今朝、駅へと歩く道のりで、一瞬、足が止まりました。
ここ数日、みるみるうちにつぼみが膨らんでいた裸の街路樹。
毛皮を着込んだうずら卵ほどにも膨らんだツボミを見ながら、
そうかなぁ、と思いつつ、自信がなかったのですが、
今日、そこからこぼれでた白い花弁に、やっぱり、と思いました。
モクレンです。
モクレンが咲きはじめました。
旅行業を長らくやっている身には、
モクレンが咲けば、ぴりりと気持ちが引き締まります。
このあとは一気に、桜が咲き、桃が咲き、芽吹きがあり、
ゴールデンウィークが始まり、藤が咲き、新緑となり、
…と息つく間もなく忙しくなる季節。
その忙しさに息切れしそうになった春もあったのですが、
でも、去年のあの春を経験して思うのは、
忙しいほうがいいに決まっているということ。
そして、今年がいつもの春と違うのは、
例年なら1月、2月は閑散期。
だからこそ、少しなまった体には、
忙しい日々の始まりを告げるモクレンが、
ちょっと恐怖であったりもしたのですが…。
「2月がいちばん、忙しかったですね」
「ほんと、あっという間だった」
先日、一応この冬のラストランを飾る「弁当販売」の日に、
しみじみと声がもれました。
毎週のように手を変え品を替え取り組んだ弁当販売。
まぁ、とにかく忙しかったのです。
そしてそれは、間違いなく、いいことでした。
その意を強くしたのは、最近読んだ本のなかで、
まったく似たような状況の描写に出lくわしたからです。
人類で初めて南極点に到達したノルウェー人探検家アムンセンが、
2年に及ぶその苛酷な探検の、
一部始終とはいいませんが、かなりの部分を記録した『南極点』。
あまりの面白さに夢中で読んだのですが、
そのなかに無事、南極点到達、そして基地への帰還を果たして、
いよいよ南極を去る船のなかでの感慨が記されます。
この旅でわれわれは二年間共同生活をしてきたのだが、
その間ずっと、時間を滑らかに経過させ、
われわれ全員の活力を常に最高に保たせるうえで、
絶大な貢献をしたのは、死んだ期間とでもいうものが全くなかったことだ。
仕事がひとつ片付くと、次の仕事がすぐに現れた。
ひとつの目標を達成するや次の目標が向こうで手招きしていた。
こんなふうに我々はいつも多忙だった。
そして多忙だと、だれも知っているように、時間は飛ぶように過ぎる。
自身も、忙しさのまっただ中にいた2月。
アムンセンの言葉は、実感をもって響きました。
そしてその忙しさは、ただ座って待っていたのでは
決して訪れなかったということも。
今日3月5日は、啓蟄とのこと。
土のなかで、虫たちがもぞもぞ動き出すように、
私たちも忙しい2月の日々のなかで、
きっと、来たるべき春の準備をしていたのですね。
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