宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

なぜ進化の進んだ大きい銀河の星形成は穏やかなのか? アルマ望遠鏡で見えてきた銀河内の星の工場

2019年02月03日 | 銀河・銀河団
○○○

進化の進んだ大きな銀河では、星の形成が穏やかになります。
でも、これは理論研究から分かってきたことで、実際の観測で実証したわけではないんですねー

そこで、今回の研究で解き明かそうとしているのは、これまで実証されていなかった進化の進んだ大きい銀河内部での星形成について。

アルマ望遠鏡による高解像度の観測から分かってきたのは、星形成活動の多様性が星の材料になる低温で高密度なガス雲そのものの性質にあるということでした。


星形成のサイクルを調べるプロジェクト

宇宙には様々な大きさや形の銀河があり、それら銀河内での星が作られる期間や作られ方も多様なんですねー
過去数十年にわたる研究でも、銀河の大きさによって銀河内部での星の作られ方に違いがあることが明らかになっています。

なかでも大きくて進化の進んだ銀河では、星の材料になるガス雲、いわゆる“星の工場”の効率が悪くなっているので、理論研究では星形成が穏やかになるようです。 ただ、実際の観測によって実証されたわけではありません。

それは、約10万光年の大きさを持つ銀河全体に対して、ガス雲のサイズは数十~数百光年と非常に小さく観測することが難しくなるから…

でも、高い感度と解像度を併せ持つアルマ望遠鏡なら、数百万光年~数千万光年の距離にある銀河の中の個々のガス雲の分布も描き出すことができます。

その能力を活かし、正面から観測できる渦巻銀河をターゲットにした研究プロジェクトが“PHANGS-ALMA”です。

“PHANGS-ALMA”では現在までに計750時間の観測を行い、74個の渦巻銀河から3万個のガス雲のデータを取得。
研究チームは、これらのデータをもとに銀河の大きさや年齢、内部のガスの運動によって星形成のサイクルがどのように変化するのかに迫ろうとしています。
○○○
“PHANGS-ALMA”で撮影された6つの渦巻銀河。
星の材料になるガスが放つ電波がとらえられていて、
渦巻状に広がるガス雲の詳細な様子まで分かる。


星の形成はガス雲そのものの性質にある

星形成の現場では、星の誕生をきっかけにガス雲が破壊される現象が起こっていることも知られています。

若くて巨大な星から放出される強烈な光やガス(星風)、あるいは短命な巨大星の死“超新星爆発”によりガス雲が破壊されるんですねー
“PHANGS-ALMA”の観測では、生まれたばかりの星たちが周囲のガス雲をすぐに壊してしまう現象も確認されました。

そこで研究チームが考えたのは、星形成活動の多様性は、星の材料になる低温で高密度なガス雲そのものの性質にあるということ。

異なるタイプの銀河でガス雲破壊のプロセスがどのように進むのかを調べていけば、星形成効率にどのような影響を与えているかが分かるのかもしれません。

研究チームの計画はアルマ望遠鏡の他にもあります。
現在、ヨーロッパ南天天文台の8メートル望遠鏡VLTのカメラ“MUSE”をつかった“PHANGS-MUSE”計画、ハッブル宇宙望遠居を使った“PHANGS-HST”計画が進行中なんですねー

これらの観測を合わせることで、星の材料になる低温ガスの分布とその動き、さらに高温ガスと星の分布までをとらえ、銀河の中での星の作られ方の違いとその原因を解き明かそうとしています。

天文学の研究では、宇宙の進化をそのまま観測することはできません。

でも、異なるサイズや年齢の銀河に含まれる何万個もの星形成の現場を観測して、銀河がどのように進化するのかを推測することはできます。
この観測に“PHANGS-ALMA”などの研究プロジェクトが必要なんですねー
○○○
うお座の渦巻銀河“M74”。
アルマ望遠鏡(オレンジ)とハッブル宇宙望遠鏡(青)のデータを
合成した擬似カラー画像。



こちらの記事もどうぞ
  星形成が止まった“小マゼラン雲”は、徐々に暗くなって穏やかな死を迎えることになる
    

謎の多い太陽コロナ現象に挑戦! 観測ロケット“FOXSI-3”の軟X線データが公開

2019年02月01日 | 太陽の観測
○○○

日米共同の観測ロケット“FOXSI-3”で得られた太陽の軟X線観測データが公開されました。

このデータは、毎秒250枚という高い時間分解能の撮像分光観測を世界で初めて行って得られたもの。
わずか6分間の大気圏外飛行中の観測で得られたものですが、太陽コロナについての理解が進むことが期待されているんですねー


