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中間質量ブラックホールは球状星団の中で超大質量星から形成されている!? 最先端のシミュレーションによって明らかになった形成過程

2024年06月01日 | ブラックホール
今回の研究では、球状星団(※1)の形成過程で、星の合体から超大質量星(※2)を経て中間質量ブラックホールが形成され得ることを、数値シミュレーションにより明らかにしています。
※1.星団のうち数百万個以上の恒星が重力で集合し、概ね球状の形をとったもの。数百光年以内に数万個以上の恒星が密集している。
※2.超大質量星は、太陽の数百倍から1万倍もの質量を持つ恒星。まだ、その存在について観測的な証拠はない。
本研究では、新たに開発した計算手法により、世界で初めて球状星団の形成過程を、星一つ一つまで数値シミュレーションで再現。
その結果、形成中の球状星団の中で星が次々と合体することによって、太陽の数千倍の質量を持つ超大質量星が形成され得ることが分かりました。

さらに、星の進化の理論に基づいた計算によって、この超大質量星は後に太陽の数千倍の質量を持つ中間質量ブラックホールへと進化することも確かめています。
これまでの観測から、長年論争となっていた球状星団における中間質量ブラックホールの存在を、理論的に強く支持する結果でした。

本研究で、星一つ一つを再現した球状星団の形成シミュレーションは、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ“アテルイII”を用いたことで実現しています。
この研究は、東京大学大学院理学系研究科の藤井通子准教授をはじめとする研究グループが進めています。
本研究の成果は、5月30日付の科学誌“サイエンス”のオンライン版に、“Simulations predict intermediate-mass black hole formation in globular clusters”として掲載されました。
図1.シミュレーションで再現された形成中の球状星団。左下の青白い点一つ一つが星団の星を表し、その周りの“もや”は星間ガスを表す。色は温度を表していて、暗い部分が温度の低い星間ガス(分子雲)、明るい部分が温度の高い星間ガスを表す。可視化:武田隆顕(ヴェイサエンターテイメント株式会社)。(Credit: 藤井通子、武田隆顕)
図1.シミュレーションで再現された形成中の球状星団。左下の青白い点一つ一つが星団の星を表し、その周りの“もや”は星間ガスを表す。色は温度を表していて、暗い部分が温度の低い星間ガス(分子雲)、明るい部分が温度の高い星間ガスを表す。可視化:武田隆顕(ヴェイサエンターテイメント株式会社)。(Credit: 藤井通子、武田隆顕)


確実な発見例がほとんど無いブラックホール

ほとんどの銀河の中心には、太陽の100万倍から100億倍の質量を持つ“超大質量ブラックホール”が存在すると考えられています。

私たちの天の川銀河の中心にも、太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホール“いて座A*(エースター)”が存在しています。

また、大質量星が超新星爆発を起こした後に誕生する、太陽の数倍~数十倍程度の質量を持つ“恒星質量ブラックホール”も宇宙には多数存在しています。

一方で、存在は予測されていても、確実な発見例がほとんど無いブラックホールもあります。
それが、太陽質量の100倍~10万倍という“中間質量ブラックホール”です。

超大質量ブラックホールは、恒星質量ブラックホールが合体を繰り返すことで形成されたとも考えられています。
なので、この2つのブラックホールの中間くらいの質量を持つ中間質量ブラックホールもあるはずなんですねー


中間質量ブラックホールは球状星団の中で形成される

それでは、中間質量ブラックホールは、宇宙のどこでどのように形成されているのでしょうか?

太陽の数千倍の質量を持つ中間質量ブラックホールが存在する場所の候補とされている天体に“球状星団”があります。

球状星団は数百万個の星が球状に分布する天体で、その中心に太陽の数千倍の質量を持つ中間質量ブラックホールの存在を示唆する観測が、これまでに報告されています。
図2.中間質量ブラックホールの存在が観測から示唆されている球状星団の一つ、ケンタウルス座オメガ星団。(Credit: ESO)
図2.中間質量ブラックホールの存在が観測から示唆されている球状星団の一つ、ケンタウルス座オメガ星団。(Credit: ESO)
球状星団の中での中間質量ブラックホールの形成仮説は、天体同士の衝突合体になります。

これまでの数値シミュレーションを用いた研究で分かっていたのは、以下の2つの結果でした。

1.星団内では、ブラックホール同士の合体が繰り返し起こっている。
でも、500太陽質量を超える前に、合体時の非等方な重力波放出によって星団外へ飛び去ってしまう。

2.星同士が合体するが、最初から存在した大質量の星が合体した後は、強い星風(※3)によって星は質量を失い恒星質量ブラックホールになってしまう。
※3.星風は、星から噴き出すガスの流れ。質量が大きいほど、星風が強く質量損失率が高い傾向がある。
ただ、これらのシミュレーションは、すでに出来上がった星団に対して行われたものでした。
これに対し今回の研究では、星々の母体となる分子雲(※4)内で星が次々と生まれ星団となる過程を、星同士の衝突合体も含めてシミュレーションしています。
※4.星間空間に撒き散らされた原子やチリが集まって雲のようになった際、周囲からの紫外線(星間紫外線)が内部まで届かなくなると、紫外線によって分子が壊されなくなるので、原子から分子が作られ始める。そのような雲を“分子雲”と呼ぶ。数光年~数十光年と様々な大きさのものがある。分子雲の中で、自己重力でガスやチリが集まってできた高密度な場所を分子雲コアと呼び、いわゆる星の卵に相当する。分子雲コアがさらに収縮することによって、太陽のような恒星や、それよりもさらに重い星(大質量星)その連星が誕生する。
その結果、明らかになったのは、形成途中の星団の中で星が次々と合体し、最終的に太陽の1万倍程度の質量を持つ超大質量星が形成されることでした。(図3左)

