ブラックホールは現代物理学が破綻する領域なので、それを回避するための理論的な提案がいくつも出されています。
その代表的な回避策の一つは“グラバスター(Gravastar)”です。
今回は、アインシュタイン方程式を解くことで現れるグラバスターについて研究しています。
その結果、グラバスターの中にグラバスターがある天体が存在可能なことを示しました。
この入れ子構造は何重でも可能なもので、研究ではこの天体を“ネスター(Nestar)”と名付けています。
ネスターが実際に存在可能かどうかは分かっていません。
でも、この研究結果は重力に関する数学的な視野を広げることに繋がるはずです。
アインシュタイン方程式を解くことで発見されたブラックホール
1915年のこと、アルベルト・アインシュタインは重力に関する有名な理論“一般相対性理論”を提唱しました。
この中には重力について理解するために必要な“アインシュタイン方程式”と呼ばれる方程式が存在しています。
そして、一般相対性理論が発表された直後の1916年に、カール・シュヴァルツシルトが発見したもの。
それが、アインシュタイン方程式を解くことで、重力の強さが無限大となる点、光すら逃げ出すことができない領域が生じることでした。
これが、“ブラックホール”と呼ばれるものの最初の発見でした。
初めは、純粋に数学的な存在でしかなかったブラックホールでした。
でも、天文学の発展と共に、ブラックホールが存在しなければ説明のつかない物理現象が次々と見つかっていくんですねー
2019年にはイベント・ホライズン・テレスコープ(※1)によって初めてブラックホールが可視化されるなど、その存在はもはや疑いようのない段階にまで達しています。
ブラックホールは実在する?
ブラックホールの存在は現代物理学では極めて厄介なものであり、実在しないという意見も根強く存在します。
例えば、ブラックホールの中心部には、重力が無限大となる特異点が存在すると考えられています。
特異点の性質を予測することは、一般相対性理論を含む現在の理論では不可能であり、このため特異点は“現代物理学の破綻点”と呼ばれることがあります。
また、特異点の周りを覆う事象の地平面の内部では、光すらも逃げ出すことができません。
そこでは、物質が持っていた様々な性質に関する情報も失われてしまいますが、情報が失われるという事象は現代物理学に反することになります。
この部分の矛盾も、現在の理論では説明できていません。
ある理論を解くことで、その理論では説明できない性質を持つ答えが出現した場合、通常は解き方が間違っているか、もしくはその答えが実在しないことを疑います。
一般相対性理論を解くことで一般相対性理論では説明できないブラックホールという答えが表れたなら、ブラックホールの実在を疑うことはある意味で当然のことと言えます。
ただ、これら理論の破綻が起こるのはブラックホールの内部での話。
ブラックホールの外部の性質は簡単に予測することができ、ブラックホールの外部の性質を仮定しなければ説明できない天文現象は、いくつも見つかっています。
これらの状況から、仮にブラックホールが実在しないとしても、少なくとも外見的にはブラックホールと区別が難しい、別の天体の存在が必要になります。
このような状況から、一見するとブラックホールっぽい性質を持つものの、ブラックホールとは別の性質も持つ天体がいくつも提案されています。
ブラックホールに似ている別天体の存在
提案されているブラックホール代替え天体の一つに“グラバスター(Gravastar)”があります。
“gravitational vacuum star(重力真空星)”を合成して名付けられたグラバスターは、2001年にPawel O. MazurさんとEmil Mottolaさんによって提案されました。
少なくとも、グラバスターの外見的な特徴はブラックホールそっくりです。
グラバスターの周りは重力が非常に強く、表面は真っ黒に見えるはずです。
このため、ブラックホールでしか説明できない天文現象を、そのままグラバスターに置き換えても成立します。
一方、ブラックホールと全く異なるのがグラバスターの内部の様子です。
グラバスターの中心には重力とは反対の性質を持つ力である暗黒エネルギー(ダークエネルギー)が詰まっていて、無限に潰れることを回避し、特異点が生じることを防いでいます。
グラバスターの名に“真空”が含まれているのは、暗黒エネルギーの別名“真空のエネルギー”に由来しています。
