東京は、強い風が吹いていた。せっかく咲いた桜が、散ってしまうくらいの風が。
強い風って、ちょっとトラブルの匂いがすると思いませんか?
そう、あったんです。トラブルっぽいことが。オチはないですが。
僕は車を運転していた。信号が黄色から赤に変わり、停止線のところに止まった。けっこう大きな交差点だった。
横断歩道には、長めのスカートを履いた30代くらいの女性が、立っていた。
もう想像つきますよね。何が起こったか。
そう、風が吹いて、マリリン・モンローみたいに、スカートがブワッとなった。パンツは見えなかったが。
それで、たまたま真後ろに、ちょっとハゲてるおっさんが立っていた。
正確に言うと、完全なハゲではない。薄いくらいだ。
女性は、後ろを振り向いて、薄毛のおっさんをチラッと見る。見ただろ、という感じで。
おっさんは、そんなの見てないよってな感じで、一心不乱に前を向いている。
それで、横断歩道の信号は青になって、人が渡りはじめる。
そしたら、もう一回、強い風が吹く。
また、マンガみたいに、スカートがブワッとなる。女性は反射的にスカートを手で押さえた。
その瞬間、手に持っていた書類?ノート?みたいなのが、風に飛ばされた。
さっきのおっさんが、後ろにいて、そのノートを、パっとジャンプして取った。
おーーすげーって感じで、まじでかっこよかった。
おっさんは、走っていって、そのノートみたいなのを女性に手渡した。
僕は心のなかで、8888888と拍手したよ。
でも、女性は礼も言わずに、そのノートをひったくって、横断歩道を走り去っていった。
えーーーー、それはないよね。いくらなんでも。ありがとうくらい言えよ。
多分、女性はスカートがブワッとなって、恥ずかしかったんだろうね。
でも、おっさんは、かっこよかったけどね。
僕はちゃんと見てましたよ。おっさんのこと。