太陽系で最大の爆発現象

太陽を取り巻くコロナは、100万度以上という極めて高温で希薄なプラズマからなる大気です。

太陽コロナの中では様々な現象が起こっていて、代表的なものは“太陽フレア”と呼ばれる太陽系で最大の爆発現象になります。

フレアが発生すると周囲の温度は数千万度まで上昇し、プラズマ粒子は光速近くまで加速。
この高エネルギー粒子は太陽風として地球にも到達し、地球環境や送電線・電力系統に影響を与えたりします。

特に、宇宙空間にある衛星や巨大なアンテナとして働く送電線の被害が起こる可能性が高いようです。


宇宙に出てX線を観測する

100万~数千万度の温度を持つコロナはX線を最も強く放射しています。
なので、太陽コロナを研究するには、太陽から放射されるX線をとらえる必要があります。

でも、X線は地球の大気に吸収される性質があるので、観測するには気球や観測ロケット、人工衛星を使って宇宙空間に出る必要があるんですねー

また、X線は通常の鏡やレンズを透過してしまうので、撮像や分光に必要になるのが特殊な望遠鏡やカメラです。
さらに、コロナの性質を詳細に知るには、X線の空間分布・時間変化・エネルギー分布を知る必要もあります。

つまり、高いダイナミックレンジ(明るい場所も暗い場所もよく見えること)・高い空間分解能・高い時間分解能・高いエネルギー分解能の観測を実現しないといけません。

これまでの太陽観測では、数百万度のプラズマが放射する“軟X線”の波長で、この4つを同時に満たすような観測は行われたことがありませんでした。

たとえば、日本の太陽観測衛星“ようこう”や“ひので”のX線望遠鏡です。
この望遠鏡は、空間分解能は高いものの、1枚の画像を撮像するのにかかる時間が長すぎるので、太陽コロナで発生する数十秒~数分という時間スケールの現象をとらえる撮像分光観測は不可能でした。
  “ひので”と“IRIS”がとらえた太陽コロナ加熱メカニズム
    

新しい軟X線観測装置を開発

今回の研究では、裏面照射CMOSセンサーを採用することで、1秒間に250枚もの高速度撮像が行える軟X線観測装置“ProEnIX”を新たに開発しています。

昨年の9月8日、研究チームはこの装置を日米共同の太陽観測ミッション“FOXSI-3”の観測ロケットに搭載。
観測では、軟X線での集光撮像分光観測(光を焦点面に集め、画像を撮り、同時に光子のエネルギー分布も得る観測)を高い時間分解能で行うことに初めて成功しています。

今回公開された“FOXSI-3”の太陽観測データは、太陽からのX線光子1個1個を検出・測定した世界初の成果になります。

“ProEnIX”の高速度カメラは1枚あたり50個程度のX線光子を検出していて、このX線光子のデータを重ね合わせれば、点描のように太陽の軟X線画像を描くこともできます。
○○○
“FOXSI-3”に搭載された高速度軟X線観測装置“ProEnIX”カメラの全データを用いて描いた太陽。
また、“ProEnIX”カメラで高速連続撮像が可能になったので、10秒という極めて短い時間スケールでのコロナの時間変化をとらえることにも成功。
さらに、X線光子のエネルギーごとの検出数からコロナのスペクトルも得られました。
○○○
“FOXSI-3”の“ProEnIX”カメラで得られた軟X線集光撮像分光データ。
(a)が撮像された画像。画像上の白い点が検出されたX線光子を示す。
この画像を重ね合わせることで、(b)のような太陽の軟X線画像が得られる。
(c)は検出された光子の数を10秒ごとに合計して得られた軟X線の時間変化の様子。
(d)は検出された光子をエネルギー(信号強度)ごとに合計して得られた軟X線スペクトル。
現在研究チームでは、今回公開されたデータを使った解析作業を進めているので、謎の多い太陽コロナの現象についての理解が進むといいですね。


こちらの記事もどうぞ
  太陽研究の大きな課題“コロナ加熱問題”を解明できるかも。
  太陽観測ロケット“FOXSI-3”が打ち上げと観測に成功!