王翰の「涼州詞」です。涼州詞には王之渙のものもありますが、共に素晴らしい詩でどちらも好きです。
万葉集に「防人歌」が残されています。万葉の昔、日本では東北地方から北九州地方へ防人(国境防衛兵)として送られていました。それらの歌の中には、家族と別れて二度と帰ることの保障されない別れの悲しみが唄われています。この涼州詞で兵士が酒に酔いつぶれ、砂漠の中で眠ってしまう、それを笑わないでくれと言って、「古来政戦幾人かかえる」とむすぷのです。このような国境警備の兵士として派遣された兵士でいったい幾人生きて帰ことが出来たのか・・・・自分だって故郷に帰る何の保証も無い・・せめて酒でも飲んで気持ちを紛らわすしかないのだ、どうか笑わないでくれ。という兵士の気持ちが歌われている。
都長安を出発して、何ケ月もかかって砂漠を越えての遠征なのです。岑参はそんな旅を「家を辞して月の両回円なるを見る」「平沙万里人煙絶ゆ」と表現しています。
なおこの涼州詞の冒頭は「葡萄の美酒夜光の杯」となっていて、「葡萄の美酒」は言うまでも無くワインなのでしょうが、これは中国ではなじみの無い酒になります。中近東からのもので、美酒として珍重されたのでしょうが、この言葉が異郷の地にいることを知らしめるのです。「葡萄の美酒夜光の杯」というと、何か素敵な酒宴みたいに感じますが、異郷ノ地にあって、辛さを紛らす酒となっているのです。