ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
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イラク戦争とウクライナ侵攻

2022-03-20 22:38:25 | 日記


今日は3月20日。

イラク戦争開戦の日です。
2003年のこの日、アメリカはイラクへの侵攻を開始しました。

最近は、日付関連記事でもウクライナの話になってしまいますが……この日付もまた、やはりいまの情勢を考えるとより深い意味合いをもって感じられます。
ロシアのウクライナ侵攻を批判するなら、アメリカがイラクに対してやったことはどうなんだ、あのときここまでの批判は起こらなかったじゃないか――という声も、ツイッターなんかではよく聞かれるのです。

私自身のことでいば、当時イラク戦争にも反対していたし、それを批判する度合いはいまのロシアを批判するのと変わらなかったと思ってます。
イラク戦争は、ロシアのウクライナ侵攻に劣らない蛮行だった。アメリカだろうとロシアだろうと、武力行使はなにも解決しないどころか、むしろ事態をより悪化させる……イラク戦争開戦からおよそ20年たって、ますますその思いを強くしているところです。

ほかならぬプーチン大統領も、そのときはアメリカを批判していました。
独仏とともに国際社会におけるイラク戦争反対の先頭に立ち、開戦のおよそ一週間後には即時停戦を呼びかける決議を議会で採択したりもしています。
ダーター・ファブラというやつでしょうか。
互いを批判しながら、やってることは鏡で映したようにそっくりという……
まあ、とはいえ程度の差はあって、その差のゆえに、当時のアメリカは現在のロシアのような状況にならなかったのでしょう。

その差はどこにあるかということなんですが……ちょっと前にテレビで放送されていたイラク戦争に関する番組で、考えさせられる話がありました。

その番組では、CIAのエージェントとしてフセインを尋問したジョン・ニクソンという人物を紹介していました。

彼は、フセインを尋問し、大量破壊兵器の計画や、アルカイダとのつながりについて情報を得ようとします。それが、アメリカがイラクを攻撃した“大義”だったからです。

しかし、結果はかんばしくありません。

大量破壊兵器は存在しなかったし、作ろうという意図もなかった。アルカイダとのつながりもなかった――そう結論づけるよりほかないわけです。
番組の中でニクソンが述懐するとおり、9.11の直後からアメリカはイラクに対して戦争をしかけると決めていて、それにあうように強引に話を持っていきました。すなわち、彼が探り出そうとしたことは、すべてが作り話だったのです。
そのあたりの経緯についてはこれまでに何度か書いたと思いますが……大量破壊兵器製造の証拠とされたのはどう考えても胡散臭い人物の証言であり、アルカイダとのつながりを示す証言は拷問によって無理やりいわせたものでした。
当時のブッシュ政権内部でも、それらの証拠や証言が信ずるに値しないものだということがわかっている人は多数いたはずです。大量破壊兵器もアルカイダとのつながりも存在しないだろう……と。
しかし、それを口に出すことはできないし疑問を呈することも許されない、そういう状況があったんじゃないでしょうか。ある種、オーウェルのダブルスピークめいた状況です。
ただ、この話において重要なのは、ニクソンが尋問によって自分の得た結論をありのままに報告したことです。
そんなの当たり前のことじゃないかと思われるかもしれません。
しかし、オーウェル的状況の中ではそうでもありません。権力者が描く物語にそわない事実は、葬り去られる「もう一つの事実」の時代……21世紀には、そういう側面がある。そして、いまのロシアはおそらく、こういう報告ができない国になってしまっていると思われるのです。
先日もちょっと書きましたが、プーチンの顔色をうかがうあまり、その逆鱗に触れるような情報を上にあげないようになってしまっている――さまざまな報道から、そういう構図があることはほぼ確かなように思われます。結果として、プーチン大統領は正しい情報を得られなくなっている。誤った情報に基づいて、誤った判断をくだしてしまう。絵に描いたような、独裁国家の成れの果てです。
ここで最初のといに戻りますが、アメリカとロシアで違うところは、この部分なんじゃないでしょうか。
どちらも愚行を犯しはしたけれど、アメリカの側では、まだしもその過ちを告発することができる。告発する人物がいた。ロシアには、それがない。告発する人物がいたとしても、すぐに排除されてしまう……ゆえに、ロシアはこんな悲惨な状態に陥っているわけです。


ひるがえって――今の日本はどちら側でしょうか。
権力者が好まないような事実が存在するとき、上にいる人間の顔色をうかがわず、忖度せず、本当のことをいえるのか。
もしそれができないとしたら……今ロシアがみせている惨状は、我が国の未来の姿であるかもしれないのです。