また、ブラックホールには事象の地平面という一方通行の境界がありますが、グラバスターにはありません。
その代わりに、グラバスターの表面には非常に薄い物質の層があり、その厚さは限りなくゼロに近いと考えられます。
いくつものグラバスターの入れ子構造
今回の研究では、アインシュタイン方程式を解くことでグラバスターの性質に迫っています。
この研究に限らず、アインシュタイン方程式は重力に関する様々な洞察を提供しますが、数学的に説くことは難しいものです。
このため、新たな解き方によって、これまでに知られていない天体の性質が現れることもあります。
この研究で示しているのは、アインシュタイン方程式を解くことで、グラバスターの内部に別の物質の層を置いても安定して存在できることでした。
つまり、グラバスターの中に別のグラバスターが入っていても、そのような天体は安定して存在できるということになります。
また、この層は2枚重ねに限らず、任意の枚数だけ重ねることが可能なことも示しています。
まるでマトリョーシカ人形のように、いくつものグラバスターが入れ子(nest)構造になっていることから、研究ではこの天体を“ネスター(Nestar)”と呼んでいます。
現段階では、ネスターが理論的に存在可能であることを示しただけです。
なので、実際にこの宇宙にネスターが存在するかどうかは不明です。
また、仮にネスターが存在したとしても、その生成過程も不明です。
それでも、重力理論を解くことでネスターのような興味深い存在が出現するということは、数学的に探索されていない重力理論の領域が、まだまだ存在することを示しています。
ネスターの研究は、グラバスターやブラックホールに関する新たな理解に繋がるはずです。
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その代表的な回避策の一つは“グラバスター(Gravastar)”です。
今回は、アインシュタイン方程式を解くことで現れるグラバスターについて研究しています。
その結果、グラバスターの中にグラバスターがある天体が存在可能なことを示しました。
この入れ子構造は何重でも可能なもので、研究ではこの天体を“ネスター(Nestar)”と名付けています。
ネスターが実際に存在可能かどうかは分かっていません。
でも、この研究結果は重力に関する数学的な視野を広げることに繋がるはずです。
この研究は、ライプツィヒ大学理論物理学研究所のDaniel JampolskiさんとLuciano Rezzollaさんが進めています。
図1.今回の研究で予言されたネスターは、グラバスターの入れ子構造となっている。(Credit: Daniel Jampolski & Luciano Rezzolla, Goethe-Universität) |
アインシュタイン方程式を解くことで発見されたブラックホール
1915年のこと、アルベルト・アインシュタインは重力に関する有名な理論“一般相対性理論”を提唱しました。
この中には重力について理解するために必要な“アインシュタイン方程式”と呼ばれる方程式が存在しています。
そして、一般相対性理論が発表された直後の1916年に、カール・シュヴァルツシルトが発見したもの。
それが、アインシュタイン方程式を解くことで、重力の強さが無限大となる点、光すら逃げ出すことができない領域が生じることでした。
これが、“ブラックホール”と呼ばれるものの最初の発見でした。
初めは、純粋に数学的な存在でしかなかったブラックホールでした。
でも、天文学の発展と共に、ブラックホールが存在しなければ説明のつかない物理現象が次々と見つかっていくんですねー
2019年にはイベント・ホライズン・テレスコープ(※1)によって初めてブラックホールが可視化されるなど、その存在はもはや疑いようのない段階にまで達しています。
※1.イベント・ホライズン・テレスコープ(Event Horizon Telescope: EHT)は、地球上にある電波望遠鏡を超長基線電波干渉法“VLBI”を用いて結合させ、銀河の中心にある大質量ブラックホールの姿をとらえるプロジェクト。直訳で事象の地平線望遠鏡とも表記される。観測対象は、天の川銀河の中心にある“いて座A*”と巨大楕円銀河“M87”の中心にある超大質量ブラックホールで、これを撮影可能な解像度を有している。
ブラックホールは実在する?