星の進化の理論に基づいて計算を行うと、このような超大質量星は最終的に太陽の3~4千倍の質量を持つ中間質量ブラックホールになると予測されます。(図3右)

今回のシミュレーションで得られた、星団とその中で形成されるブラックホールの質量の関係は、観測から推定されている球状星団の質量とブラックホールの質量の関係と一致していました。
この結果は、球状星団中に中間質量ブラックホールが存在することを、理論的に強く示唆するものと言えます。
図3.星団の中で最も重い星の質量の時間変化。(左)シミュレーション中で繰り返し起こった星の合体による星団内で最も重い星の質量の増加。(右)恒星進化の理論に基づく超大質量星の質量の時間変化。この超大質量星は最終的に中間質量ブラックホールへと進化した。(Credit: 藤井通子)
図3.星団の中で最も重い星の質量の時間変化。(左)シミュレーション中で繰り返し起こった星の合体による星団内で最も重い星の質量の増加。(右)恒星進化の理論に基づく超大質量星の質量の時間変化。この超大質量星は最終的に中間質量ブラックホールへと進化した。(Credit: 藤井通子)
図4.球状星団の質量とブラックホールの質量の関係。星印はシミュレーションで形成された球状星団の質量と、その中で形成されたブラックホールの質量の関係を示している。色は、それぞれ星ができる元となった星間ガスの重元素量(水素、ヘリウム以外の元素の量)の違いを表す。破線は、中間質量ブラックホールの質量が星団の質量の3%を示す。縦線は、観測から中間質量ブラックホールの存在が示唆されている球状星団の質量と、ブラックホールの質量の関係を示す(線の長さは誤差の範囲、矢印は上限値を示す)。シミュレーションで形成された球状星団とブラックホールの質量のうち、最も大質量のもの(黄色の丸で囲まれた赤い星印)は、天の川銀河の球状星団の質量と観測から推定されているブラックホールの質量と同程度だと分かる。薄い赤と青で塗られた領域は、星の進化の理論計算とシミュレーションの結果から予測される、各重元素の場合の球状星団の質量と、ブラックホールの質量の関係。天の川銀河の球状星団の質量と、推定されるブラックホールの質量の関係を説明できている。(Credit: 藤井通子)
図4.球状星団の質量とブラックホールの質量の関係。星印はシミュレーションで形成された球状星団の質量と、その中で形成されたブラックホールの質量の関係を示している。色は、それぞれ星ができる元となった星間ガスの重元素量(水素、ヘリウム以外の元素の量)の違いを表す。破線は、中間質量ブラックホールの質量が星団の質量の3%を示す。縦線は、観測から中間質量ブラックホールの存在が示唆されている球状星団の質量と、ブラックホールの質量の関係を示す(線の長さは誤差の範囲、矢印は上限値を示す)。シミュレーションで形成された球状星団とブラックホールの質量のうち、最も大質量のもの(黄色の丸で囲まれた赤い星印)は、天の川銀河の球状星団の質量と観測から推定されているブラックホールの質量と同程度だと分かる。薄い赤と青で塗られた領域は、星の進化の理論計算とシミュレーションの結果から予測される、各重元素の場合の球状星団の質量と、ブラックホールの質量の関係。天の川銀河の球状星団の質量と、推定されるブラックホールの質量の関係を説明できている。(Credit: 藤井通子)
本研究によって、太陽の数千倍の質量を持つ中間質量ブラックホールが、標準的な仮定を置いた数値シミュレーション中で形成されることが確かめられました。

中間質量ブラックホールは、恒星質量ブラックホールと超大質量ブラックホールを結ぶミッシングリングと言えます。
なので、中間質量ブラックホールの一つの形成過程を示せたことは、超大質量ブラックホールの形成過程を理解する上で重要な意義があります。

また、本研究で星一つ一つを再現した球状星団の形成シミュレーションは、本研究チームによって2020年に開発された新しいシミュレーションコードと、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ“アテルイII”を用いることで、世界で初めて実現したものです。


国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ

本研究の数値シミュレーションには、国立天文台のスーパーコンピュータ“アテルイⅡ”が使用されました。
理論演算値は3.087ペタフトップスで、天文学の数値計算専用機としては世界最速です。
1ペタは10の15乗、フロップスはコンピュータが1秒間に処理可能な演算回数を示す単位。
岩手県奥州にある国立天文台水沢キャンパスに設置されていて、平安時代に活躍したこの土地の英雄アテルイにあやかり命名。
「勇猛果敢に宇宙の謎に挑んでほしい」という願いが込められています。
国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ“アテルイⅡ”(Credit: 国立天文台)
国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ“アテルイⅡ”(Credit: 国立天文台)


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