今回は映画記事です。
またゴジラシリーズに戻って、シリーズ通算17作目、第二期シリーズの二作目にあたる『ゴジラVSビオランテ』について書きましょう。
私にとっては、特別な作品です。
それはあくまでも主観的な理由によるものなんですが……しかし、映画でなく、小説でもなんでも、主観を離れた評価は成立しないでしょう。
ゴジラ映画に関していうと、『ゴジラVSビオランテ』は私がはじめて劇場で観たゴジラ作品です。
客観的にみればシリーズ中とくに評価されてもいないほうの作品だと思いますが、そういう点で私にとって特別なゴジラ作品なのです。
公開は、1989年。
前作『ゴジラ』から5年が経っていて、劇中でもそのまま前作から5年後という設定になっています。これが平成最初のゴジラ作品ということになり、前作から含めて7作品が、「平成ゴジラ」などと呼ばれます。
例によって、その予告動画を貼り付けておきましょう。
【公式】「ゴジラVSビオランテ」予告 初めて植物をベースにした怪獣が現れるゴジラシリーズの第17作目。
原案は一般公募されたということですが、そこで選ばれたのは、小林晉一郎という方。
特撮業界の人というわけではありませんが、かつて『帰ってきたウルトラマン』でもストーリーの原案を採用されたことがあるそうです。
描かれるのは、「ゴジラ細胞」をめぐる国際的な争奪戦。
ゴジラ細胞から、高い生命力を持つ植物を作ることができる。あるいは、そこから“抗核バクテリア”を作ることができる。核を食べる抗核バクテリアは核兵器を無力化することができ、それを作ることができれば莫大な利益が得られる……そんなわけで、5年前に東京を襲撃したゴジラの肉片をめぐって、各国の工作員が争奪戦を繰り広げるという話です。
平成の世になっても、ゴジラはやはり時代を映す鏡であり続けています。
この作品の背景にあるのは、バイオテクノロジーの発達。
作中に登場する白神博士は、死亡した娘の遺伝子を薔薇の花に組み込んで、生き永らえさせています。遺伝子工学は、神の領域に踏み込んでしまうのではないか――そういう、ある種哲学的ともいえるテーマが扱われているのです。
最近では、亡くなった人のDNAを植物に組み込むということが実際に行われているそうですが……そういう意味では、時代を先取りしているといえるのかもしれません。
この作品では、そこからさらに一歩踏み込み、ゴジラの細胞を組み込むことによって、永遠の命を与えようという試みが描かれます。
果たして、人間にそのようなことが許されるのか。
文明への懐疑というテーマが、ここにも見えてきます。
その問いに対して答えを示すような描き方にはなっていませんが……結果として、白神博士の試みは、ビオランテという怪獣を生み出してしまいます。
そして、このビオランテがゴジラと対決するのです。
ビオランテは、シリーズ中唯一の、植物をベースにした怪獣。
大量の触手を張り巡らすところと、そこからくる水平方向の広がりという点で、ゴジラシリーズに登場する全怪獣のなかでもかなり特殊な形状をみせます。
画面を揺らしながら驀進してくるさまは、かなり迫力があります。ゴジラシリーズに登場する怪獣は飛行型のものが多いんですが、ビオランテは、飛行能力をもたない重量級怪獣として他に類をみない造形的魅力を持っています。
また、ビオランテは変体を行なう怪獣でもあります。
よく「花獣」「植獣」といって区別されますが、いずれも独特なフォルムです。
花獣ビオランテが芦ノ湖に登場する姿は、なにかシュールレアリスムの絵画を観ているような感もあります。
怪獣の造形ということでいえば、ゴジラもまた素晴らしい。
本作に登場するゴジラは「ビオゴジ」などとも呼ばれ、歴代ゴジラの中でも人気のあるものです。
この、重量感のあるプロポーションと、どう猛な顔つき……私のなかでも、これがゴジラの基準になってるようなところはあります。
この作品の、もう一つの注目点は、音楽をすぎやまこういちさんが担当しているというところですね。
そのつもりで聴いていると、ドラクエっぽい音楽が結構出てきます。
すぎやまさんは、前作で音楽を担当した方の師匠にあたるのだそうですが……音楽的には昭和ゴジラとだいぶ違うイメージを醸し出しているでしょう。
この人選にも、これまでの怪獣映画とは一線を画する作品を作ろうという制作サイドの意欲は伝わってきます。
また、すぎやまさんのものとは別に、伊福部音楽もいくつか使用されています。
ゴジラといえば、やはりあの伊福部昭によるテーマ音楽があまりにも有名なので、伊福部さんが音楽を担当しない作品でも使われるようになってきます。
昭和ゴジラでは、伊福部さんが音楽担当でない作品だと伊福部音楽は基本的に使われなかったんですが、平成ゴジラではそういう縛りもなくなるのです。
本作では、エレキギターを使用して、ハードロック風にアレンジしたゴジラのテーマが使われてもいます。
あとは、「怪獣大戦争マーチ」。このあたりは、伊福部ゴジラ音楽を使うとなれば、はずせないところでしょう。
キャストに関しては、前作で出てきた沢口靖子さんが出ています。ただ、最初のほうですぐに死亡してしまう役どころですが……
あとは、デーモン小暮(現・デーモン閣下)がゲスト的な感じで出ていたりもします。
そして、この作品で特筆すべきは、三枝未希(小高恵美)が登場したというところでしょう。
第二期ゴジラ7作品は、つながった一つの大きなストーリーになっていますが、本作で登場した三枝未希は、第二期最終作の『ゴジラ対デストロイア』まで一貫して出てきます。
こんなふうに、一人の俳優が同じ役柄で登場し続けるというのは、ゴジラシリーズにはあまりないことで……この三枝未希の存在は、第二期のシリーズとしての統一性に大きく寄与しているでしょう。
もう一人、注目すべき登場人物は、黒木翔(高嶋政伸)。
前作で登場したスーパーXの後継機スーパーX‐2を指揮して、ゴジラを苦しめます。
この方はこれ以後の作品にまったく出てきませんが……作戦の失敗で大阪を壊滅させたことで降格でもされたんでしょうか。
代わりに、その後の作品では高島忠夫さんや高嶋政宏さんが出演してます(ただし、作中では父子兄弟というような設定はない)。
ところで、この作品の評価ですが、意外な話があります。
2014年に、ゴジラ生誕60周年を記念した「ゴジラ総選挙」なる企画があったのですが、ここで一位に選ばれたのが『ゴジラVSビオランテ』でした。
この結果には、多くの人が「!?」となったようです。
私もそうです。
『ゴジラvsビオランテ』に思い入れがあるとはいいましたが、しかしこれが1位というのはちょっと信じられない思いです。興行成績でみても、本作は第二期シリーズでもっとも観客動員数が少なかったのですが……
何段階かにわけて投票していった結果だろうということと、さすがに60年も経って第一作を見たことがない人が結構多くなっているというのが原因かな……と分析してます。
あるいは、もう少し好意的に解釈すると、二十余年の間で生物工学が飛躍的に進歩したことによって、この作品が再評価されるようになってきたとか……
だとすれば、脚本公募の成果ということでしょうか。
『ゴジラVSビオランテ』は平成初のゴジラだったわけですが……令和の新作ということで、またゴジラのシナリオを募集しないですかね。
もし公募があったら、私は応募する気満々です。