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ブラックホール“いて座A*”は理論的な限界に近い速度で自転している! ある速度より速く自転すると存在出来なくなるようです

2023年12月23日 | ブラックホール
ブラックホールの自転速度は、ブラックホール周辺の環境に影響する重要なパラメーターだと考えられています。
なので、ブラックホールの自転速度を正確に算出することは重要なことになります。

今回の研究では、天の川銀河中心部に存在する超大質量ブラックホール“いて座A*(エースター)”のX線および電波での観測データを分析。
“いて座A*”の自転速度を表す回転パラメーターを0.90±0.06と算出しています。

この速度は、ブラックホールの理論的な自転速度の上限にほぼ近い値になるようです。
もし、この理論的な限界を超えた速度で自転すると、事象の地平面が消えてしまいブラックホールは存在出来なくなるようです。
この研究は、ペンシルベニア州立大学のRuth A. Dalyさんたちの研究チームが進めています。
図1.天の川銀河の中心部に存在する超大質量ブラックホール“いて座A*”。(Credit: EHT Collaboration)
図1.天の川銀河の中心部に存在する超大質量ブラックホール“いて座A*”。(Credit: EHT Collaboration)


ブラックホールの自転速度

地球をはじめ、様々な天体が自転という回転運動をしています。
その回転速度は様々ですが、どの天体にも物理的に限界が存在しています。

地球などの惑星や太陽のような恒星の場合だと、回転速度が高すぎて、遠心力によってバラバラに砕けてしまうのが自転速度の限界になります。

一方、ブラックホールの場合、他の天体とは事情が異なってきます。

ブラックホールは何らかの物体で構成された天体ではなく、“事象の地平面”で定義される時空の性質があるので、物質と同じような定義で回転速度の限界を考えることができません。

事象の地平面とは、これより内側に入った物体やエネルギーは、たとえ光速であっても再び外側に逃げ出すことができない境界面このと。
ブラックホールでは光でも逃げ出せないという性質の根幹となっています。

一般相対性理論を自転するブラックホールについて解くと、ある速度より速く自転するブラックホールは、事象の地平面が消えてしまうことになります。

ブラックホールは、事象の地平面より内側に存在する時空なので、事象の地平面が消えてしまう条件では、ブラックホールは存在出来なくなると考えられています(※1)
※1.事象の地平面が消滅したブラックホール、つまり裸の特異点が存在しないという説は“宇宙検閲官仮説”と呼ばれている。
これは“a_*”という記号で表される“回転パラメーター”という数値で表されます。
全く自転しないブラックホールは回転パラメーターが“0”で、事象の地平面が消えてしまう限界値では回転パラメーターは“1”になります。

つまり、存在可能なブラックホールは、回転パラメーターが0~1の間に収まることになります。

ただ、宇宙検閲官仮説は証明も反証もされていません。

見つかっている多くのブラックホールは、回転パラメーターが1に近い高速で自転していますが、これは太陽の数倍程度の質量を持つ“恒星質量ブラックホール”での話になります。

多くの銀河の中心部に存在する超大質量ブラックホールの場合だと、その回転パラメーターは多くの場合で未だに分かっていませんでした。


“いて座A*”は理論的な限界に近い速度で自転している

今回の研究で算出を試みているのは、天の川銀河の中心部に存在する超大質量ブラックホール“いて座A*”の回転パラメーターでした。

ブラックホールそのものの自転を直接観測することはできないので、ブラックホールの周りを取り巻く物質である降着円盤(※2)からの放射を観測することで、“いて座A*”の回転パラメーターを算出しています。
※2.ブラックホールへ落下する物質は角運動を持つため、降着円盤と呼ばれるへんぺいな円盤をブラックホールの周囲に作る。降着円盤内のガスの摩擦熱によって落下するガスは電離してプラズマ状態へ、この電離したガスは回転することで強力な磁場が作られ、降着円盤からは荷電粒子のジェットが噴射し降着円盤の半径に応じて、可視光線、紫外線、X線と幅広い電磁波が観測される。
研究チームでは、“いて座A*”に関するX線と電波での観測結果から、それぞれの降着円盤の回転速度を推定。
その値から、“いて座A*”の回転パラメーターを算出し、回転パラメーターは0.90±0.06という値を得ています。

この値は、限界値の1に非常に近いもの。
“いて座A*”は、理論的な限界に近い速度で自転していることを示していました。

では、超大質量ブラックホールの回転パラメーターが分かると、どのようなことが分かるのでしょうか?

例えば、過去の研究で、“いて座A*”の回転パラメータは0.44というかなり小さな値が推定されていたことがありました。

一方、超大質量ブラックホールは、周りの物質を吸い込んで自転速度を上げる傾向にあります。

つまり、超大質量ブラックホールは、回転パラメーターが上昇する傾向にあると考えることができます。
なので、0.44というかなり小さな回転パラメーター値を推定した研究とは、矛盾することになります。

ただ、今回の研究では、0.44と推定した研究とは研究手法が異なるものの、より矛盾の少ない結果が得られています。

また、ブラックホール周辺の環境は、自転している場合と自転してない場合とでは、大きく異なります。

ブラックホールの自転は降着円盤からの放射などに影響し、ひいては銀河の進化など、より大きな範囲に影響を与えます。

“いて座A*”が大きな回転パラメーターを持つことは、超大質量ブラックホールを持つと考えられる多くの銀河の環境や進化を考える上で重要な発見といえますね。


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