ナマケモノ倶楽部主宰の辻信一氏が監修した、タイの少数民族、カレン族の長老ジョニとその子供たちに取材したドキュメンタリー。
「レイジーマン」とは英語で怠け者のこと。カレン族に伝わる民話に登場する、稀代の怠け者ジョッカルに由来します。このジョッカルは、三年寝太郎同様、寝転がっているだけで食べるのすらめんどうくさがる。果物の木の下に口を開けて寝転がり、果実が落ちてくるのを待つ。喉が渇けば雨のしずくを口の中で受け止めることができるまで待つ。日本の寝太郎と違うのは、いざというとき頑張る寝太郎と異なり、ジョッカルは雨水のしずくが自分の口の中に落ちるのを邪魔した虹に腹を立て、虹に向かって刃物を投げつけて欠けさせてしまう。その虹のかけらが草を刈り、畑を耕し、実りをもたらしてくれる。そして最後に彼は王様に。あくまで自然の何かが彼にしあわせをもたらす話になっています。
ジョニは、この話を「自然と共生するカレン族の教えが込められている」といいます。
カレン族は長いこと、森に暮らし、その森で焼き畑農業をおこなって生活してきました。しかし、近代化が進み、焼き畑農業は自然を破壊する行為と目され、森の木々は伐採されてコーヒーなどのプランテーション化が進みました。化学肥料が施され、大量の農薬がまかれ、単一作物の栽培が奨励されました。コーヒーの次は、遺伝子組み換えトウモロコシ。家畜の飼料にするためです。木々のなくなった丘は土砂崩れが起き、村人は飲み水にも事欠くようになりました。トウモロコシは立ち枯れし、農民たちには借金ばかりが残りました。
こうした中、ジョニの息子は、コーヒーの栽培を始めます。栽培法は、以前とは大違いのもの。森の木々の木陰に植え、日陰の植物として育てます。すると、無肥料、無農薬での栽培が成功し、村の産物として成り立つようになりました。名付けて「レイジーマンコーヒー」。ジョッカルが口を開けて作物の実りを待ったように、あえて人間の手を施さず、自然の共生を壊さずに実りがやってくるのを待ったのです。ジョニは、「今こそ、カレン族の教えを全世界が知るべきだ」といいます。
地味なドキュメンタリーですが、世界中の森が危うくなっていて、少数民族の暮らしが成り立たなくなっている現状と、世界規模の趨勢に抗して、なんとか自分たちの文化と暮らしを守るべく奮闘している人たちのいることを知ることができました。ジョニの末娘は、都会暮らしを経験した後、村に戻り看護師として働く一方、村に伝わる伝統的な自然療法を施すセンターを建設し始めています。屈託のない彼女の笑顔は、美しく印象深いものでした。
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