今回は、ひさびさの映画記事です。
このカテゴリーでは、ゴジラシリーズの番外編として、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』について書きました。
そこでも言及しましたが『キング・オブ・モンスターズ』で主な怪獣として登場する4体は、日本ゴジラの『三大怪獣 地球最大の決戦』と同じです。
そこからのつながりで、今回はその『地球最大の決戦』について書こうと思います。
「三大怪獣 地球最大の決戦」 | 予告編 | ゴジラシリーズ 第5作目
公開は、1964年。
東宝特撮にとって、特別な年です。
というのも、この1954年、東宝は3作の怪獣映画を公開しているのです。
そのうちの一作が、以前紹介した『モスラ対ゴジラ』。そして、非ゴジラシリーズの『宇宙大怪獣ドゴラ』。
最後が、『地球最大の決戦』ということになります。
東宝が一年に三作もの怪獣映画を発表したのは、この年が唯一。
1964年といえば、前回の東京オリンピックが開催された年でもあるわけですが、いわば怪獣オリンピックとでもいうべき年となりました。
こうなったのには、ちょっとした事情があります。
本来東宝は、この1964年に黒澤明監督の『赤ひげ』を公開しようとしていました。
しかし、その制作が遅延。どう考えても年内に間に合いそうにはないという状況でした。そこで、その穴埋めとしてなにかいいものはないか……ということで、急きょゴジラ映画の新作を作ることになったのです。
つまり、『地球最大の決戦』は、ピンチヒッターだったというわけです。
しかし、急場の代打でこの映画ができたというのは、おそろしいことです。
なにしろ、ゴジラシリーズきってのスター怪獣であるキングギドラが初登場する作品。
キングギドラといえば、ゴジラにとって最大のライバル。
星飛雄馬にとっての花形、矢吹丈にとっての力石。そういう存在です。それから半世紀にわたって、幾度となく死闘を繰り広げることになるキングギドラが、ここで初登場。
さらに、むかえうつ地球側の“三大怪獣”も、そうそうたる顔ぶれです。
ゴジラ、モスラもそうですが、ラドンもまた、『空の大怪獣 ラドン』という単体映画でデビューした怪獣で、決して脇役クラスではありません。いうなればこれは、東宝特撮におけるアベンジャーズのようなことなのです。
まさに、怪獣オリンピック。
結果、1964年という年は、日本の特撮映画にとっても特筆すべき年になったわけです。
単に3本の怪獣映画を世に出したというだけでなく、ゴジラにとってその後ライバルとなるモスラ、キングギドラ、ラドンが、そろってゴジラとの初対決に臨んだという点でも、記念すべき年でしょう。
さらに付け加えると、この年はゴジラ生誕十周年にもあたるわけですが、成り行きでとはいえ、実にそのアニバーサリーイヤーにふさわしい年となりました。
恒例の3DCG。
今回は、キングギドラを作ってみました。
なんだか間抜けな顔に見えますが……『地球最大の決戦』に出てくるキングギドラも、アップになったところをみると結構間の抜けた顔をしてます。
平成のキングギドラとちがって、白目の比率が大きく、黒目もただの黒い点であるためでしょう。それを再現しようとしたら、こうなるわけです。
ちなみに、この構図になっているのは首と翼の部分しか作っていないためで……これについては、いずれ全体を作ろうと思ってます。
ここで『地球最大の決戦』に話を戻して、一応ストーリーを説明しておきましょう。
セルジナ公国のサルノ王女は、来日途中に爆破テロに遭うものの、奇跡的に生き残り、日本へ。金星人の意識が乗り移った王女は、予言者として、次々に怪獣の登場を予言。その予言どおりにラドン、ゴジラが現れ、そしていよいよ、かつて金星文明を滅ぼした宇宙怪獣キングギドラが地球に来襲します。ラドンとゴジラは激しい戦いを繰り広げていましたが、強大な敵キングギドラに立ち向かうため、モスラの調停によって共闘。ゴジラ、モスラ、ラドンの三大怪獣が、キングギドラと戦うことになります。キングギドラは強力ですが、三体の地球怪獣が共闘することによって、撃退に成功するのでした。
キャストとして注目すべきは、前作『モスラ対ゴジラ』に続いて登場した星由里子さんでしょうか。
前作から引き続きということでいうと、小泉博さんもそうです。小泉さんは、『モスラ対ゴジラ』のさらに前作にあたる『モスラ』にも出ていました。
サルノ王女/“金星人”を演じるのは、若林映子さん。この方は、前述した三本の映画のうちの『宇宙大怪獣ドゴラ』にも出演していました。また、その三年後には007シリーズの日本を舞台にした第五作『007は二度死ぬ』で、浜美枝さんとともにボンドガールをつとめてもいます。
もう一人、特筆すべきは黒部進さん。この時は、王女の命を狙う暗殺団の一人という端役ですが、この二年後に初代『ウルトラマン』のハヤタ隊員をつとめることになります。
こう見てくると、キャストもなかなか豪華です。
『三大怪獣 地球最大の決戦』は、じつに、怪獣オリンピックの最後の総仕上げにふさわしい作品だったといえるでしょう。
キャスト以外のスタッフ陣をみても、監督・本多猪四郎、特撮・円谷英二、脚本・関沢新一、音楽・伊福部昭――というこのおなじみのメンツが黄金の方程式として機能し、制作する側の意図がすべてきっちりはまっていました。そういう意味では、昭和ゴジラのピーク期をかざる作品でもあると思います。
次作『怪獣大戦争』でそのピーク期を過ぎ、そこから少しずつ歯車が狂い始めていくのは、これまでのゴジラシリーズ記事で書いてきたとおり。キングギドラという宇宙怪獣の登場でゴジラが“人類の味方”化する契機を作ったこの『地球最大の決戦』に、実はその萌芽が胚胎していたのだと私には思われますが……成功体験であったがゆえに、その部分は顧みられなかったのでしょうか。そう考えるならば、この作品は、絶頂期であり同時に衰退のはじまりということになり、その意味でも1964年という年を象徴しているのかもしれません。