NJWindow(J)

モルモニズムの情報源、主要な主題を扱うサイト。目次を最新月1日に置きます。カテゴリー、本ブログ左下の検索も利用ください。

なぜエバはイブと呼ばれたか?

2016-09-12 23:49:39 | 聖書

[右から≪アダムとエバ>と書かれている]

一般にアダムに与えられた妻はイブと呼ばれ、その名前が定着しており、末日聖徒もモルモン経昭和訳(佐藤龍猪訳)でイヴ(IN5:11)となっていて、その呼び方になじんできた。(但し、明治訳はエバ)。それが平成訳(1995, 2009年とも)でエバとなり今日に至っている。イブとエバでは発音がだいぶ違っているように見えるので、原語(ヘブライ語)を確認し、変遷のあとをたどってみた。

まず、ヘブライ語ではחַוָּהとなっており(創世3:20)、辞書に発音の手引きとして Chawwa とある。カタカナで書けば「ハウワ」が近いが、この[ハ] [chaはチヤではない] は[カ]と区別しにくいきつい喉音 (guttural or uvular fricative 口蓋垂摩擦音)で、ヘブライ語のח(Heth, アラビア語ではحに相当)を表わすものである。(חַוָּה の語根はחָוָהで to breathe, to live)。

このヘブライ語が新約聖書でΕὕα [heua]と表記され(ITim 2:13)、日本語のエバはここから来たものと思われる。なお、七十人訳は意味の上からΖωή (Life)、新約ではΕὕα[Heua] 、ラテン語(Vulgate)では Hava となっている。後世これがKJVでEve となるわけである。14Cのウィクリフ聖書、16Cのティンダル訳聖書でEve となり、この間、語頭の[h]が消失し、母音の[e](エ)が英語読みで[i:] になっていく。邦訳の聖書明治訳はエバと表記されている。

明らかに英語の発音が強く影響している。ほかにモーセのセはゼに、ホサナはホザナに、ヤ行音はジャ行に(例、イエス → ジーザス、エルサレム → ジェルーサレム など)、また、母音[i]が[ai]に変わっている。例、キリスト → クライスト、イザヤ → アイゼイヤ   など)。アーメンをエイメンと言うのも英語読みである。この傾向が日本語にも入ってきているのは、困ったものだと私は思っている。例えば「交差対句法」χιασμός を英語Chiasmusの発音のままカイアズマスと読んだりする。(日本語で「キアスムス」が定着している。)原語でどう読むか、また日本語としてどんな言い方が定着しているかを調べるべきであろう。

その点で言えば、モルモン経の昭和版を出し、教義と聖約を和訳するなど、大きな貢献を果たした佐藤龍猪も、英語の発音をそのまま訳す傾向があったのは、彼の限界であったと言わざるを得ない。例えば、キリストと同時代の歴史家ヨセフスをジョシーファス、彼の「ユダヤ古代誌」を何か辞書から訳を借りてつなぎ合わせたような訳を当てていた。エリヤをエライジャと訳したのも逸脱か後退に思われた。いずれにしても、末日聖徒は独自の用語を使用してもよいという考えに立っていたようで、聖書学、キリスト教神学で定着した用語を参照されなかった。言語については、科学者の氏は聖書の原語に手をつけることまでされなかった。

[追記] 2020.09.23 Facebook 「聖書を原語で学ぶ会」に「ハバはなぜエバに」の質問に答える形で投稿した文

 創世3:20でエバは חַוָּ֑ה とあり、[ハーワー]と発音されます。語頭(右端)の ח は「へート」で硬いハ行音です。それは新約ギリシャ語でΕὕα[Heua]となり(ITim2:13)、ブルガタ聖書(ラテン語)でHava とされますが、14Cウィクリフ訳、16Cティンダル訳、17CKJVで Eve となっていきます。この間に[h]が消えていることが分かります。

 ほかにエノクもヘブライ語ではハノークであったのが、hの音が消え、アブラハムのハもギリシャ語で消えている例があります。アベルもヘブライ語でヘベル。

 ハ行音は言語によって消えることがあり、エバもその例と考えられます。

 (注、ヘブライ語の硬い口蓋音ヘートは軽い「へー」ה と入れ替わることがある、とあるラビは説明しています。aish.com。そのこともあって、消えていく道をたどったと考えられます。)

邦訳聖書は漢訳聖書の影響を受けているので見てみますと、現代語訳に通じる1919年の訳でエバは夏娃 [xiawa シアワ]となっていて、夏は音読みで「カ」ですからヘブライ語の「ヘート」を音訳した可能性が感じられます。しかし、ではなぜ邦訳でエバとなっているのかという問いが残ります。

独語のch とヘブライ語のヘートは近いように思いますが、もっと喉の奥で発音されるのだろうと理解しています。

 

 



最新の画像もっと見る

23 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
エバって聞いたような ()
2016-09-13 11:16:28
記憶違いかもしれませんが、神殿ではかなり前から「エバ」だったような気がします。

モルモン書は、神殿に合わせて翻訳を変更したのかな?
って思うんですけど??


