宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

お疲れさま“オポチュニティ”! 90日のつもりが15年も働いたNASAの探査車が火星でのミッションを終了

2019年02月14日 | 火星の探査
○○○

火星で15年にわたり活動を続け、「最も成功した探査機の1つ」とたたえられたNASAの探査車“オポチュニティ”のミッションの終了が2月13日に発表されました。

マーズ・エクスプロレーション・ローバー・プログラムとして2003年の夏に打ち上げられ、2004年1月に火星に着陸した探査車は“スピリット”と“オポチュニティ”の2台ありました。

それぞれが岩石やミネラルを分析するためのパノラマカメラやマクロカメラ、スペクトルメーターを搭載。また、サンプル収集用の小型ドリルも備えていました。

もともとの運用期間は90日間。
毎日40メートル移動し、最終的には約1キロの距離を探査するはずでした。
でも、どちらの探査車もそれを大幅に上回ることになるんですねー

“スピリット”は最終的に7年間で7.7キロを移動し、“オポチュニティ”にいたっては14年間でフルマラソンを超える45キロも移動しています。
  NASAの火星探査車が、走行距で新記録を樹立
    

火星に対する理解を大幅に引き上げてくれた“スピリット”と“オポチュニティ”。
単に過去の火星に水が存在していただけでなく、生命が存在しうる液体の水が存在していた証拠を発見したのは重要な成果でした。
○○○
“オポチュニティ”は科学観測だけでなく、たくさんの自撮りも行っている。
この写真はエレバスクレーターで撮影したもの。
“オポチュニティ”は、昨年6月に火星で発生した砂嵐に巻き込まれてから、地球との交信ができなくなっていました。

交信ができなくなった原因は、想定以上続いた惑星規模の砂嵐に覆われ発電量が低下したこと。

“オポチュニティ”は火星の過酷な気候を想定してデザインされているので、バッテリーが切れるまでに数ヶ月の猶予があるはずでした。
でも、長時間続いた惑星規模の砂嵐とマイナス100度という環境には耐えられなかったんですねー

ここ数ヶ月の間、“オポチュニティ”からの反応を得ようとして、あらゆる手法で交信が試されています。
たとえメモリが消去されたり、観測機器が動作し無くなったとしても、わずかな通信さえ確立できればシステムを再プログラムし活動が続けられるから。
でも、“オポチュニティ”からの応答は無く、13日にミッションの終了が決定してしまいます。

もちろん、これで火星から探査機がいなくなったわけではありません。
今も探査車“キュリオシティ”や探査機“インサイト”が活動していて、2020年7月には探査車“Mars 2020”の打ち上げも控えているので、これからも火星での発見は続きそうですよ。


こちらの記事もどうぞ
  着陸地点探し、キーワードは過去に水が存在していたこと NASAの次期火星探査
    

ゲールクレーターを覆っていた1~2キロ厚の堆積物がシャープ山を作った? 火星探査車“キュリオシティ”の観測で分かってきたこと

2019年02月11日 | 火星の探査
○○○

火星探査車“キュリオシティ”が数年にわたって走行してきたシャープ山のふもとが、意外に密度の低い場所だということが分かりました。

クレーターの中央にあるシャープ山がどのようにしてできたのか?
この謎を探るヒントになりそうですね。


クレーターの中央にそびえるシャープ山

2012年の8月から火星の赤道付近で活動中のNASAの探査車“キュリオシティ”。

これまで、直径154キロのゲールクレーターの中心にある高さ5000メートルのシャープ山の裾野を登り続け、その途中で地表の撮影や岩石の掘削分析など様々な調査を行ってきました。
○○○
ゲールクレーターの中央にそびえるシャープ山。
“キュリオシティ”は楕円形の部分に降り立ち、水色の線から登っている。
その“キュリオシティ”に搭載された加速度計のデータから、シャープ山の生成の謎に関する興味深い発見があったんですねー

それは、“キュリオシティ”が地表から受ける重力が予想以上に小さかったこと。
2012年から2017年にかけて取得した700回の計測結果から分かったことです。

このことが意味しているのは、これまで辿ってきたシャープ山の裾野地域の密度が、1立方メートル当たり1.5トンから1.8トン程度と予想以上に低いことでした。

シャープ山は、もともとゲールクレーターを覆っていた堆積物が長年の浸食作用で削られて形成された。っという説があります。
でも、その堆積物がどのくらいの量だったかは分かっていません。

もし堆積物がクレーターいっぱいまで埋まるほどなら、大量の物質に圧縮されて密度が高くなるので、今回のようなデータにはならないんですねー

たぶん、この地を覆っていたのはせいぜい1~2キロの厚みの堆積物のようです。

“キュリオシティ”は山のふもとから350キロほど登った北側の尾根“ヴェラ・ルービンー・リッジ”に2017年9月から滞在しています。
今後、尾根を南側に下って粘土鉱物の多い場所に向かい、かつてその場所にあったとされる湖の痕跡を探ることになります。
○○○
1年半滞在した“ヴェラ・ルービン・リッジ”の風景を背にした
“キュリオシティ”の自撮り画像(1月15日撮影)。


