死にたくない、と思うことがある。夜、暗闇の中で考え事をしているときに。
逆に、死にたいと思ったことはない。
もし、苦境に立たされたら、命を断つより、戦う方を選ぶだろう。
そういう意味では、僕は生まれながらのファイターだ。最後の最後までしぶとく戦い抜くだろう。
ただ、擬似的に、殺されて死ぬときがある。
はぁって思うかもしれないが、それは、将棋で負けたときだ。
将棋は、シンプルに言えば、王様を殺し合うゲームだ。負ければ死ぬ。
最近のアプリは持ち時間が10分に設定されている。だから、相手の持ち時間とプラスして20分で終わる。
20分間の死闘である。
僕は普段は集中力のない人間だが、将棋を指しているときは信じられないくらい集中する。
負けたくない、つまり、死にたくないからだ。
基本的に攻め将棋である。子供の頃から変わらない。攻めて攻めて攻め倒す。相手に対する殺意が強すぎるのかもしれない。
逆に、僕とは違って、王様をきちんと守って、安全にしてから、それからゆっくり攻める人もいる。
将棋を指していると、相手の性格がよくわかる。
気の強い人、慎重な人、打たれ強い人、諦めない人、たまに根性のひねくれた人もいる。
僕は、序盤中盤は強いが、終盤の最後の詰みを逃してしまうことが多い。
勝つことを急ぎすぎて、興奮してしまうのだ。
それで、最後の最後でポカをしてしまう。
映画の悪役のようだ。もうすぐ勝てるというところで、油断して武器を奪われ、殺されてしまう。
実際の人生でも、本当に大切なものを、最後にポロッと逃してしまう。
オンライン将棋を指しはじめた頃は、負けると頭にきて、怒りの扱いに苦労した。
しかし、勝負事において、感情的になることは、マイナスに働く。
だから、怒りをコントロールすることを学んだ。それで、今は負けても、冷静でいられる。
どんな強い人も勝ち続けることはできない。負けたときにこそ、人間の本当の真価が問われるのだ。
負けたくなくても負けるように、死にたくなくても死ぬときが来る。
僕は、将棋を通して、死ぬことを学習しているのかもしれない。