ウクライナ侵攻に対する音楽界からの反応

2022-03-19 22:55:32 | 時事


ロシアによるウクライナ侵攻の開始から、およそ3週間が経ちました。

この間、さまざまな分野から批判の声が出てきましたが……音楽界からも、さまざまな反応が出ています。
当然といえば当然ですが、ほとんどは侵攻を批判し、戦争を止めるよう訴えるもの。
今日3月19日は「ミュージックの日」だそうですが、音楽が平和を訴える力が今ほど必要とされる状況もないでしょう。
ということで今回は、ミュージシャンたちの反応から、一部を紹介したいと思います。

 

ピンク・フロイドは、ロシアとベラルーシのデジタル音楽プラットフォームから1987年以降の作品を削除すると発表。
デヴィッド・ギルモアのソロ作品も削除ということです。

ギルモアは、今回のウクライナ侵攻を批判し、ツイッターで次のように書いています。

 

David Gilmour

Russian soldiers, stop killing your brothers. There will be no winners...

Twitter

 

 

〈ロシア兵たちよ、同胞を殺すのを止めろ。この戦争に勝者はいない。

私の義娘はウクライナ人で、孫娘たちはその美しい国を訪れたいと思っている。すべてが破壊されてしまう前に、止めてくれ。

プーチンは去らなければならない。〉

 

ロシアのバンドShortparis は、ウクライナ侵攻開始三日後に撮影したという動画を公開。
退役軍人の合唱団が参加するこの動画は、ウクライナ侵攻を批判するものとも解されています。バンドのリーダーは、数日前に抗議行動に参加したことで逮捕されたとも。
 
Shortparis, Хор ветеранов им. Ф. М. Козлова – Яблонный Сад
 

渡辺貞夫さんは、ジョン・レノンの Imagine を演奏する動画を公開。
イマジンの後には、同じくジョン・レノン Give Peace a Chance を歌うところも。
 
Imagine - Sadao Watanabe / イマジン 渡辺貞夫
 

ベル・アンド・セバスチャンは、ウクライナで取材するカメラマンの撮影した画像を使用したMV動画を公開。
 
Belle and Sebastian- "If They're Shooting at You" (Visual Collage)
 

ここから、日本のシンガーの曲を二つ。
二人とも故人であり、ウクライナ侵攻に対して発表された曲というわけではありませんが……

本田美奈子.「タイスの瞑想曲」。
マスネの曲に、本田美奈子自身が詞をつけたものです。

タイスの瞑想曲
 
最後に、忌野清志郎「花はどこへ行った」。
有名な反戦歌を日本語バージョンで歌っています。

花はどこへ行った
 

宝田明さん、逝く

2022-03-18 16:11:17 | 時事


俳優の宝田明さんが亡くなったというニュースがありました。

享年87歳。
大往生といったところでしょうか。

宝田明さんといえば、やはり私としてはなんといってもゴジラ。
第一作『ゴジラ』をはじめシリーズ初期作品の多くで主演をつとめ、平成ゴジラでもゲスト的な感じで何度か出演されていました。最終的にカットされたものの、2014年のアメリカ版『GODZILLA』でもカメオ出演することになっていたといいます。


宝田さんは、戦前日本の植民地だった朝鮮半島で生まれ、のちに満州に移住。そこで引き揚げを経験しています。
その過酷な経験のために、筋金入りの護憲派であり、戦争には絶対に反対という姿勢を鮮明に持っていました。
その信念から、安保問題が持ち上がった翌年2016年には参院選に出馬などという話も。それは結局立ち消えになりましたが……その頃のインタビューの動画を時事通信が公開しています。以下に、リンクしておきましょう。

1945年、宝田明少年が見た終戦=旧満州・ハルビンから引き揚げの記憶

この動画のなかでは、満州にソ連軍が侵攻してきた際の様子が語られています。
ソ連兵に銃撃を受けたというのは有名なエピソードですが、ほかにも、ソ連兵による略奪行為や婦女暴行について語っていますが。こういうことがあると、ソ連の一兵卒だけでなく、ソ連という国全体を受け入れられない、否定してしまう……ということなんですが、しかし宝田さんの思想はそこから一歩先へ進みます。
ひるがえって、では日本はどうなのか。植民地解放という大義名分があったにせよ、戦争になれば、命の尊厳などというものはまったく無視されてしまう。戦争は憎悪を生む。だから戦争をやってはいけない――という結論にいたるのです。
奇しくもいま、ソ連の後継国家というべきロシアがウクライナに侵攻するという事態になっているわけですが、宝田さんはこの問題にも大きな関心を寄せていたようです。
今月の10日は主演映画の舞台あいさつに出ていたそうですが、そこでウクライナ侵攻に言及し、「平和を愛する国が蹂躙されているというこの現実を見た時に、もっと社会性を持った映画を作らなきゃいけないと思っています」と語ったといいます。ぜひ日本ゴジラの新作でやってもらいたかったところですが、残念ながら、それも叶わぬ願いとなってしまいました……


