「秋風が吹きはじめ、虫を売りの声がどこからか聞こえてくる」というのです。
江戸時代に「虫売り」があった。売られた虫は「蛍、コオロギ、松虫、鈴虫、くつわむし、蜩」などであったらしい。虫かごを天秤棒で担いで売り歩く、虫売りはとても粋な姿だったらしい。それが、あまり華美になって禁止されたという。この詩では、次に「貴人は解せず籠間の語」と続き、身分の高い人は、籠の中の虫の声を理解出来ないだろうと言う。虫売りの風情を詠んだものではなく、虫を庶民とし、庶民の心情を理解しない為政者を風刺しているのだ。
どのような風情であったか一寸理解できないけれど、まだ夏の暑さの残っている初秋の夕暮れ時、天秤の前後に沢山の虫かごを下げて、昔の金魚売りみたいに声を上げて売り歩いていたのでしょうか。 「虫! 虫! 虫はいらんかーい・・・」「エ・・鈴虫イイイ松虫イイイ」とか呼ばっていたのでしょうか。
この詩の初めは「八百八街宵月明らかなり」です。江戸八百八町を初秋の宵の月が涼しく照らす、そんな中、聞こえる虫売りの声。今の東京と重ねると、何かとても懐かしさを感じさせる風景が浮かんでくる。こんな時代もあったのだ。