それは六十歳くらいの小柄な老人だった。私はこの老人をひと目見て、深い感銘をおぼえた。
そのまなざしには、なんとも言えない穏やかなものがあった。
こんな善良な心の優しい人間には、これまで会ったことはなかった。
彼は、政府によって、村の信仰を改宗させられた。そして、寺院の建築が始まると、それを焼き払った。
彼はその首謀者の一人だった。それは極めて重大な犯罪だった。それで、この流刑地に送られてきたのである。
彼は陽気な男で、よく笑った。
その笑いは、囚人特有の皮肉な笑いではなく、静かな明るい笑いで、その笑いには子供のような素直さがあふれていて、白髪の顔によく映った。
わたしは笑い方でその人間がわかるような気がする。
ぜんぜん知らない人にはじめて会って、その笑いが気持ちよかったら、それはいい人間だと思って差し支えないと思う。
これは、このあいだ読んだ「死の家の記録」の一節だ(ちょっと短くしてる)。
「笑い方でその人間がわかるような気がする」
僕もそう思う。
笑い方が好きなら、文句なしにその人を好きになってしまう。
男も女も。友情も恋愛も。
やっぱりドストエフスキーの洞察力は優れているなぁ。ほんとに。