宝田さんは、リレーにたとえるなら自分はバトンだといっています。
次の世代へメッセージを渡していくバトン――そこに託されたメッセージは、次のようなものです。
「日本は、戦争と名がつくようなものには一兵たりとも参加させません。一人たりとも殺しません。そこはノーという。世界の人から立派な国だなと思われますよ」
果たしてそのバトンを受け取り、また次の世代に手渡せるのか。
ウクライナ侵攻にことよせて核保有論さえ語られるこの国で、いまそこが問われています。



ロシア経済、デフォルトの危機

2022-03-16 16:23:05 | 時事


ロシア経済がデフォルトの危機に直面しています。

ウクライナ侵攻に対する経済制裁による影響が、こういうところにも出始めました。

ちなみに今日3月16日は、「財務の日」とのこと。
316という数字の並びを素直に読めばむしろ「債務の日」じゃないかと思いますが……奇しくもこの3月16日、ロシアのドル建て外債およそ1億1700万ドルが利払いの期限を迎え、デフォルト(債務不履行)の危機に直面しているのです。

経済制裁によって海外資産が凍結されており、ルーブルで返済する意向というんですが、そのルーブルはウクライナ侵攻以後暴落しています。そこを、ロシア側で設定したレートで換算した相当額を支払いにあてる……これは、あまりにも無茶です。

いっぽうで、ロシアから撤退した企業を国有化するなどという話もあります。
ウクライナ侵攻以後これまでにロシアで事業を停止した企業はおよそ350社にものぼるといいますが、それらの資産を接収しようというのです。
これも、無茶苦茶です。

これらは、国家の未来さえも破壊する愚行といわざるをえません。
経済活動を成立させる信認という土台を崩してしまえば、今後外資がロシア進出を躊躇するようになるのは自明です。
通貨に関しても、勝手に約束をたがえて自国設定レートのルーブルで借金返済などということをすれば、ルーブルという通貨を誰も信用しなくなるでしょう。
ロシア経済は、ウクライナ侵攻によって多くを失ったばかりでなく、失ったものを取り戻す機会さえも自ら放棄しているのです。

独裁者の暴走は、国家の未来をさえ奪う……
独裁体制は一時的にうまくいっているようにみえても必ずどこかで行き詰る、とこのブログではたびたび書いてきましたが、今回の騒動はまさにそれを実証しているといえるでしょう。



「許し難い暴挙」とロシア非難 ペンクラブなど3団体が共同声明

2022-03-13 20:01:26 | 時事


今回も、ウクライナ戦争に関する記事です。


以前、日本漫画家協会の声明を紹介しましたが……文学界からも、同様の動きがありました。
3月10日、日本ペンクラブ、日本文藝家協会、日本推理作家協会の三団体が、「ロシアによるウクライナ侵攻に関する共同声明」を発表したのです。

時事通信社が公開した共同記者会見の映像を以下にリンクさせておきましょう。

「許し難い暴挙」とロシア非難 ペンクラブなど3団体が共同声明

以下、その全文を引用します。

 私たちは、ロシアによるウクライナ侵攻に強く反対します。
 これは、完全に侵略であり、核兵器使用に言及した卑怯な恫喝であり、言論の自由を奪い、世界の平和を脅かす許し難い暴挙です。
 私たちは表現に携わる者として、人々の苦悩や悲嘆、そして喜びを表してきました。しかし、新たな戦争の愚かさについてなど、書きたくはありません。
 ウクライナの人々の命、人々が築いた文化、産業、街や学校、施設などがこれ以上破壊されないように、そしてロシアの人々の自由と命も無用に奪われることのないように、一日も早い戦争の終結を願います。


上の動画にはありませんが、ペンクラブの会長をつとめる桐野夏生さんは、記者会見で次のように語ったそうです。

「声明を発表することしかできないもどかしさも感じるが、決して無駄ではない。みんなで戦争反対の声を上げて、戦時中の文学報国会のようには絶対にならない」

頼もしい言葉です。
この三団体が共同で声明を出すのは今回が初ということですが、それだけ危機感が共有されているということでしょう。
キエフへの総攻撃が間近に迫っているとみられ、状況は予断を許しませんが……しかし、世界中で巻き起こる批判がプーチン政権を相当に追い詰めているということも、諸々の報道からうかがえます。桐野会長がいうように、反戦の声をあげることは決して無駄ではないのです。

剣によってではなく、ペンの力によってこの戦争が止められる……そんな奇蹟を願うばかりです。