ブラックホールの存在は現代物理学では極めて厄介なものであり、実在しないという意見も根強く存在します。
例えば、ブラックホールの中心部には、重力が無限大となる特異点が存在すると考えられています。
特異点の性質を予測することは、一般相対性理論を含む現在の理論では不可能であり、このため特異点は“現代物理学の破綻点”と呼ばれることがあります。
また、特異点の周りを覆う事象の地平面の内部では、光すらも逃げ出すことができません。
そこでは、物質が持っていた様々な性質に関する情報も失われてしまいますが、情報が失われるという事象は現代物理学に反することになります。
この部分の矛盾も、現在の理論では説明できていません。
ある理論を解くことで、その理論では説明できない性質を持つ答えが出現した場合、通常は解き方が間違っているか、もしくはその答えが実在しないことを疑います。
一般相対性理論を解くことで一般相対性理論では説明できないブラックホールという答えが表れたなら、ブラックホールの実在を疑うことはある意味で当然のことと言えます。
ただ、これら理論の破綻が起こるのはブラックホールの内部での話。
ブラックホールの外部の性質は簡単に予測することができ、ブラックホールの外部の性質を仮定しなければ説明できない天文現象は、いくつも見つかっています。
これらの状況から、仮にブラックホールが実在しないとしても、少なくとも外見的にはブラックホールと区別が難しい、別の天体の存在が必要になります。
このような状況から、一見するとブラックホールっぽい性質を持つものの、ブラックホールとは別の性質も持つ天体がいくつも提案されています。
ブラックホールに似ている別天体の存在
提案されているブラックホール代替え天体の一つに“グラバスター(Gravastar)”があります。
“gravitational vacuum star(重力真空星)”を合成して名付けられたグラバスターは、2001年にPawel O. MazurさんとEmil Mottolaさんによって提案されました。
少なくとも、グラバスターの外見的な特徴はブラックホールそっくりです。
グラバスターの周りは重力が非常に強く、表面は真っ黒に見えるはずです。
このため、ブラックホールでしか説明できない天文現象を、そのままグラバスターに置き換えても成立します。
一方、ブラックホールと全く異なるのがグラバスターの内部の様子です。
グラバスターの中心には重力とは反対の性質を持つ力である暗黒エネルギー(ダークエネルギー)が詰まっていて、無限に潰れることを回避し、特異点が生じることを防いでいます。
グラバスターの名に“真空”が含まれているのは、暗黒エネルギーの別名“真空のエネルギー”に由来しています。
また、ブラックホールには事象の地平面という一方通行の境界がありますが、グラバスターにはありません。
その代わりに、グラバスターの表面には非常に薄い物質の層があり、その厚さは限りなくゼロに近いと考えられます。
いくつものグラバスターの入れ子構造
今回の研究では、アインシュタイン方程式を解くことでグラバスターの性質に迫っています。
この研究に限らず、アインシュタイン方程式は重力に関する様々な洞察を提供しますが、数学的に説くことは難しいものです。
このため、新たな解き方によって、これまでに知られていない天体の性質が現れることもあります。
この研究で示しているのは、アインシュタイン方程式を解くことで、グラバスターの内部に別の物質の層を置いても安定して存在できることでした。
つまり、グラバスターの中に別のグラバスターが入っていても、そのような天体は安定して存在できるということになります。
また、この層は2枚重ねに限らず、任意の枚数だけ重ねることが可能なことも示しています。
まるでマトリョーシカ人形のように、いくつものグラバスターが入れ子(nest)構造になっていることから、研究ではこの天体を“ネスター(Nestar)”と呼んでいます。
現段階では、ネスターが理論的に存在可能であることを示しただけです。
なので、実際にこの宇宙にネスターが存在するかどうかは不明です。
また、仮にネスターが存在したとしても、その生成過程も不明です。
それでも、重力理論を解くことでネスターのような興味深い存在が出現するということは、数学的に探索されていない重力理論の領域が、まだまだ存在することを示しています。
ネスターの研究は、グラバスターやブラックホールに関する新たな理解に繋がるはずです。
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