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地球の双子星“金星”に似た系外惑星を発見! 惑星が生命の存在に適した環境を持つための条件を探るカギになるかも

2024年05月26日 | 系外惑星
今回の研究では、すばる望遠鏡の赤外線分光器“IRD”などを用いた観測と、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”を用いた観測との連携を通じて、地球からわずか40光年の位置に新たな系外惑星“グリーゼ12 b”を発見。
“グリーゼ12 b”は、地球や金星と同程度の大きさを持ち、太陽よりも低温の恒星の周りを12.8日をかけて周回しています。

“グリーゼ12 b”が恒星から受け取る日射量が金星の場合と同程度なこと。
また、大気が散逸せずに一定量残っている可能性があることから、“グリーゼ12 b”はこれまでに発見された系外惑星と比べて、金星のような惑星の大気の特徴を調べるのに最も適した惑星と言えそうです。

金星は地球の兄弟とも呼ばれる惑星ですが、金星が地球と異なり生命にとって過酷な環境になった原因は、大きな謎として残されています。

今後、NASAのジェームズウェッブ宇宙望遠鏡や次世代の大型望遠鏡で“グリーゼ12 b”の大気を詳細に調査することで、惑星が生命の居住に適した環境を持つための条件についての理解が大きく進むと期待されます。
この研究は、アストロバイオロジーセンター、東京大学、国立天文台、東京工業大学の研究者を中心とした国際研究チームが進めています。
本研究の成果は、2024年5月23日付でアメリカの天体物理学専門誌“アストロフィジカル・ジャーナル・レター”に“A temperate Earth-sized planet at 12 pc ideal for atmospheric transmission spectroscopy”として掲載されました。
図1.地球から約40光年彼方に位置する赤色矮星を公転する地球サイズの太陽系外惑星“グリーゼ12 b”のイメージ図。この図では“グリーゼ12 b”の周りに薄い大気が描かれているが、惑星が実際にどのような大気を持つのかはまだ分かっていない。今後の研究によって明らかになることが期待されている。(Credit: NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (Caltech-IPAC))
図1.地球から約40光年彼方に位置する赤色矮星を公転する地球サイズの太陽系外惑星“グリーゼ12 b”のイメージ図。この図では“グリーゼ12 b”の周りに薄い大気が描かれているが、惑星が実際にどのような大気を持つのかはまだ分かっていない。今後の研究によって明らかになることが期待されている。(Credit: NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (Caltech-IPAC))


惑星が生命の存在に適した環境を持つための条件

多種多様な生命を育む私たちの地球は、特別な惑星なのでしょうか?
それとも、広い宇宙の中ではありふれた存在なのでしょうか?

人類にとって根源的とも言えるこの問いに答えるには、地球と似た別の惑星からヒントを得る必要があります。
とりわけ、地球の隣にある惑星“金星”は重要な研究対象の一つになります。

金星のサイズ(地球の0.95倍)や質量(地球の0.82倍)は、まさに地球の兄弟とも言えるほど地球と似通っていますが、その大気は高温高圧で乾燥していて、地球とは似ていません。

太陽から受ける光の量(日射量)に多少の違いはありますが、なぜ金星がここまで地球と異なる表層環境を持つようになったのかは、はっきりと分かっていません。

このように、惑星が生命の存在に適した環境を持つための条件はまだ曖昧なので、その理解を深めるためには、金星だけではなく“太陽系外の金星”にもヒントを求めることが重要となります。


太陽よりも軽くて小さい恒星を周回する惑星

太陽以外の恒星を周回する惑星は、1990年代以降、様々な検出方法によって探索され、その発見数は5500個を超えています。

特に、NASAが2009年に打ち上げた系外惑星探査衛星“ケプラー”により探索が大きく進展し、地球程度かそれより小さなサイズの惑星も発見されるようになりました。

でも、これらの惑星の大半は、地球から数百光年と遠く離れた場所にあるんですねー
なので、現在はもちろん、近い将来の望遠鏡でも、それらの惑星の大気や表層環境を詳細に知ることは困難です。