モルモンは、基本的に英語版のモルモン書が最も正確だとしているので、英語読みに近くなるのは当然の事だと思います。


ジョセフが大阪の人だったら、「エバはん」が「おばはん」に成ってたかも?
返信する
エヴァンゲリオン (オムナイ)
2016-09-13 13:41:05
イブ/エバの詳細な説明興味深かったです。

そういえばオムナイ(omni)は普通オムニと発音するのにとつらつら考えたことがあります。
オムニという科学雑誌があったり、香水とか時計もあったかな。
(脱線)

イブ/エバ問題ですが有名な「エヴァンゲリオン」は福音という意味らしく、縮めた言い方「エヴァ」はイブ/エバを連想させているとか。

今後はアダムとエヴァが定着するのかもしれなくもないかも。。
返信する
オムニさん ()
2016-09-13 15:56:55
>そういえばオムナイ(omni)は普通オムニと発音するのにとつらつら考えたことがあります。

オムニと言えばロボコップですかね?

森羅万象すべての事に精通しているオムナイさんは、「オムニさん」って呼ぶべきですね。
返信する
omni7 (オムナイ)
2016-09-13 17:27:41
私の場合は「知らん万障」なんで。。諸説あります的にお汲み取りください。

最近もコンビニのセブンイレブンでomni7の文字を見つけておっ?と。。

オムニバスと無関係ではないらしい。
オムニ・バスのバスは乗り物のバスの語源とか。

https://ja.wikipedia.org/wiki/オムニバス

オムニバス(omnibus)は、元々、ラテン語で「すべての人のために」を意味する語で、1826年以降にはそこから派生して「乗合馬車」の意味も加わったと言われる(語源の詳細は乗合馬車を参照)。公共交通機関のバス(bus、英語)の語源にもなった。
〜〜〜〜

モルモン書は「すべての人のために」書かれた書物。
だからオムニバス形式だったのだ!!(諸説あります)

脱線失礼。
返信する
モルモン書英語版では (たまWEB)
2016-09-13 18:06:31
最後のページに、登場する固有名詞の発音ガイド(記号)が載せられてます。OMNIはオムナイですかぁぁ。

いつからなのか?? 最初の版からか?
研究者によると、デビド・ホイットマー、エマ・スミス両者共に、ジョセフの翻訳の口述を筆記する時、ジョセフは、スペル・つづりに注意をはらっていて、そのジョセフが言うところのつづりを書いたと言ってたという話。その時、ジョセフは如何様かに発音したんでしょうね・・・
その変遷など、詳しくは・・・http://publications.mi.byu.edu/fullscreen/?pub=1395&index=11
どなたか有志に翻訳でも・・・
返信する
英語モルモン書最終ページに (たまWEB)
2016-09-13 18:18:16
固有名詞発音リストが・・・OMNIはやっぱオムナイですかぁぁ・・・おそらく最初の版からこのリストはあったのかも・・・
研究者によると、ヒュー・ニブレーいわく、筆記者であったデビド・ホイットマー、エマ・スミス両人共、ジョセフの翻訳の口述では、ジョセフはスペル・つづりに注意することがしばしばあったとのこと。
・・・想像するに筆記者はジョセフの口述を書き下して、それを読み上げるわけですが、スペルも言わせたんでしょうね、聞きなれない固有名詞は・・・

http://publications.mi.byu.edu/fullscreen/?pub=1395&index=11
誰か有志、翻訳でも・・・
返信する
オムニチャンネル ()
2016-09-13 18:48:22
>最近もコンビニのセブンイレブンでomni7の文字を見つけておっ?と。。

それって、オムニチャンネルってやつじゃないですか?

総合的結合(接合)?かな?

いろんな方法で商品が買えますよって・・・たぶん???。
返信する
初めてコメントさせて頂きます。 (二世会員Y)
2016-09-13 23:53:04
NJ様

初めてコメントさせて頂きます。
このブログから新たな知識を得られ感謝致します。

私は最近、知識を得るに連れ、モルモン書はジョセフスミスの創作説に気持ちが傾きつつあります。

ただ、一点気がかりなこととしまして、金版を見たという複数人からの証言が記録されています。(FairMormonの記事などから)

ジョセフスミスがわざわざ作ったのでしょうか?

ブログの記事に関係ない質問で大変申し訳ないのですが、NJ様はどのようにお考えですか?
返信する
Unknown (教会員R)
2016-09-14 21:13:38
NJさんの意見ではありませんが

ジョセフの金版は信仰の手で触れ、信仰の目で見て、聖見者の石を使用して翻訳されるようなものだったと私はそう捕らえています。

ですから、ジョセフスミスと同じ信仰の目や手によって、彼らも見たり触れることができたと見ています。

彼らの表現方法については、学術的な誠実性を批判されても仕方がないかも知れません。

どちらにせよジョセフスミスによって英文がもたらされたわけですから、考古学者たちに馬鹿にされるかどうかの違いはあっても、霊的な値打ちは普遍のものでしょう。

(そうではない、金版の素材は正真正銘の物的Au(24金)だという信仰の方ももちろんすばらしいと思います)

NJさんはどちらでもないかも知れません。
返信する
教会員Rさん (二世会員Y)
2016-09-15 15:59:50
コメントありがとうございます。
信仰の手で触れ、信仰の目で見てというのは、どう解釈して良いのか、理解に苦しみます。

金版はあったのか、無かったのか、結局はどちらを信ずるか、個人の自由と言うことなのでしょうか。

200年近く前の出来事ですので不確定要素が多いですが、真理の探求は続けたいと思っています。

ありがとうございます。
返信する