こちらの記事もどうぞ
  過去には酸素がたくさんあった!? 火星の大気はどう変化してきたのか
    

小惑星が明るい恒星の前を通過する現象“恒星食”、恒星がその間だけ暗くなったように見えますよ

2019年02月09日 | 太陽系・小惑星
2月11日の25時頃、小惑星が恒星の手前を通過して光を遮る恒星食が起きます。

小惑星による恒星食としては、今年一番の好条件なので注目の現象なんですねー
ただ、見えるのは関東地方になるようです。


骨のような形状をした小惑星

1980年4月10日にオーストリアの天文学者ヨハン・パリスによって発見された“クレオパトラ”は、小惑星帯にある12等に見える小惑星です。

古代エジプト最後の女王クレオパトラ7世にちなんで命名された小惑星“クレオパトラ”。
魅力的な名前を持っていますが、その素顔もミステリーに包まれているんですねー
○○○
小惑星“クレオパトラ”
それは、過去に行われたレーダーによる観測から、小惑星“クレオパトラ”の形状が骨のようだったから。
三軸方向の長さは、それぞれ217キロメートル、94キロメートル、81キロメートルで、長く伸びた形で、中央部がくびれ、両端にこぶのある形をしているそうです。

このような形状は、膨大な数の小惑星の中でもとても奇妙なものの一つになります。


小惑星による恒星食

太陽系内を運動する暗い小惑星が、明るい恒星の前を通過すると、恒星がその間だけ暗くなったように見えます。
この現象を小惑星による恒星食といいます。

小惑星“クレオパトラ”による恒星食が起こるのは、2月11日(月曜日)の1時5分頃です。

いっぽう、“クレオパトラ”に隠されるのは、いっかくじゅう座に含まれる9.45等の恒星“TYC 0152-02286-1”。
“TYC 0152-02286-1”は恒星食としてはかなり明るい対象なので、減光が起これば、恒星は最長19.8秒にわたって約1.9等級暗くなると予想されています。
○○○
目的の星を見つけることさえ出来れば、小口径の天体望遠鏡でも恒星が暗くなることを確認できるんですねー

ただ、観測が可能な範囲は限られていて、今回は関東を中心に中部や北陸エリアと予想されています。
○○○
掩蔽とは、ある天体が観測者と他の天体の間を通過するときに、その天体が隠される現象。
今回は、“クレオパトラ”が観測者と恒星“TYC 0152-02286-1”の間を通過する。
緑の線で観測すれば掩蔽を正面から見れる。青は限界線、赤は誤差を考慮した限界線。


こちらの記事もどうぞ
  確認されれば小天体で2例目、小惑星“キロン”に環がある?
    

太陽系外縁天体の極端に偏った軌道は、未知の第9惑星なしでも説明できる

2019年02月06日 | 太陽系・小惑星
○○○

これまで、一部の太陽系外縁天体に見られる極端に偏った軌道を説明するのに、いまだ発見されていない第9惑星の存在を仮定する必要がありました。

でも、その仮定も必要なくなるのかもしれません。
カイパーベルトの質量が従来の想定よりもずっと大きい、っと考えることがポイントのようです。


長楕円の軌道を持つ太陽系外縁天体の発見

海王星の外側には太陽系形成の残骸である、主に氷でできた天体が多数存在する“エッジワース・カイパーベルト”と呼ばれる円盤状の領域が広がっているんですねー

その“エッジワース・カイパーベルト”や、さらに外側に存在する多くの太陽系外縁天体の公転軌道はほぼ円形です。
でも、2003年以降には長楕円の軌道を持つ太陽系外縁天体も見つかるようになっていて、現在約30個発見されています。

これら一風変わった太陽系外縁天体は、向きや傾き方がだいたい同じような形をしていて、その様子は太陽系の既知の惑星からの重力だけでは説明がつきませんでした。

そこで、研究者たちが考えたのが、いまだ発見されていない第9惑星が存在しているという仮説です。
第9惑星の重力によって、一群の太陽系外縁天体の極端に偏った軌道を説明しようとしてきました。

この仮説では、地球の10倍以上の質量を持つ第9惑星が、はるか遠くに存在しているとされています。
○○○
太陽系に第9惑星が存在しているという仮説は魅力的なんですが、まだ発見されていない惑星だけに頼るより、もっと自然な別の可能性も忘れてはいけません。

今回の研究では、シンプルに“エッジワース・カイパーベルト”の重力の影響を考えて新しいモデルを構築し、太陽系外縁天体の極端に偏った軌道が説明できることを示しています。


第9惑星を必要としない説明

これまでにも第9惑星を必要とせず“エッジワース・カイパーベルト”の重力で、太陽系外縁天体の軌道を説明するという研究はありました。

でも、今回の研究で少し違うのは、8つの惑星の質量と重力も考慮されていること。

第9惑星なしで太陽系外縁天体の軌道を再現するにあたって、今回のモデルで想定された“エッジワース・カイパーベルト”の総質量は、地球質量の数倍から10倍の間にあること。