そこで、近年では太陽系の近くにある、太陽よりも軽くて小さい赤色矮星(※1)と呼ばれる恒星を周回する惑星の探索が精力的に進められています。
※1.表面温度がおよそ摂氏3500度以下の恒星を赤色矮星(M型星)と呼ぶ。実は宇宙に存在する恒星の8割近くは赤色矮星で、太陽系の近傍にある恒星の多くも赤色矮星。太陽よりも小さく、表面温度も低いことから、太陽系の場合よりも恒星に近い位置にハビタブルゾーンがある。
その理由は、恒星が軽くて小さいと、恒星を周回する惑星の重力で恒星が引っ張られることによる恒星の速度変化(ドップラーシフト法)や、明るさの変化(トランジット法)から、惑星の存在を検出しやすくなるためです。

ドップラーシフト法は、恒星の周りを回っている惑星の重力で、恒星が引っ張られることによる速度の変化を、光の波長の変化から読み取ることで惑星の存在を検出する手法です。

分光器により光の波長ごとの強度分布“スペクトル”を得ることができます。
この“スペクトル”は、光のドップラー効果によって私たちの方へ動いている時には短い波長(色で言えば青い方)へ、遠ざかっている時には長い波長(色で言えば赤い方)へズレてしまいます(シフトする)。

この周波数の変化量を測定することで、天体の動きやその速度を知ることができます。
ドップラーシフト法の観測データからは、系外惑星の公転周期や最小質量を知ることもできます。

ドップラーシフト法だけでは原理的に求められるのが惑星質量の下限値。
トランジット法でも観測ができる惑星系の場合だと、その結果と組み合わせて正確に惑星質量を求めることができます。


地球サイズの惑星が存在する兆候を検出

分光観測では、恒星からたくさんの光量を受け取る必要があり、赤色矮星は可視光では暗く、赤外線で明るいという特徴があります。
そこで、すばる望遠鏡では、新しい赤外線分光器“IRD(InfraRed Doppler)”を用いたドップラー法による惑星探査“IRD-SSP”を2019年から開始しています。(※2)
※2.“IRD-SSP”の初期の重要な成果として、ハビタブルゾーン(主星からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が安定的に存在できる領域)を横切るスーパーアース“ロス508 b”の発見を報告している。
今回発見された“グリーゼ12 b”が12.8日をかけて周回しているのが恒星“グリーザ12”です。
“グリーゼ12”は、表面温度が3000℃と、太陽より2500度ほど低く、半径が太陽のおよそ4分の1の赤色矮星です。

研究チームでは、うお座の方向約40光年彼方に位置する“グリーゼ12”を、“IRD-SSP”探査のターゲットの一つとして、2019年~2022年にわたって集中的に観測。
一方で“グリーゼ12”は、トランジット法で惑星を検出するNASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”でも、2021年8月から2023年10月の間に観測されていました。

トランジット法は、地球から見て惑星が主星(恒星)の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探ります。

繰り返し起きるトランジット現象を観測することで、その周期から系外惑星の公転周期を知ることができます。

また、トランジット時には、主星の明るさが時間の経過に合わせて変化していきます。
その明るさの変化を示した曲線“光度曲線”をもとに、系外惑星の直径や大気の有無といった情報を得ることが可能になります。

