では、“Demo-2”で使用されたカプセルが再使用され、打ち上げに使用するファルコン9ロケットの1段目も再使用機体が用いられる予定です。
現在、ボーイング社とNASAでは、もう一つの有人宇宙船“スターライナー”の開発が進められています。
12月には無人で実施される2回目の軌道飛行試験“OFT-2”、そして2021年6月には有人飛行試験“CFT(Crew Flight Test)”を実施する予定です。
2年後には、地球と国際宇宙ステーションの間を往復する定期便として、“クルー・ドラゴン”と“スターライナー”の運用が始まっているかもしれませんよ。
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打ち上げ後、トラブルが発生しミッションの継続が危ぶまれた場面もありましたが、問題は解決され日本の宇宙飛行士 野口さんらクルーは無事に国際宇宙ステーションに到着。
野口宇宙飛行士らは、すでに国際宇宙ステーションに滞在していた3人の宇宙飛行士とともに7人体制で、約半年間の長期滞在ミッションに挑むことになります。
“クルー・ドラゴン(レジリエンス)”を載せたファルコン9ロケットの打ち上げ。(Credit: SpaceX) |
スペースX社の有人宇宙船“クルー・ドラゴン”
“クルー・ドラゴン”はスペースX社が開発した有人宇宙船で、国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士の輸送や、地球低軌道へ民間の観光客を運ぶことを目指しています。NASAが2006年から進めてきた、国際宇宙ステーションへの物資補給と宇宙飛行士の輸送を民間企業に委託する計画。
スペースX社は、その最初期から計画にかかわり、無人の補給船“ドラゴン”による物資補給のミッションを担い続けてきました。
そして、無人補給線“ドラゴン”のノウハウをもとに開発されたのが有人宇宙船“クルー・ドラゴン”でした。
船内には通常4人(最大7人)が搭乗でき、国際宇宙ステーションへの飛行や単独での飛行、月軌道までの飛行能力を持っています。
船内はタッチパネルなどを多用した先進的なもので、カプセル部分は再使用が可能なためコストの低減が図られるなど、21世紀の宇宙船に相応しい性能を多数兼ね備えています。
無人試験飛行“Demo-1”から有人試験飛行“Demo-2”へ
昨年3月2日、スペースX社のファルコン9ロケットによって、無人試験機“クルー・ドラゴン Demo-1”の打ち上げに成功。宇宙飛行を経て国際宇宙ステーションへのランデブー、ドッキング技術を実証したのち、3月8日に地球に帰還しています。
スペースX社では、その後もパラシュートの試験や、飛行中のロケットから宇宙船を緊急脱出させる試験などを実施。
そして、“Demo-1”に続き、今年5月31日に行われたのが初の有人試験飛行“Demo-2”でした。
この飛行で搭乗したのは、NASAのダグラス・ハーリー宇宙飛行士とロバート・ベンケン宇宙飛行士。
両宇宙飛行士によって“エンデバー”と名付けられたこの機体は、大きなトラブルも無く打ち上げから約19時間後に国際宇宙ステーションの“ハーモニー”モジュールへのドッキングに成功しています。
その後、“クルー・ドラゴン Demo-2”が国際宇宙ステーションから分離したのは8月2日のことでした。
3日3時頃には軌道離脱噴射を実施し大気圏へ再突入し、パラシュートを開き減速しながら降下。
フロリダ州ペンサコーラ沖のメキシコ湾に無事着水したのは、日本時間の8月3日3時48分でした。
“Demo-2”ミッションの成功は、スペースX社とNASAとの間の契約に基づく宇宙飛行士の商業輸送ミッションを行うために必要な、最後の大きなマイルストーンでした。
初の商業輸送ミッション“Crew-1”
今回の“Crew-1”ミッションは有人飛行として2回目ですが、試験ではなく初の宇宙飛行士の商業輸送ミッション。地球と国際宇宙ステーション間の宇宙飛行士輸送のほか、国際宇宙ステーションでの係留中には、非常事態に備えた緊急脱出艇としての役割も果たすことになります。
“Crew-1”のミッション期間は約6か月の予定。
船長としてマイケル・ホプキンス宇宙飛行士(NASA)、パイロットとしてヴィクター・グローヴァー宇宙飛行士(NASA)、ミッション・スペシャリストとして野口聡一宇宙飛行士(JAXA)とジャノン・ウォーカー宇宙飛行士(NASA)の4人が搭乗しています。