これまで考えられていた“エッジワース・カイパーベルト”の総質量が地球の10分の1程度なので、それよりもかなり大きな質量を想定していることになります。

太陽系の内側から外縁部の円盤全体を一度に観測するのは不可能に近いことです。
でも、第9惑星が存在するという証拠も見つかっていないので、様々な可能性が検討できたわけです。

その過程で興味深かったのは、他の恒星の周りにあるカイパーベルトに似た構造を観測したり、惑星形成のモデルに注目したりすること。

もしかしたら、質量の大きな円盤と第9惑星の両方が存在する可能性もあります。

今後、新しい太陽系外縁天体が発見されるたびに、その軌道を説明するための情報や仮説が増えていきそうですね。


こちらの記事もどうぞ
  太陽系の最果てで発見された小天体“ファーアウト”は、未知の第9惑星発見のカギになるのか?
    

大小マゼラン雲で星形成が急上昇したのはなぜ? 天の川銀河との合体が始まっていることが原因のようですよ

2019年02月04日 | 銀河・銀河団
○○○

大マゼンラン雲と小マゼラン雲に含まれる星々の重元素量のマップから、銀河の星形成の歴史が分かってきたんですねー

星の形成は、最初のうちは天の川銀河の50分の1ほどと非常にゆっくりで、今から20億年前に急上昇へ転じたようです。

なぜ、急に星が形成され始めたのでしょか?
そこには、大小マゼラン雲と天の川銀河が辿る歴史が絡んでいるようです。


銀河の中で重元素が増えていく歴史の記録

銀河としては地球から最も近い距離(16万光年)の位置あり、天の川銀河の伴銀河である大マゼラン雲と小マゼラン雲。
南半球の空に見える連銀河で、1520年のマゼランによる航海の途中で見つかったので、この名前が付けられています。

そして、両銀河に含まれる星のデータから、星の形成史に関する研究を進めているのが、アメリカ国立光学天文台“NOAO”およびモンタナ州立大学のチームです。
○○○
肉眼で見ることができる銀河、
大マゼラン雲(右)と小マゼラン雲(左)。
星のスペクトルを調べると、星の運動や温度、化学組成、さらに一生のうちでどの段階にあるかといった情報が分かります。
これらの情報から、銀河の中でどの時代にどのくらい星が作られていたかという歴史を推測することができます。

重い星は寿命が短く、一生の最期に超新星爆発を起こして重元素(水素とヘリウム以外の元素)を銀河内へ放出します。

放出された元素は銀河内のガスと混ざり合って次世代の星の材料になり、旧世代の化学組成が受け継がれた星が誕生します。

こうしたプロセスが何度も繰り返されるうちに、大質量星よりも寿命の長い低質量星には、銀河内で重元素が増えていく歴史が記録されていきます。

そこで星々の重元素量をマッピングすると、銀河の星形成史を読み解くことができるんですねー
○○○
位置天文衛星“ガイア”のデータから作られた大マゼラン雲の画像に、
今回の研究で得られた星の重元素量マップを重ね合わせたもの。
紫は重元素が多く、黄色は少ない。


星形成が急上昇した原因

研究の結果分かってきたのは、大小マゼラン雲内の星形成の歴史が天の川銀河とは完全に異なっていること。

天の川銀河では、最初のうちは非常に活発だった星形成が、その後は落ち着いていきます。
対照的に、大小マゼラン雲の星形成は、最初のうちは天の川銀河の50分の1ほどと非常にゆっくりで、今から20億年前に急上昇へ転じたようです。
○○○
天の川銀河(黒)と大マゼラン雲(青)の星形成史の比較。
天の川銀河の星形成率は最初は高く、その後は下がり続けている。
大マゼラン雲では、最初はゆっくりとした星形成で、20億年前から急上昇している。
それでは、大マゼラン雲と小マゼラン雲で星形成が急上昇した原因は何でしょうか?
それは、両銀河と天の川銀河との相互作用だと考えられています。

大小マゼラン雲の一生は、宇宙の比較的孤立した一角でひっそりと始まったので、星形成がほとんどありませんでした。
それが、数十億年前から始まった天の川銀河を含む銀河同士の相互作用によってガスが圧縮され、星が誕生するようになったようです。

大小マゼラン雲は、今後数十億年の間に天の川銀河に引き込まれていき、合体が進んでいくことになります。
それにつれて、両銀河内の星形成はさらに激しくなり、25億年以内には大マゼラン雲は完全に天の川銀河に飲み込まれてしまいます。

ただ、小マゼラン雲は星の材料になる水素ガスが急速に失われているので、星形成が完全に止まってしまう可能性もあります。

星形成がさらに激しくなり輝きだすのか、星形成が止まってしまい徐々に暗くなって消え去っていくのか、大小マゼラン雲の星の形成史はどうなるのでしょうね。


こちらの記事もどうぞ
  星形成が止まった“小マゼラン雲”は、徐々に暗くなって穏やかな死を迎えることになる