“TESS”の観測チームは、“グリーゼ12”の観測データから地球サイズの惑星が存在する兆候を検出し、2023年4月に情報を公開しています。

これを受けて、本研究チームはアストロバイオロジーセンターや東京大学が開発・運用する多色同時撮像カメラ“MuSCAT(マスカット)”シリーズ(※3)を用いて追観測を実施。
“TESS”で検出された惑星の兆候がノイズではなく、本物だと確認しました。
※3.“MuSCAT”シリーズは、岡山県の188センチ望遠鏡、スペイン・テネリフェ島の1.52メートル望遠鏡、アメリカ・マウイ島の2メートル望遠鏡に搭載された観測装置。3つもしくは4つの波長帯で同時にトランジット観測が行える。“MuSCAT”はMulticolor Simultaneous Camera for studying Atmospheres of Transiting exoplanetsの略で、岡山県の名産品にちなんでいる。
さらに、“TESS”および“MuSCAT”シリーズで得られたデータの解析からは、惑星の公転周期を12.8日、半径を地球の約0.96倍と求めることができました。
また、“IRD”のデータをカラーアルト天文台の3.5メートル望遠鏡で取得されたドップラーシフトのデータと組み合わせて解析することで、“グリーゼ12 b”の質量の上限値を地球の3.9倍としています。
うお座の方向約40光年彼方に位置する赤色矮星“グリーゼ12”を12.8日周期で公転している惑星“グリーゼ12 b”の動画。(Credit: 4D2U project, NAOJ, 画像:NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (Caltech-IPAC))


“グリーゼ12 b”はどのような惑星なのか

“グリーゼ12 b”の“1年(公転周期)”は12.8日と短く、その軌道は主星からわずか0.07天文単位(太陽-地球間の距離の約1/14倍)しか離れていません。
でも、主星の温度が低いので、惑星が主星から受ける日射量は地球の約1.6倍と、金星(地球の1.9倍)と同程度にとどまっています。

それでも、この日射量では惑星の表層が高温になってしまい、地表に液体の水が存在したとしても、暴走的に蒸発してしまう可能性が高いと考えられます。

一方、惑星表面に液体の水が安定して存在できるかどうかは、日射量に加えて大気の組成や量も重要な要素となります。

仮に惑星の表面が適温でも、大気が希薄だと水は液体として存在することはできません。
また、太陽系外の地球型惑星がどのような大気を持つのかも、ほとんど分かっていません。

地球型惑星の大気の研究対象としては、7つの地球型惑星を持つ“トラピスト1”惑星系(※4)が有名です。
※4.“トラピスト1”は、みずがめ座の方向約41光年彼方に位置する赤色矮星。地上の望遠鏡やNASAの赤外線天文衛星“スピッツァー”を用いたトランジット法による観測から、ハビタブルゾーン内の惑星を含む7つの地球型惑星が発見されている。
惑星系の内側から2番目の惑星“トラピスト1 c”は、半径(地球の約1.1倍)や日射量(地球の約2.2倍)が金星や“グリーゼ12 b”とよく似ています。
でも、近年のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測で、この惑星には少なくとも金星のような厚い大気は存在しないことが明らかになりました。

“トラピスト1”は、活動性が高く、強いX線や紫外線、恒星風などを放射しています。
“トラピスト1 c”は、それらの高エネルギー線の照射を受けているので、大気の大半を消失してしまった可能性が高いと考えられているからです。

一方の“グリーゼ12 b”は、主星(恒星)のX線強度が“トラピスト1”より1桁ほど弱いこと。
さらに、主星からの距離が“トラピスト1 c”と比べて4倍以上離れているので、惑星が主星から受ける高エネルギー線照射の影響は“トラピスト1 c”と比べて弱いことが考えられます。

これらのことから、一定量の大気を保持している可能性が高いと言えます。

“グリーゼ12 b”は地球からの距離が近いので、“トラピスト1 c”と同様にジェームズウェッブ宇宙望遠鏡や次世代の大型望遠鏡を用いた惑星大気の観測対象として最適と言えます。

今後、“グリーゼ12 b”の大気を観測し、金星や“トラピスト1 c”の大気と比較することで、地球型惑星の大気が主星からの放射環境によってどのように異なるのかを明らかにできることが期待されます。

現在の金星の表層には液体の水は存在しませんが、過去に存在した可能性が指摘されています。
同様に、条件によっては“グリーゼ12 b”にも過去に液体の水が存在した、もしくは現在も存在する可能性も残されています。

今後、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による詳細な観測や、将来の30メートル級地上望遠鏡によるトランジット分光観測や直接観測によって、“グリーゼ12 b”がどのような大気を持つのか、水蒸気や酸素、二酸化炭素などの生命に関連のある成分の存在が、明らかになることが期待されますね。


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