“Crew-1”ミッションのクルー。左から、ミッション・スペシャリストのジャノン・ウォーカー宇宙飛行士(NASA)、パイロットのヴィクター・グローヴァー宇宙飛行士(NASA)、船長のマイケル・ホプキンス宇宙飛行士(NASA)、ミッション・スペシャリストの野口聡一宇宙飛行士(JAXA)。(Credit: SpaceX) |
ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約12分後に“クルー・ドラゴン”を分離。
“クルー・ドラゴン”を計画通りの軌道へ投入しています。
この後、“クルー・ドラゴン”では、いくつかの問題が発生。
通信系のトラブルは地上側が原因とされ、すぐに解決しています。
もう一つは、宇宙飛行士が乗っているクルー・カプセル部分の冷却システムに、圧力スパイク(急激な圧力上昇)が確認されるという問題。
この問題は、その後地上からの指令により機能を回復しています。
さらに問題は発生… 今度は姿勢制御や軌道変更に使うスラスターへ推進剤を送る配管部分でした。
この配管を保温するためのヒーターの4つのうち3つに、問題が発生していたんですねー
ヒーターの抵抗値が制限値を上回ったことで、コンピュータが自動的に機能を停止させていたためでした。
ただ、飛行規則で要求されているのは、4つのヒーターのうち少なくとも2つが正常に作動していること。
そう、このままではミッションは中断される可能性がありました。
その後、地上の運用チームの調査により原因を特定。
ソフトウェアに書き込まれていた制限値の設定が、過度に保守的過ぎたために起きた問題でした。
いったん3つのヒーターの電源を落とし、ソフトウェアを修正して抵抗値の制限を緩和した後、再起動を実施。
すると、4つのヒーターすべてが正常に作動するようになり、ミッション中断の危機を脱しています。
これらの問題が比較的早く解決したこと、“クルー・ドラゴン”が順調に飛行していたこともあり、ミッションに大きな影響はなかったようです。
その後、“クルー・ドラゴン”は国際宇宙ステーションに接近するため、2回に分けてスラスターを噴射。
徐々に接近を開始し、ドッキング直前には国際宇宙ステーションに相対速度を合わせて静止した状態になり、秒速10センチでポート“IDA-2”にドッキング。
接近からドッキングまでは、完全に自動制御で行われていました。
国際宇宙ステーションにドッキングした“クルー・ドラゴン(レジリエンス)”。(Credit: NASA) |
野口宇宙飛行士によると、「レジリエンスとは、困難な状況から立ち直ること、形が変わってしまったものを元通りにするといった意味。世界中がコロナ禍で困難な中、協力して社会を元に戻そう、元の生活を取り戻そうという願いを込めた。」そうです。
“クルー・ドラゴン”のカプセルは再使用されるので、今後もこのカプセルが飛行する際には“レジリエンス”と呼ばれ続けることになります。
今回、国際宇宙ステーションに到着した宇宙飛行士4人は、10月から滞在中の3人の宇宙飛行士とともに、第64次長期滞在クルーとして滞在。
各種宇宙実験や国際宇宙ステーションのメンテナンス作業などを行い、約6か月後には同じ“クルー・ドラゴン”で地球に帰還する計画になっています。
そして、来春以降に控えているのが2回目の運用ミッション“Crew-2”です。
“Crew-2”に選ばれているのは、船長にシェーン・キンブロー宇宙飛行士(NASA)、パイロットにメーガン・マッカーサー宇宙飛行士(NASA)、そしてミッション・スペシャリストに星出彰彦宇宙飛行士(JAXA)とトマ・ペスケ宇宙飛行士(ESA)の4人。
この“Crew-2”では、“Demo-2”で使用されたカプセルが再使用され、打ち上げに使用するファルコン9ロケットの1段目も再使用機体が用いられる予定です。
現在、ボーイング社とNASAでは、もう一つの有人宇宙船“スターライナー”の開発が進められています。
12月には無人で実施される2回目の軌道飛行試験“OFT-2”、そして2021年6月には有人飛行試験“CFT(Crew Flight Test)”を実施する予定です。
2年後には、地球と国際宇宙ステーションの間を往復する定期便として、“クルー・ドラゴン”と“スターライナー”の運用が始まっているかもしれませんよ。
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