(注:この絵は拾い物です)
名前といえば・・・。
骨単(ホネタン)、肉単(ニクタン)、に続いてシリーズ第3弾「脳単(ノウタン)」にあった、これを
ふと、思い出しました。
(そして、これを思い出すと、アテネ(のアレオパゴス)がむくむくと浮かび上がるのデス・・・)
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【無名という名の名前】
INNOMINATE 「無名の」
古い解剖学の文献には、しばしば「無名~」という芸のない名称が見受けられる。
innominate bone イノミニット ボウン 「無名骨 ⇒ 寛骨」、
innominate artery イノミニット アータリ 「無名動脈 ⇒ 腕頭(わんとう)動脈」、
(↑上の図の中にあります)
innominate vein イノミニット ヴェイン 「無名静脈 ⇒ 腕頭静脈」、
innominate fossa イノミニット フォッサ 「無名窩(仮声帯と披裂喉頭蓋ひだの間の浅いくぼみ)」、
長く名前を与えられずに放置されていたという意味合いが含められているわけだが、
名称を与えた段階でもう無名ではないし、名称を与える前はどんなものも無名なのだから、
やはり「無名~」という名称はナンセンスである。
しかも寛骨の場合、解剖学者ケルススが 西暦30年頃には os coxae とちゃんと命名していたにも
かかわらず、ガレノス(西暦131-201)やベサリウス(1514-1564)といった著名な解剖学者たちが、
os innominatum
と呼んだという例もある。
innominate substance イノミニット サブスタンス 「無名質」
も、分類上どこに属させるかはっきりしない上、非常に投げやりな名称を
与えられていたが、今日ではアルツハイマー病との関連で注目されている。
innominate は、ラテン語で否定の接頭辞 in + nomen ノーメン 「名前」。
nomen は、name「名前」や、nomenclature ノウメンクラチャ「分類学的命名法、学名
(ロシア語でノーメンクラツ-ラといえば、特権階級の意)」も類語である。
「無名」とは正反対に、「名前」という意味の名前が 聖書中には登場する。
それは ノアの息子セム(ヘブライ語で シェーム「名」)。
言語学では semitic セミティック「セム語(アラビア語、ヘブライ語等を含む分類)」
として 今日も使われている。
【引用文献】
河合良訓監修(文:原島広至);脳単(ノウタン)~語源から覚える解剖学英単語集~,NTS,2007,p51